【鼎談】地下と地上の協働によるまちづくり(上)

雨に強いまちづくりは待ったなし

気候変動により雨の降り方が激甚化する中、2018年12月1日に気候変動適応法が施行された。雨に強いまちづくりは待ったなしの状況だ。しかし、下水道のハードによる内水対策にはコスト面でも限界がある。今後は自助・共助を含めた雨水対策が求められており、「地下=下水道」と、「地上=都市開発」の協働への期待は大きい。雨水対策を中心に、地下と地上の協働の可能性について、加藤裕之氏・国土交通省下水道部下水道事業課長、渡辺荘児氏・森ビル株式会社設計部設備設計グループ専門課長、三輪恭之氏・森ビル都市企画株式会社調査企画部部長補佐に議論していただいた。(いずれも肩書は鼎談2018年7月6日当時)

※2019年2月21日に下水道とまちづくりに関するシンポジウムが開催されます。渡辺氏が登壇されます。本鼎談の詳細を知りたい方は記事下の案内をご覧のうえぜひご参加ください。

六本木ヒルズのグリーンインフラの取り組みを象徴する屋上庭園にて。加藤裕之氏・国土交通省下水道部下水道事業課長(中央)、渡辺荘児氏・森ビル株式会社設計部設備設計グループ専門課長(右)、三輪恭之氏・森ビル都市企画株式会社調査企画部部長補佐(左)2018年7月6日撮影

■雨水対策の公助・共助

都市との連携で雨水活用を_加藤氏
雨水利用の用途拡大を_渡辺氏

――下水道事業における雨水対策の現状についてお聞かせください。

加藤氏 下水道の雨水対策におけるポジションは、ブリッジ、橋渡しだと考えています。都市で降った雨を下水道で受け、川に流します。都市と川をつなぐところに下水道があります。
しかし今、特に都市部は川幅を広げられなくなっていて、その一方で雨の降り方が激しくなっています。地面への雨の浸透も減っています。そうなると下水道で受けるしかありません。

受けた雨をどうマネジメントするかに工夫が求められています。下水道の計画では1時間の降雨量が50mmの雨への対応を目指していますが、進捗率は面積で約65%。まだまだ遅れています。

雨が強くなり、水量が増える、地下街も増え、しかしお金はない。いかに安く早くやるかが工夫のポイントです。

貯留してピークカットしたり、官民連携も大きなテーマです。平成27年の法改正で、民間が設置した貯留施設を自治体が管理できるようになりました。すでに横浜市と藤沢市でプロジェクトが進んでいます。

官のハード中心の対策は大きさの面で柔軟性がなく、雨のピークに合わせた施設を作ると非効率です。ある程度までは官が整備しますが、民間にも雨水貯留していただいたり、危険な時は逃げてもらったりする。自助・共助・公助を組み合わせた雨水対策を進めています。

 また法改正時に、国土交通省都市局と連携し、民間が貯留施設を設置した場合、公的貢献をしたということで容積率を緩和することを通知しました。

これまで地上と地下の連携は少なく、都市計画のマスタープランに水のことはあまり書かれていないと思います。それが法改正を機に、地下と地上、下水道と都市のつながりが生まれつつあります。

 ――森ビルでは都市開発を手掛ける中で、どのような雨水関連の取り組みをされているのでしょうか。

渡辺氏 雨水流出抑制の対策は、行政指導がありますので、それに基づいて行っています。東京都では1ヘクタールの開発に対して600m3の雨水を、貯留したり浸透したりすることとされています。地下に浸透させるのが基本だとは思いますが、都市部では難しいので貯留槽を設けることがほとんどです。

六本木ヒルズでは、11ヘクタールの開発エリアに対し、14カ所の貯留槽を設置しています。今後はエリア外の道路に降った雨も、エリア内で活用していければと考えています。

その他、下水熱利用も考えています。再開発に当たって道路を作ったり、下水道を整備したりするので、せっかくなら下水道管に熱交換器を入れて下水熱も利用できるようにしたい。法改正で下水道管の内部に民間が熱交換器を設置できるようにもなりました。地域冷暖房の一部として下水熱を使おうと考えています。

しかし道路占用料金などの負担が今後どうなるかによって事業性が成り立つか課題があります。低炭素化のチャレンジなので、緩和措置が出てくることに期待しています。

――雨の降り方が激しくなる中、官だけではできないこともあり、民間資金の活用はこれからますます重要になりそうです。

加藤氏 官民連携はもちろん必要です。時間降雨量50ミリの雨はハードで受けることを基本としていますが、最近は100ミリを超す雨も増えています。その差分を誰かに受けてもらわないといけない。となると、地上に面的に存在する民間の方々に降った場所で雨を貯めてもらい、ピークをカットして、時間差をつけてもらうしかありません。

渡辺氏 これからの新しいプロジェクトでも、雨水は積極的に貯留して、再利用したいと思っています。

ただ、昔はいろんな用途に使えたのですが、最近は衛生的な管理が十分ではなかったからか、規制が厳しくなってきています。トイレの洗浄水には使っても良いのですが、屋上の冷却塔の補給水には使えなくなりました。レジオネラ菌の飛散が懸念されているようです。

森ビルの開発事例ではでは、年間を通して水使用量の5~10%くらい、トイレの洗浄水の約10~35%程度を雨水で賄っています。もっと多様な用途に使っていきたいと思っています。

――貯留した雨水を雨が止んだら地下に浸透させるのではなく、利用することが大切です。

加藤氏 貯めた雨水は、ぜひ再利用していただきたいと思います。貯めるだけでは価値はないでしょう。その点、日本は遅れています。

オーストラリアやドイツは、雨水の再利用とは言わず「ハーベスト」と言っています。リサイクルではなく、耕して付加価値を付けるという発想です。その発想で考えると、雨水の利活用が進みそうな気がします。

――森ビルでは雨水利用はどの程度進んでいるのでしょうか。

渡辺氏 森ビルが手掛けた物件では、必ずと言っていいほど行っています。排水の再生利用に比べれば、比較的簡単に取り組めます。

雨水は蒸留水ですから、カルシウムなどがほとんど含まれていません。水道水のようにスケールが析出することが少なく、先ほど述べた冷却塔の補給水としては水道水よりも使いやすいという面もあります。滅菌、殺菌はきちんとしなければなりませんが、再利用の用途はもっと広がってほしいと思います。

■グリーンインフラ

ヒートアイランド解消に期待_加藤氏
コミュニティも創出_三輪氏

――最近、グリーンインフラへの関心が高まっています。都市づくりにおいてグリーンインフラはどのような価値をもたらすでしょうか。

加藤氏 これから地方都市で人が減って、空間が生まれてきますから、そこにグリーンインフラを整備する可能性はあるでしょう。

都市部においても、もちろんグリーンインフラには期待しています。ハードのいわゆるグレーインフラだけで雨水対策をすると、コスト的に限界があります。グリーンインフラでピークカットをし、グレーの投資を抑えられると考えています。

また、グリーンインフラは、雨が降らない時もグリーンとしての価値があります。ガーデニングが流行っていますから、グリーンをきっかけに都市にコミュニティを生む可能性もありそうです。地下の雨を植物が根から吸収し、葉から蒸発させることで、ヒートアイランド対策にもつながるかもしれません。

技術面での勉強はまだまだ必要ですが、いろんな可能性を持っていると思っています。

――下水道政策においてグリーンインフラはどのように位置づけられているのでしょうか。

加藤氏 新下水道ビジョン加速戦略に、グリーンインフラの取り組みを明記しました。グリーンインフラでピークカットし、グレーの投資を減らす。地上と地下のコンビネーションで、互いに補完し合えると考えています。植栽への財政支援などにはすでに取り組んでいますが、大規模で計画的な取り組みはこれからです。まずは横浜市のようにグリーンインフラを政策として明確に位置付けている自治体を後押ししていきたいと思っています。

――六本木ヒルズは緑が多いですが、森ビルではグリーンインフラにどのように取り組んでおられますか。

三輪氏 グリーンインフラという呼称が最近よく使われるようになりましたが、森ビルはバーティカルガーデンシティ(立体緑園都市)を都市づくりの基本理念として再開発に取り組んでいます。

①細分化された土地を集約し、②高層化した建物の地下も活用しながら都市機能をコンパクトに収めることで、上にオープンスペースを生み出し、緑や憩いの場を積極的に創出しています。

アークヒルズでは植栽が育って、緑被率が建設当初の23.3%から最近では43.8%まで増加しています。

その結果、再開発エリア内は周辺より温度が低く、ヒートアイランド対策にもつながっています。また、ガーデニングが趣味の人たちのコミュニティも生まれています。

加藤氏 なぜそこまでの取り組みをされるのですか。

三輪氏 グリーンインフラも含め、より安全安心な空間を提供し、多くの人を惹きつける磁力のある街を目指しているからです。六本木ヒルズには10万食分の非常食があります。耐震性も充分で、ヒルズで働く人、来訪者、居住者だけではなく、災害時には帰宅困難者も受け入れる「逃げこめる街」となっています。独自のエネルギープラントによって災害時にも極めて安定的な電力供給を実現しているため、東日本大震災の際にも入居テナントの業務継続に支障が出ませんでした。

こうした公共貢献を手厚くすることで、被災しても事業継続を重視する企業に選ばれる街となっています。

(つづく)

進行:Mizu Design編集長 奥田早希子

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています


本鼎談の中身を詳しく知りたい方はぜひ下記イベントにご参加ください。

【シンポジウム「下水道に新たな風を」】

日時:2019年2月21日(木)9:30~12:30
場所:日本下水道新技術機構8階会議室(東京都新宿区水道町3番1号 水道町ビル)
プログラム:
 ①下水道業界への招待:九州大学 名誉教授 楠田哲也氏
 ②CO2削減に向けた都市づくり(仮称):森ビル株式会社 渡辺荘児氏
 ③下水道事業において求める技術像と技術開発:国土交通省
 ④他分野企業からの技術紹介
参加費:無料
申込はこちら

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