川・まち・歴史を一番知っているのは住民だから

住民参加型かわまちづくりに取り組むNPOあらかわ学会副理事長の三井元子さん

 住民が参加した方が、きっと良いまちづくりになる。その信念を体現しつつ、さらに同じ思いを抱く後進の育成に飛び回っているのが、NPOあらかわ学会の創設メンバーであり、副理事長でもある三井元子さんだ。住民参加型まちづくりの重要性が説かれるが、実際に参加する方法が分からない人もいるし、行政と住民が対立することも少なくない。両者を“糊”のようにつなぐ存在としてのNPOの重要性が、三井さんの活動から見えてくる。

第十三中学校の総合学習で花畑川について説明する三井元子さん(写真提供:三井さん)

住民意見を基礎に策定された荒川の将来計画

 三井さんの活動の場は、多くは川だ。1996年に国が主導した「荒川将来像計画」(以下、将来像計画)の策定作業に参加したことに始まる。

 将来像計画では、荒川の望ましい姿を実現していくための仕組みが考え出されていた。対象は荒川下流。管理する国土交通省荒川下流河川事務所と、川に接する東京都江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区、北区、板橋区、川口市、戸田市の2市7区からなる“官側”の組織として「荒川の将来を考える協議会」(以下、協議会)が作られ、さらに2市7区すべてに住民参加の場となる「荒川市民会議」(以下、市民会議)が設置された。三井さんは足立区の市民会議に参加した。

 この市民会議は単に、行政が考えた計画に意見するだけの存在ではない。その目的にはこうある。

『責任をもって自分で行動し、荒川の将来を考える協議会に対して評価や提言を行う』

つまり、将来像計画は市民会議の提言が基礎をなす。そして、言うだけではなく、責任をもって行動する住民が原動力になるということだ。住民参加と言いながら、行政が計画を作った後に住民の意見を募り、いくら反対意見が出ても計画の大幅な変更が認められないケースが多い。また、住民も反対意見を言うだけではだめで、行動しなければならない。そうした真の住民参加が、将来像計画の策定を通して醸成されていった。

子どもの意見も行政施策に反映

ボートに乗って川に触れることで生徒の考えが深まる(花畑川に漕ぎ出す第十三中学校の2年生。写真提供:三井さん)

三井さんも行動を起こした。子どもたちと一緒に荒川を上流から下流へと、3回にわたって歩きながらアンケート調査を行った。その成果を話し合うために足立区役所で「子ども会議」を開いてもらった。

 「当時は行政が決め、町会長への説明会が形だけ行われて、道路ができたりする時代でした。荒川では公募で参加した市民が、市民会議で意見交換をしながら川づくりを決定していきました。住民参加を実現できる画期的なシステムだったと思います」(三井さん)

 残念ながらバブル崩壊で予算確保がままならず、工事箇所も減ったため、荒川市民会議は、3年前に廃止になってしまった。 

しかし、将来像計画をきっかけに、行政も住民も子どもも誰もが同じ土俵で話し合える場を作ろうと1996年に発足した「あらかわ学会」は、健在である。

「『学会』とした方が、行政職員が参加しやすいということだったので」と、ちょっと愉快な舞台裏を明かしてくれた。多様な関係者が集まり、同じ目線で議論する。それが住民参加の原則であり、それを実現するために集まりやすい場づくりが第一歩になると教えられる。

住民参加を進める“誰かと一緒に”

綾瀬川ではアユの遡上調査も行っている(写真提供:三井さん)

 綾瀬川の川づくりにも関わった。自転車で綾瀬川の河川敷を上流へ向けて走り、コンクリート護岸の内側に植生豊かで多くの鳥が集うこの地域の原風景のような湿地を見つけた。企業の土地だったが、そのままではいずれ開発されると危惧し、国に掛け合って買い取ってもらうことに成功した。

そのために、生物や昆虫、水質などに詳しい地元の専門家をつなぎ、調査してもらった結果を国に提出したり、自然保護団体の署名集めに奔走したりした。今ではビオトープが整備され、水質も向上し、生態系の多様化が進んだと見え、アユが遡上するようになり、その数も年を追うごとに増えている。

 目下の懸案事項は、綾瀬川と中川を結ぶ運河「花畑川」だ。2017年3月に突然、中川の水門を閉じ、推進を1mにして、埋め込み型の橋を作る計画が持ち上がった。実行されれば水が滞り、環境悪化が懸念される。

 河川敷そばにある第十三中学校の2年生200人と一緒に、総合学習で花畑川を考えた。生徒はボート体験で川に触れ、ワークショップでは各班が仮想5兆円の予算で将来計画をまとめて発表した。三井さんが国などに相談した影響もあろうが、子どもたちの奮闘も奏功し、水門閉鎖の計画は白紙になった。

こうして見ると、三井さんは常に“誰かと一緒”を心掛けているようだ。それが住民参加型の川づくり、まちづくりを前に進める力になっていくのだと教えられる。

自分たちで考え判断する

総合学習の後、第十三中学校の生徒がこんな感想を寄せた。「この地域に住む人として、花畑川を守っていきたい」(写真提供:三井さん)

 行政の施策に住民の意見が反映されるには「専門家に加わってもらい、客観的な資料をそろえること。広い視野に立った提案なら、行政も受け取りやすい」。

専門家とは学識経験者か、という問いは愚問だった。「博士号を持っていればいいというわけではありません。行政職員も数年で異動になります。その川やまちの歴史を一番知っているのは、自然保護団体など地域で活動する“専門家”。だからこそ住民参加が重要なんです」

花畑川ではまだ、埋め込み型の橋の計画は残る。子どもたちが描いた将来は、まだ遠い。

 「自分たちで自分たちの花畑川を考え、自分の意見を持ち、自分で判断する。それが住民参加です」。そして、NPOによる情報提供や勉強会などが、人や組織、活動を“糊”のようにつなげていく。

 総合学習後、生徒の一人がこんな感想を書いた。「私たちはこの地域に住む人として、これからの花畑川を守っていきたいです」。後進は着実に育っている。

(Mizu Design編集長 奥田早希子)

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています

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