海外では民営化した水道事業の再公営化が主流であるかのような報道が一部に見られるが、前回紹介したようにレポート「フランスの上下水道事業の再公営化・コンセッション化の状況について」では、フランスでは水道事業の再公営化とコンセッション化が同数であったことが明らかにされた。同レポートをまとめたEY新日本有限責任監査法人の福田健一郎氏に、同レポートで伝えたかったことなどを聞いた。
データに基づいた客観的な議論を
――レポートをまとめようと思ったきっかけは。
「改正水道法が昨年12月に成立するまでの過程で、とりわけコンセッションについては慎重な議論がなされた。一般メディアでは『海外では水道事業を再公営化する動きが主流だ』、それなのに『逆に民営化を進める周回遅れの制度』などの報道も見られた。
個人的には、上下水道事業の運営形態は様々あり、その中から自治体が最適なものを選択すべきと考えている。民だから駄目、ではない。慎重に見極める必要がある。
本レポートではフランス生物多様性機構水・水生環境局(ONEMA)が2015年時点のデータを用いて作成した年次報告書(18年発刊)を基に、コンセッションの先進地であるフランスに焦点を当て、データに基づいて客観的に現状を整理した。日本の上下水道事業の今後を冷静に考える参考になると考えた」
官でも民でも求められることは同じ
――伝えたかったことは。
「海外では再公営化が主流であるという意見があるが、再公営化もあれば、民活化の流れもある。確かに再公営化は起きてはいるが、それが主流というわけではないということが明らかになった。
水道法改正を巡っては、官だから安定・安心・安価で、民だと料金は値上げされ、施設も品質も劣悪になると言わんばかりの議論も見受けられたが、要諦はそこにはない。
官であろうが民であろうが、事業目標を立て、計画を練り、PDCAを回しながら、できるだけ値上げは抑制しつつ施設を適正に維持管理する。水は確かに公共性が高いが、事業としては料金収入で運営する“ビジネス”なのだから、官にも民にも求められることは変わらない。
じゃあどうやって運営の仕組みを作るのか。官だけでやれるのか、民の力も借りるのか。地域に合った運営形態を自治体がどう考え、どう選択していくのか。そこがもっと議論されるべきだ」
自治体が自己評価できる制度と人材を
――解決策はあるか。
「これまでは下水道人口普及率のような共通目標に向かって行政が尽力するというシンプルな構造だった。それが管理運営の時代になり、自治体ごとに必要な運営方法や老朽化の進み方など抱えるリスクが異なってくると、それぞれが将来の経営を考える必要が出てきた。
上下水道の経営状態を見通したときに、20年後に料金や施設がどうなるか。まずは自治体ごとに自己評価をする。その上で、事業の目標を定め、民活の要否を含めた適切な運営形態を描き出すことが必要だ」
――自治体の自己評価を進めるには?
「総務省が公営企業の経営戦略策定を推進しており、上下水道事業については長期的シミュレーションを基に投資と料金の見直しが求められている。料金水準の将来見通しについては踏み込みが甘い部分はあるが、こうした制度面での後押しは重要だ」
――フランスではどうか。
「上下水道の運営責任がある基礎自治体には、水道で17、下水道で19のKPI(重要業績評価指標)を義務的指標として、経営や事業を評価し、結果を市民や議会に公示する義務が課されている。中小団体でも可能なように指標を厳選して、システマティックに自己評価できる。過去と現在の自己比較、あるいは他の事業体との他者比較が容易だ。
日本のKPIは100指標ほどあるが、もっと厳選する議論もあってよいのではないか」
――今後の課題は。
「料金や経営の将来像を描くには経営部門の職員が必要不可欠だが、ほとんどの事業体で事務系の人材は数年で異動してしまう。また “役所に就職したけど上下水道を志望したわけではない”という話を聞くこともある。
フランスでは公営であっても自治体からは独立した公社組織が運営しているケースも多い。人材も独自採用できるため、人材は日本より育成しやすいだろう。
日本の上下水道は技術の知見が主軸となって人材育成されてきたが、今後は経営人材の育成も重要になる」
「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子
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※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています