【PPP新戦略】インフラ事業を統合し効率化

東京電力パワーグリッド、難波雅之・事業開発室長に聞く

2018年8月、送配電事業を手掛ける東京電力パワーグリッド(PG)が下水道事業に参入したと発表した。関与するのは処理場の電気設備の保守点検のみで「本体業務」ではないものの、異業種大手の参入は、上下水道の産業構造やサービス提供の手法を根底から変革してしまうかもしれない。事業開発室の難波雅之室長(肩書は2019年3月25日取材当時)に戦略などを聞いた。

難波雅之氏(東京電力パワーグリッド、事業開発室長。肩書は取材時2019年3月25日)

電気と上下水道は親和性が高い

――上下水道事業への参入の背景は。

「PGは送電線や配電線というネットワークを使って面的に顧客に電気を届けている。管路というネットワークを持つ上下水道事業との親和性は高い。双方とも遠方監視を行っていたり、下水処理場には電気設備が多かったりなど、PGの技術や人材などアセットを活かせると考えた。

マインド面でも、社員は停電させてはいけないという使命感を持つ。上下水道サービスも途絶えさせてはいけないものであり、通ずるところがある。人口減少による需要減少や施設の老朽化など、悩みも共通する」

点検費を60%削減

――PGの経験をどう生かせるのか。
「10年以上前から電気設備の老朽化に向き合い、アセットマネジメントに取り組んできた。メーカーが推奨する頻度で設備をメンテナンスする『TBM』(タイムベイスドメンテナンス)から、設備の状態に応じて周期を変える『CBM』(コンディションベイスドメンテナンス)などでコストダウンに成功した。その経験とノウハウで、上下水道事業に貢献したい。

エリア内の約280の自治体をまんべんなくカバーする事ができる拠点があり、人がいる。すでに面的なサービスネットワークも構築できている。

加えて現在はスマートメーターによる効率化も進行中だ。マンホールにセンサーを設置し、スマートメーターの通信を利用することで漏水検知や、設備の最適化などにも役立てられる。

富士市では、電気事業で培った技術や合理化の提案が受け入れられた。計装設備の点検費を約60%削減できる計画であり、現在は電気および機械設備などへ検討の幅を広げている」

専門企業とのアライアンスを重視

 ――富士市では電気設備のみだが、いずれ「本体業務」も手がけるのか。

「将来的に可能性はあるが、まずは実績と経験を積むことが大事だ。富士市のような電気設備のコストダウン中心のサポートから始め、メーカーに頼らないCBMによる維持管理、そこから包括業務委託、さらにはコンセッションへと展開したい。

ただし、すべてを自前でやるつもりはない。各分野で専門性を持つ企業とのアライアンスを重視する。現在、富士市でウォーターエージェンシーと協働しているように、機械メーカーとの協業も検討している」

 ――どのような自治体を対象とするのか。

「エリア内の自治体から提案を行う。首都圏の大都市は規模が大きく市場として魅力的だが、局内のガバナンスが働き経営の効率化が進んでおり、小規模すぎるとビジネスとして成立しにくい。地方の大都市や中核都市が現実的だろう。

ある程度の収益性を見込むには、広域化がポイントになる。そこを当社がサポートしていきたい」

まちづくりの視点でビジネス提案

 ――電気と上下水道の事業統合で社会コストの低減に期待する。

「ガス事業者が電気を売り、電気事業者がガスを売る時代になってきた。KDDIと東京電力エナジーパートナーは電気とガスの販売で業務提携しており、通信事業との協業も始まっている。

副社長の岡本らが2050年のエネルギー産業の将来像として描く『Utility3.0』では、デジタル化によって電気や上下水道などインフラ事業者の壁がなくなり、融合していくと予見している。上下水道事業も変化していくだろう。

電気、ガス、上下水道を個別に運営するのではなく、ドイツのシュタットベルケ(電気、ガス、上下水道など公共インフラを整備・運営する公益企業)のように、いずれは統合による効率化は必要だ」

――上下水道がらみで事業統合の動きは。

「18年2月に、東京都水道局と東京ガスとともに、スマートメーター化の実務協議会を立ち上げた。晴海5丁目地区をモデルとし、水道、ガス、電気の共同検針を検討する。インフラ事業者が融合していけば、インフラにかかるコストは低減できる」

――今後は。

「電気や上下水道などインフラを含めたまちづくり、つまりスマートシティの観点から、自治体や当社のアセットを使ったビジネスを提案していきたい。

 今年10月竣工を目標にすでに、地下変電所の上部を賃貸マンションとする不動産プロジェクトが始動している。

同3月にはKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルネットワークと共同で、電柱などの電力インフラを5Gの携帯電話の基地局として共用する実証に取り組むことで合意したと発表した。

海外事業も成長戦略の柱の1つだ。18年11月にはベトナムのディープシー社に出資して海外配電事業に参画した。

まずは電気事業から始めるが、将来的には水道事業の展開も図っていきたい」

聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています