【鼎談】地下と地上の協働によるまちづくり(下)

下水処理場から地域を活性化したい

雨水対策を中心に、地下と地上の協働の可能性について、加藤裕之氏・国土交通省下水道部下水道事業課長、渡辺荘児氏・森ビル株式会社設計部設備設計グループ専門課長、三輪恭之氏・森ビル都市企画株式会社調査企画部部長補佐に議論していただいた。後編をお届けする。(いずれも肩書は鼎談2018年7月6日当時)

※2019年2月21日に下水道とまちづくりに関するシンポジウムが開催されます。渡辺氏が登壇されます。本鼎談の詳細を知りたい方は記事下の案内をご覧のうえぜひご参加ください。

加藤裕之氏・国土交通省下水道部下水道事業課長(左)、渡辺荘児氏・森ビル株式会社設計部設備設計グループ専門課長(中央)、三輪恭之氏・森ビル都市企画株式会社調査企画部部長補佐(右)2018年7月6日撮影

■処理場リノベーション

下水処理場を地域の拠点に_加藤氏
 

――下水道を核とした都市の将来像をお聞かせください。

加藤氏 下水処理場を地域活性化の拠点として再整備する「処理場リノベーション」という構想を打ち出しています。

下水処理場で地域の資源を活用し、そこから電気や熱などのエネルギーを生み出し、それらを地域に還元し、被災時には人が集まってくる。下水処理場を、そうした拠点にしていきたいと思っています。

これから広域化が進むと1つの下水処理場に入ってくる下水量が増え、資源量も増えます。そこから電気を作って売電し、FITも活用しながら採算ベースに乗せ、民間活用もしてエネルギー拠点とする。東日本大震災では停電して大変でしたから、非常時には下水処理場が電力を提供するという構想です。

広域化し、資源を集め、電気などエネルギーを供給し、地震にも強い施設にする。コンセプトは森ビルと似ています。

――品川シーズンテラスでは、下水道施設の上部に商業施設が建っています。下水処理場の上部空間はまちづくりにもっと生かせそうです。

渡辺氏 後楽森ビルは、後楽ポンプ所の上部空間に建設しており、下水熱も利用しています。(※東京下水道エネルギー(株)が熱供給事業を担当)

加藤氏 バーティカルガーデンシティの地下に下水処理場があり、処理水や下水熱など下水道資源を地上で使ってもらうというイメージですね。地方都市でも、コンパクトシティ化した際の中核都市では取り組めるのではないでしょうか。

地方都市においては今後、サーキュラーエコノミーの構築が重要になってくるでしょう。資源とお金、そして人を域内でいかに循環させるかが求められます。

その際、下水道に何ができるのか。下水処理場を拠点として、下水道資源を集め、再利用し、電気を生んで、地域で使う。そうすることで、地域のお金が地域外に出ていかなくなります。地方都市において下水道は巨大な産業ですから、下水道はまちの拠点になりうると考えています。

コンセッションを導入した浜松市では、民間アイデアによって下水道資源でウナギ養殖に取り組もうとしています。下水道事業は顧客数が見えているので、旅行者数が変動しやすい空港などと比べてローリスクローリターンのコンセッションだと思います。そうした中で稼げるのは、サイドビジネスではないでしょうか。下水道資源を使って地域経済のためにもなるような民間のアイデアと取り組みに期待しています。

■付加価値の創出

下水情報の活用を_加藤氏
人の交流でイノベーションを_三輪氏

――官民連携、地下と地上の連携は、多様な付加価値を生みそうです。

加藤氏 安全安心なまちづくりと言われますが、そのうち安全については安全率など数値で示すことができますが、安心は気持ちの問題なので難しい。官は地下にインフラを整備して安全は作れますが、その上部空間に集まる人に安心感や癒しといった付加価値を与えられるのは地上の民間ではないでしょうか。安心なまちは、地下の下水道だけではなく、地上の民間ノウハウを借りないと作れないと思います。

三輪氏 入居者や来訪者に対して安心感や快適さを提供することに強くこだわっています。安全安心なまちづくりで、地上と地下はもっと協力できるのかもしれません。

加藤氏 バーティカルガーデンシティというのは、1つの面的な空間を縦に使い、多機能化していると考えることができます。地下に下水道があってエネルギーを創出し、その上部にもいろんな機能を作る。都市部では特にこれから広く土地を使えなくなるかもしれませんので、まちづくりは縦の多機能化の方向にあるのかもしれません。

三輪氏 都心の限られた空間に都市機能をコンパクトに集約するメリットとして、移動時間ロスを減らせることと、多種多様な人々の交流によりイノベーションが生まれることが挙げられます。下水道分野の方々も加わっていただければ新たな連携が生まれるかもしれません。

加藤氏 多機能な場に多様な人、異業種が集まる。これからの下水処理場はそうした“交差点”となって、イノベーションが生まれる場、日本の産業活性化につながる拠点になっていけると思っています。

以前、情報系の会社で講演をしたことがあります。なぜ下水道に携わる私に声をかけたのかと聞いたら、見えるモノの価値は誰にでも分かる、だから見えない下水道の情報にこそ価値があると言われました。

確かに下水を分析すると、そのエリアにどういう人が住んでいるかや、食べ物の志向であったり、ノロウィルスが発生しそうだということが分かります。海外では麻薬の捜査に下水の情報が使われている例もあります。我々も下水情報のデータベース化に着手したところです。そういう話をしたところ、非常に驚かれていました。

下水道は見えない施設なので、我々としてはもっと見てほしいと思っています。一方で、異業種の中には、その見えないところに価値を見出そうという方がいます。見えないところにビジネスチャンスがあると考えてもらえれば、何かイノベーションが起こりそうな気がします。

三輪氏 官民連携の視点で見ると、有用な下水情報を民間に提供する代わりにデータベース化を民間資金で進めることもできるのではないでしょうか。下水の情報にはこれまで気づいていない新たな価値がありそうです。

――マンホールを情報拠点にしようという動きもあります。

加藤氏 マンホールにセンサーを設置して、下水管路内の水位を測ったりする取り組みも始まっています。

しかし、下水に隠された見えない情報はまだまだ多い。これまで整備中心で進めてきましたが、今後は情報の利活用も必要です。データベース化を進める一方で、その情報をどう使っていくかについては異業種の民間のアイデアに期待しています。

――地下と地上、官と民が連携し、イノベーションを起していくために、下水道に関わる若手にエールをお願いします。

加藤氏 既成概念にとらわれないでほしいですね。下水道は持続と進化が必要と言われますが、進化や変化なしに持続はないと思っています。

今のままでは持続はできません。積極的に異業種と交流し、交差点に足を踏み入れる勇気を持ってほしいです。

下水道事業は成長し、エントロピーが増えて乱雑になってきています。どこかで切り替えないと、システムも組織も業界も老朽化していくだけです。新しい秩序が求められています。今こそ、その切り替え地点にいるのです。

――本日はありがとうございました。

進行:Mizu Design編集長 奥田早希子

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています

【鼎談】地下と地上の協働によるまちづくり(上)


本鼎談の中身を詳しく知りたい方はぜひ下記イベントにご参加ください。

【シンポジウム「下水道に新たな風を」】

日時:2019年2月21日(木)9:30~12:30
場所:日本下水道新技術機構8階会議室(東京都新宿区水道町3番1号 水道町ビル)
プログラム:
 ①下水道業界への招待:九州大学 名誉教授 楠田哲也氏
 ②CO2削減に向けた都市づくり(仮称):森ビル株式会社 渡辺荘児氏
 ③下水道事業において求める技術像と技術開発:国土交通省
 ④他分野企業からの技術紹介
参加費:無料
申込はこちら

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