官民連携で水道の将来を描ける人材確保を

持続可能な水インフラと官民連携(9)群馬東部水道企業団、越塚信夫局長に聞く(上)

 人口減少が進む中、水道事業が単体では持続しづらくなっている。解決策として位置付けられているのが複数の事業体が連携する広域化だ。

改正水道法には、都道府県を推進役とする条項が盛り込まれた。事業規模が大きくなるため、企業にとっては市場としての魅力が高まり、官民連携が実現しやすいという利点もある。しかし、必要性は認識されながらも歩みは遅い。

そうした中、全国に先駆けて広域化と官民連携の合わせ技で事業改革を進めているのが、2016 年に群馬県の3市5町(太田・館林・みどり市、板倉・明和・千代田・大泉・邑楽町)が発足させた群馬東部水道企業団だ。越塚信夫局長に、水道の課題や改革実行の鍵などを聞いた。インタビュー内容を2回に分けて紹介する。

更新投資を含めれば水道は大半が赤字

 ――水道事業の経営実態とは。

「給水収益と職員の減少、施設の老朽化は全国共通の課題である。ヒト、モノ、カネのない中で、水道事業を維持することが難しい時代になっている。

特に地方の水道事業は、今は黒字でもそれは表面的なもので、更新事業への投資も踏まえると赤字になるところは少なくないだろう。

また、大都市であれば技術者も集めやすいだろうが、地方都市になればなるほど難しい。企業も行政も含めたヒトの奪い合いだ。

施設の維持管理に費用がかかるうえ、経費削減のため人を減らさざるを得ない。この負のスパイラルから脱出するには、広域化や官民連携という新たな考えが必要だ。

そのことに気づいておきながら行動ができない。目先のことで精いっぱいで、水道事業の将来像を描く余裕がない。そこを打破するには、人材がキーだと思っている」

県水統合まで見据え広域化を推進

 ――広域化の成功要因とは。

 「1つ目の要因は、時間の確保だ。2009年から広域化の議論を始めたが、太田市はその7年前の02年から全国に先駆けて第三者委託を始め、包括業務委託へと委託範囲を拡大してきた。日常業務を民間企業に任せられたおかげで、職員が広域化の計画やビジョン設計に特化して取り組める時間を確保できた。

もう1つの要因は、第三者委託をいち早く実施したことで学識経験者やシンクタンクなどが関心をもってくれ、彼らとの議論を通して広域化や官民連携という将来ビジョンに気づけたことだ。

経済産業省や群馬大学などの支援を受けて行った調査結果で、水道事業の経営の実態、将来予測、1つの事業体だけで水道事業を維持するには限界であることを数値化したことで、広域化へ一歩を踏み出すことができた。

広域化の先には県水統合がある。当企業団を構成する3市5町は群馬県から一部水道用水を購入しているが、その単価をコントロールできないことが経費節減のネックとなっていた。
※群馬県が運営する水道事業。市町は県が供給する水道用水を購入して水道水を作り、住民に販売している(筆者注)

低廉で安定供給の運用を考えるには、県の用水供給事業を取り込んでいくしかない。広域化が実現し、ようやく県と協議できる環境が整い、20年の県水統合に向け話し合っている。

県が水道用水を供給し、市町が水を売るという役割分担は、右肩上がりの経済状況下では意義があった。今後はそこを見直さないと、水道事業は成り立たない。工業用水も含め、流域での水の運用を考えるべきだろう」

料金改定はあえて後回しに

――広域化の最大の課題である料金改定については。

「住民に関係する問題で、首長も敏感になるからこそ、あえて後回しにした。料金の議論が広域化の中心になることを避け、まずは広域化ということで取り組んだ。企業団発足から3年間は料金を据え置くことにし、まだ8種類の料金表が存在している。

広域化をすれば必ず費用を削減できる。県水を統合すれば、さらに効果は大きくなる。その効果を数値で示し、それを料金統一に反映させれば値上げ率は下がるはず。4年目になる今、料金改定の議論に着手した。料金統一は、20年の県水統合後になる。

広域化をするしないに関わらず、料金改定は水道事業のキーである。将来にわたり水道事業を持続可能なものにするため、施設更新需要と収支の見通しなどに基づいた適正な料金改定をする必要がある。

当企業団は、ファーストステージとして広域化、セカンドステージとして官民連携、サードステージとして県水統合、次に料金統一で、水道事業の安定化を図る。それぞれの水道事業体のストーリーを描けるかどうかが、水道事業の持続には必要だろう」

「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子

第8回「上下水道に経営人材を」

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています

1 Trackback / Pingback

  1. 適切な資産管理の推進が不可欠 | Mizu Design

Comments are closed.