水から考える持続可能な会社づくり社会づくり⑤

ESG投資②:運用資産総額は8,900兆円超に到達

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の側面から企業を評価して投資先を選ぶのがESG投資です。前回はこのうち「E(環境)」の水リスクの現状を紹介しました。今回はその他の水リスクも含めて整理します。

水が原因で企業ブランドが棄損するリスクも

さて、皆さんは「水リスク」と聞いたとき、どのようなリスクを想像されるでしょうか。

汚れた排水を流して川を汚染してしまった。
川の水が汚れて利用できなくなった。
洪水に見舞われて工場生産が停止した。
渇水に見舞われて工場生産が停止した。

このような事態を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。国際NGOであるCDPによると、それらのリスクは「物理的リスク」に分類され、「水不足や水の過多、使用に適さない水質または水を摂取できないリスク」として定義されています(図1)。

 

図1 水リスクの定義(CDP:CDPウォーターレポート2017日本版より筆者作成)

前回もそういったものを中心に紹介したのですが、1事例だけ毛色の異なるリスクが含まれていました。重複しますが、以下に示します。

「アジア地域所在の工場で、約50万リットルの地下水を日次でくみ上げ、清涼飲料水を製造。くみ上げが進んだ影響から、一定期間経過後、工場周辺の住民の飲料水や生活用水が枯渇し、水質汚染も進んだ。この事態に直面した地元関係者は、当社に対し、強い抗議活動を行った。結果として、当社は、裁判所から地下水のくみ上げの停止が命じられ、原料を調達できなくなった工場を閉鎖。さらに、抗議活動は当社の本社所在国にも飛び火し、年次株主総会の会場前には抗議のため多数の関係者が詰めかけたほか、特定の地域において当社商品の販売禁止を求める運動等も生じた」※1

この事例は、もともとは水の枯渇や水質悪化という物理的リスクに起因するものですが、結果的に問題を起こした会社の商品の不買運動にまで発展しました。

消費者は常に企業の水に対するふるまいを見ています。そのふるまいが悪いと見なされれば、一気にその企業のイメージは悪化し、企業ブランドも低下してしまいます。これもまた、水リスクの1つなのです。そのことを、これからの企業は認識しておかなければなりません。

CDPはこの水リスクを「評判リスク」とし、「水に関して企業が適切または責任あるタイトで事業を行っていないとみなされるリスク」として定義しています。(図1)

その他にもう1つ「規制リスク」があり、「水に関する政策または規制の変更や欠如または不安定に伴うリスク」と定義されています。つまりCDPによると、水リスクは「物理的リスク」、「評判リスク」、「規制リスク」の3つがあり、それらによって「水に関連する課題がビジネスの実現性を損なう可能性」を水リスクとして定義されています。(図1)

様々な要因とリスクが複雑に関連

 ここまで見てきたCDPが考える水リスクは、 企業の立ち位置で定義・分類されたものです。しかし、実際には私たち一人一人の生活者も、水リスクの影響を受けます。そこで、水リスクのコンサルティングを手掛ける八千代エンジニヤリング株式会社水リスクマネジメント室では、水道料金の上昇なども考慮して、水リスクを「操業リスク」、「財務リスク」、「法的リスク」、「風評リスク」の4つに分類しています。

それらのリスクが引き起こされる原因と結果が関連付けされたものが図2です。ご覧いただければ分かるように、1つの原因から1つのリスクが生じるのではなく、様々な要因と様々なリスクが複雑に関連しあっています。どれか1つのリスクだけを考えていては、多様化する水リスクには対応できない時代になっているのです。

図2 多様化する水リスク※2

ESG投資を加速した国連のPRI

 時代をさかのぼると1920年代にはすでに、キリスト協会が酒やタバコなど倫理的に反する企業への投資を行っていませんでした。それは、社会的責任投資(SRI)と呼ばれ、時代が進むにつれてテーマが銃や環境にも広がっていきました。ですから、ESG投資が誕生する以前から、その理念は培われていたわけです。

 ESG投資が世界的に認識されたのは2006年です。当時の国連のアナン事務総長が、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(PRI、Principles for Responsible Investment)を提唱したことがきっかけでした。

 PRIは、6つの原則で構成されています(表1)。

表1 PRIの6原則※3

PRIの提唱を受け、ESG投資を行う機関投資家が、こぞってPRIに署名しています。それによって「私たちはESG投資を行います」と宣言しているのです。もちろん署名しないままESG投資を行っても良いのですが、それでは誰がどこでどの程度取り組んでいるかが私たちには見えません。PRIを作り、それに署名することで、初めて知ることができます。それによって、ESG投資という投資行動が私たちにも見えるようになり、その存在や意義が意識されるようになるのです。

日本では少し動きが遅かったのですが、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名したことで、一気に関心が高まりました。GPIFは約140兆円を運用する世界最大規模の機関投資家ですから、大きなインパクトを与えました。

2018年6月22日現在、PRIへの署名機関は2,006社(うち日本は62社)※4、運用資産総額は82兆ドル(8,900兆円超)に達しています※5。これは東京証券取引所の時価総額635兆円(2018年10月31日)※6の約14倍に相当します。

かつて環境と経済が対立すると考えられていたのと同様に、投資においても環境や社会に配慮した投資は成長につながらないということでメーンストリームではありませんでした。しかし、現状を見る限りメーンストリームになったと言えそうです。

(Mizu Design編集長:奥田早希子)

※1 「水ビジネスの国際展開に向けた課題と具体的方策」経済産業省水ビジネス国際展開研究会 
※2 八千代エンジニアリング株式会社作成
※3 水口剛:ESG投資 新しい資本主義のかたち(日本経済新聞出版社)
※4 Quick ESG研究所:国連責任投資原則(UNPRI)の署名機関 2000社を超える~日本は62機関、世界10位~
※5 野村證券金融経済研究所:あるべきESG投資の姿とは
※6 日本取引所グループ:株式時価総額

第4回「ESG投資①:いい会社は水の「質」と「量」に対応する」
第6回「CDP①:企業の「水」情報を開示し、ランキング」

※本連載は月刊「用水と廃水」への投稿を、発行元である産業用水調査会のご厚意により転載したものです。