鼎談:GaaS(下水道 as a Service)で起こすビジネス変革②

インフラをつなぎ合わせれば新たな価値が生まれる

下水道事業はまさに今、モノを利用して価値を生み出す「サービスの時代」への大転換期にある。自らを変革させられない企業は、大波に取り残される。「GaaS」(Gesuido as a Service)についての鼎談を3回に分けて掲載する。第2回は、地域経営とインフラ統合化について議論した。(肩書は鼎談2019年7月19日当時)

地元企業との連携は欠かせない

山下雄一氏 パシフィックコンサルタンツ社会イノベーション事業本部インフラ経営戦略部インフラPPP事業室長

――下水道サービスをいかに持続させるか。下水道関係者が下水道の中だけで考えていても、最適解に行きつくことは難しい。東京電力のような他のインフラ業界と交わることで、発想や選択肢が広がり、思いがけない答えを導き出せるのではないでしょうか。
それが上下水道、電気、ガスなど社会インフラを統合するマルチユーティリティの概念で、社会全体のコストを下げ、地域経営の活性化にもつながる可能性を秘めています。その具体例と成果をお聞かせください。

山下氏 新潟県三条市では、道路・公園・水路の維持管理と橋梁点検などを束ねたインフラの包括的維持管理を行っています。三条市では下水道は含まれていませんが、全国的に人口減少で財源がさらに厳しくなることが想定される中、今後は上下水道を含めた一体的な管理が有効な手段と思っています。

当社では複数のインフラを一体的に管理する事業を“インフラのエリアマネジメント”と呼んでおり、地域経営における非常に有効な手段と感じています。

各家庭に直結する下水道は、代替手段がなく、管路は地下に埋まっていて見えないため、他のインフラにはない難しさがあります。効率的かつ効果的にインフラのエリアマネジメントをする上で、下水道は特に重要な位置づけにあると思います。

また、地域に精通した地元企業との連携も欠かせません。三条市でも今年4月からスタートした2期目は、地元企業とのJVで受託しました。

デジタル化で加速するマルチユーティリティ

田村光氏 東京電力パワーグリッド事業開発室部長

 ――電力自由化を背景に、エネルギー事業ではマルチユーティリティ化が一足先に進んでいます。

田村氏 すでに電気事業者がガスを売り、ガス事業者が電気を売る時代になっています。
こうした時代の流れを受け、当社副社長の岡本らは、エネルギー産業の2050年の将来像として「Utility3.0」という概念を打ち出し、デジタル化によってインフラ事業者の壁が無くなり、融合していくことを予見しています。

政府が掲げるソサエティ5.0でも、IoTで人とモノがつながり、知識や情報が共有化される未来が描かれています。今後、個別のインフラがつながり、設備運用が効率化されることは自然な姿ではないかと思います。

私は企業はこうした社会の大きな変化に対応できることが重要だと思っています。下水道はUtility3.0を構成する重要な領域の1つであり、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

 ――富士市の案件では、エネルギーとの統合はありますか?

田村氏 富士市では下水処理場における電気設備のアセットマネジメントのみですが、
東京電力グループ全体では様々なリソースを所有していますので、今後、グループとして下水道事業でできることは、まだまだあると思っています。

 ――下水道をマルチユーティリティ化の中でとらえ直すことで、下水道事業のあり方はどう変わっていくでしょうか。

下水道が資源と資金を地域で循環させる

加藤裕之氏  北大学特任教授(国土交通省下水道部元下水道事業課長)

加藤氏 冒頭で、下水道事業の「目的」は下水道サービスで、それを実現する「素材」が設備や機器などのモノだと説明しました。下水道事業そのものの目的達成を考える視点です。

これをマルチユーティリティで考えると、「目的」は地域経営であり、下水道は目的達成のための「素材」の1つということになります。つまり、今後は地域経営という目的達成のために、インフラという素材をいかに融合させるか、そのなかで下水道に何ができるのか、という視点が重要になってきます。

下水道にできることとして可能性があるのは、これまでおカネをかけて捨てていた汚泥から価値を生み出し、資源とお金を地域で循環させることでしょう。汚泥発電の事例はありますが、電気を大手電力会社に売電してしまったら、おカネは域外に出ていってしまいます。それはもったいない。

農業においてもなるべく肥料を地域外から買わず、汚泥肥料を域内で循環利用させた方が良い。地域循環の仕組みがあれば、地域経営に貢献できるはずです。

ドイツには下水道や電気などの公共インフラを統合的に整備・運営する公益企業「シュタットベルケ」があります。その例を見ると、インフラ統合によって管理コストを縮減できることは間違いなさそうです。一方で、どのような付加価値を作り出せるのかについて、私自身も明確な答えを持っていません。日本版シュタットベルケの研究が必要です。

インフラをつなぎ合わせれば新たな価値が生まれる

 ――加藤さんから汚泥エネルギーは地産地消すべきという指摘がありました。大手電力会社のビジネスモデルとは相容れない考え方のようにも思えますが?

田村氏 必ずしも対立軸だとは考えていません。

スウェーデン・ストックホルム市のハンマルビー・ショースタッド地区では、下水・廃棄物からのエネルギーで必要エネルギー量の半分を賄う目標を掲げ、下水道から取り出したエネルギーも、地域冷暖房や市バスなどに活用されています。

インフラをつなぎ合わせていけば、新しい価値が生まれ、地域経営に貢献できる可能性があります。社会の変化に柔軟に対応できることこそ重要だと思います。

 ――パシコンの子会社には小売電気事業者(PPS)があり、地域経営につなげておられますね。

山下氏 自治体と地元企業と一緒に設立したPPSが10社あり、利益の一部を自治体の政策実現のために還元しています。

下水道政策への還元はこれからですが、例えば管路管理の包括委託や管路点検のために新規予算を組むことが難しい場合、このような事業で得た利益を還元することも可能だと思います。

加藤氏 官民連携など下水道サービスの持続を考える際、今はコストカットだけがフィーチャーされる風潮がありますが、それだけでは寂しいですし、民間の活躍の場を狭めてしまうでしょう。日本版シュタットベルケを考えるなら、山下さんがおっしゃるように利益を生む事業との組み合わせは必要ですよね。

山下氏 企業の持続、ひいては社会インフラサービスの持続のためにも、利益を生み出す事業との組み合わせは考えていきたいです。

――パシコンは道の駅など公共サービスを自ら提供するという、これまでのコンサルには見られない事業展開を始めています。それもマルチユーティリティ化の1つだと思いますが、なぜ、そのような取り組みをされているのでしょうか。

山下氏 当社自らが事業者としてサービスを提供する事業を「サービスプロバイダー事業」と位置付けています。下水道管路の包括委託を始め、高松空港のコンセッションや公園PFI、ウエルネス、道の駅の運営など、様々な事業運営にチャレンジしているところです。

 コア事業である下水道計画や都市計画、交通計画、官民連携アドバリザリーなどで蓄積したコンサルサービスの強みを生かし、ハコモノを含めインフラ全体をトータルで運営することで、地域活性化につながるような新しい事業を生み出していけると考えています。というよりも、生み出していかないといけない。それが、70年近くにわたって公共事業で仕事をさせていただいてきた当社の使命だと考えています。

 今後はサービスプロバイダー事業を通して、常に地元企業と連携し、地域経営の一端を担えるようになりたいですね。そのためには、机上で計画を立案するだけではなく、自ら事業運営をして経験とノウハウを積むしかありません。

マルチユーティリティの考え方を含め、持続可能な地域経営、まちづくり、公共サービスを実現するという視点に立って事業展開をすることは、地元住民のためにもなります。当社のコンサル事業にも受注機会が生まれ、それによってまた新たなサービスプロバイダー事業が創出され、それがさらに地域の持続につながる。地域の住民、自治体、当社の三方良しで、みんなが持続する好循環を生み出していきたいです。

自治体のコンシェルジュ的な立場で地域経営に携わることが理想ですが、まだまだチャレンジの段階です。

コト×モノをパッケージし国際課題に貢献

――地域経営以外には、どのような価値がマルチユーティリティによってもたらされでしょうか。

田村氏 リソースをシェアできるので、効率化はもちろんのこと、トラブル時の対応策などでも選択肢が広がるのではないでしょうか。

一方で海外に目を転じると、アジアでは人口が増え、都市化が進んでおり、エネルギー・水・廃棄物・交通という社会インフラの課題が一気に顕在化する恐れがあります。政府は今、インフラ輸出に力を入れていますが、今後、国内の課題をマルチユーティリティという形で解決できたとすれば、そのノウハウも含めてパッケージでインフラ輸出できる可能性もあると思います。

――今のインフラ輸出はどちらかというとモノ中心かつ各インフラ個別の対応に見えます。コトとパッケージ化できれば、世界的な課題の解決により貢献できそうです。

加藤氏 危機管理の強化や海外展開の可能性は大いに期待できそうですね。

マルチユーティリティを進めるには、地域経営のトップである首長の理解が必要だと思います。マルチユーティリティが多面的なメリットをもたらしてくれるというのであれば、首長の関心も高まるでしょう。山下さんがおっしゃるように地元企業との連携が進むならば尚更です。

そもそも地域経営を一気に改善するような大発明はありません。むしろ、地域に入り込み、地元の人では気づきにくい価値あるものや、宝を見つけ出すことが大切なのかもしれません。

産業界には宝探しの能力が求められていく予感がします。とりわけ東京の大手企業には、地元企業を育てる役割も求められるのではないでしょうか。

山下氏 “育てる”というより、連携して一緒に取り組むことが大切だと思います。

田村氏 現状の事業の枠組みを超えて未来志向でインフラを形成する時代になると、マルチユーティリティは異分野のインフラをつなぐだけではなく、広域化によって新しい価値を生み出す“プロデューサー的”な役割を担う存在になっていくのかもしれません。(続く)

進行・執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子
「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています

第1回 下水道の”サービス価値”を向上しよう