水から考える持続可能な会社づくり社会づくり④

ESG投資①:いい会社は水の「質」と「量」に対応する

前回までに解説してきたSDGs(持続可能な開発目標)を無視して企業経営ができない時代が始まろうとしています。それと表裏一体の動きとして捉えておくべきキーワードが「ESG投資」です。今回からESG投資を考えていきます。

いい会社の決め手となる非財務情報

ESG投資を簡単に説明するなら、金融を通して持続可能な企業を育てることと言えます。金融と聞くと投機的な悪いイメージを持つ人も少なくないかもしれませんが(実は筆者もその1人でした)、その仕組みを使って“いい会社”を育てることができます。その機能に今、世界中の投資家が関心を寄せているのです。

では質問です。“いい会社”と言われた時、どんな会社を想像するでしょうか。売り上げが高かった企業ですか? ヒット商品を販売している企業ですか? 誰でも名前を知っている超有名企業ですか?

判断基準は人それぞれあると思いますが、利益を多く出している企業だと答える人は多いのではないでしょうか。確かに企業が持続するために利益は欠かせません。しかし、いくら多くの利益を上げていても、例えばフロンガスのようにオゾン層を破壊する化合物を扱っている企業を容認できますか? できませんよね。雇用差別があったり、検査不正があったりしても同じことです。いくら短期間に大きな利益を上げていても、社会的に許されない行為している企業は“いい会社”とは言えません。

そうした企業は長期的には持続できない可能性が高いのです。いずれ潰れてしまう企業に投資しても、その投資は無駄になってしまいます。ですから、財務情報だけではなく、それ以外の要素(非財務情報)も含めて企業の価値を評価し、長期的に持続可能な企業に投資しようという動きが出てきているというわけです。

ESGとはこの非財務情報のことで、「E」はEnvironment(環境)、「S」はSocial(社会)、「G」はGovernance(企業統治)のことです。ESG要素を重視した経営はESG経営、ESG側面も評価して投資判断することはESG投資と呼ばれます。

 ESGの各要素にどのような課題があるのかを図表1にまとめました。それらをSDGsと対比してご覧いただくと分かるように、各項目への取り組みがSDGsのゴールの達成につながっていきます。

図表1 ESGに関連する課題例

求められる洪水に強いサプライチェーン

 では、ESGのうち「E」に関連する水リスク対応について見ていきましょう。

水リスク対応というと、真っ先に思い浮かぶのは、工場の排水処理ではないでしょうか。それはもちろん大切ですが、日本企業にとっては当たり前の一丁目一番地でしょう。最近ではそうした水の「質」への対応だけではなく、洪水が発生しても本社や工場の機能を継続し、サプライチェーン(供給網)を維持させられるような「量」への対応も求められています。

2011年10月にタイで発生した洪水では、約450社の日本企業を含む800社超が被災し、ハードディスク駆動装置が世界的に品薄になりました。今年の西日本豪雨でも、マツダやダイハツ工業、パナソニックなど多くの企業が稼働停止に追い込まれました。こうした状況を背景として、洪水など災害に強い組織づくりも“いい会社”の要素となってきています。

水需要の増大で処理水や雨水活用に期待も

洪水は水の量の“過剰”という問題ですが、一方で水資源の“不足”や“枯渇”への対応も欠かせません。日本だけを見ると人口減少や節水機器の普及など水の使用量を減少させる要因が多いのですが、世界的に見れば人口増加、さらには生活水準の向上に伴ってまだまだ水の使用量は増加していくと予測されています。2025年には全世界の取水量は、2000年と比べて約3割増加すると見込まれており、特に人口増加の著しいアジアがその6割を占めるとの試算もあります(図表2)※1

図表2 地域別取水量の推移※1

世界第4位の湖水面積を誇っていたアラル海が、旧ソ連時に行われた灌漑政策の影響で2014年にほぼ消滅してしまったという出来事を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

その他にも水リスクが企業活動に大きなマイナスの影響を及ぼした下記のような事例も報告されています。※2

「アジア地域所在の工場で、約50万リットルの地下水を日次でくみ上げ、清涼飲料水を製造。くみ上げが進んだ影響から、一定期間経過後、工場周辺の住民の飲料水や生活用水が枯渇し、水質汚染も進んだ。この事態に直面した地元関係者は、当社に対し、強い抗議活動を行った。結果として、当社は、裁判所から地下水のくみ上げの停止が命じられ、原料を調達できなくなった工場を閉鎖。さらに、抗議活動は当社の本社所在国にも飛び火し、年次株主総会の会場前には抗議のため多数の関係者が詰めかけたほか、特定の地域において当社商品の販売禁止を求める運動等も生じた」

企業活動には水資源は欠かせないものです。だからこそ第2のアラル海を生まないよう、水資源の枯渇という課題への対応がこれまで以上に求められているのです。例えば下記に示した水リスクの回避策を講じる企業もあり※2、処理水や雨水の利活用などは世界的に関心が高まっていく可能性がありそうです。

「本業における水資源の重要性を踏まえ、水質低下や干ばつ時の水不足等の課題に対処するため、ワーキンググループを設置。水資源保全に向けた戦略の策定等に取り組んでおり、その一環として、工場の安定かつ持続的な稼働を目的に、複数の工場において水資源の利用効率を高めるシステムを導入」

「大量の水を使用する工場の安定かつ持続的な稼働を目的に、干ばつ時の水不足等に備え、その水源(地下水)地帯に約 3 万箇所の雨水浸透溝を構築。雨水循環を促進し、地下水を効果的に確保することで、無駄のない雨水の活用を企図」

環境課題と社会課題の同時解決も

「S」(社会)の課題解決が「E」(環境)の課題解決につながった事例もあります。デニムメーカーのLee Japanの製品を加工する豊和株式会社(岡山県倉敷市)では、デニムの洗浄工程で次亜塩素酸ナトリウムを使う代わりに、オゾン脱色やブドウ糖の還元力を利用するエコブリーチという手法を開発しました。(Lee Japanの水への思いはこちらの記事から。「No Water, No Denim and No Future?」細川秀和Lee Japan株式会社取締役)

 それまで作業場は塩素臭が充満する厳しい労働環境だったそうですが、新手法によって改善されました。同時に排水処理の負荷を減らすことにもつながり、EとSの両面で成果を上げています。

このように1つの対策を複数の課題解決につなげていく視点が、ESG経営には重要と言えるでしょう。

「用水と廃水」8月号より)
(MizuDesign編集長:奥田早希子)

参考資料
※1 「水ビジネスの国際展開に向けた課題と具体的方策」経済産業省水ビジネス国際展開研究会 

※2 「ESG検討会報告書」環境省持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会

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