【寄稿】下水道経営の手足を縛っているのは誰か

行政事業レビューから見えてきたこと 山田肇・東洋大学名誉教授

行政改革推進本部で秋の行政事業レビューが実施された。「下水道事業のPFIの推進」をテーマとする議論に評価委員として参加した。そこでの議論の様子を報告する。

わが国下水道の人口普及率は2017年度末で78.8%に達し、公衆衛生の向上に貢献している。

下水道会計は収益的収入支出と資本的収入支出に二分される。維持管理費、減価償却費、企業債利子などに使われる収益的支出は、東京都(2015年度決算)では総額3365億円である。これを賄うのが収益的収入で、このうち下水道料金収入は1585億円、一般会計からの繰入金が1274億円となっている。

下水道は雨水処理と汚水処理に利用され、雨水処理は公費負担、汚水処理は発生者負担という原則があるので、一般会計からの繰入金が認められている。

老朽化した処理場設備や下水管の更新などは資本的支出として分計される。東京都では総額は3877億円に達し、これを賄う資本的収入が企業債650億円、国庫補助金585億円、一般会計繰入金373億円、補填財源(損益勘定留保資金等からの補填)2026億円である。

今後、設備の老朽化がいっそう進むと更新費用(資本的支出)がかさむ。これを企業債で賄えば企業債利子が増え、収益的収支が悪化する。悪化分を一般会計繰入金の増額で埋め合わせるにも限界があるから、今後、発生者が負担している下水道料金は値上げせざるを得ないと想定できる。このように下水道会計には危機が近づいている。

収益的収支と資本的収支という2分類で表現する仕組みが公営企業会計で、これの導入前は資本と収益をごっちゃ混ぜにした「どんぶり勘定」だった。下水道事業の場合、公営企業会計は人口3万人以上の団体では99.4%が策定済みあるいは策定中であるが、3万人以下では27.6%にとどまっているそうだ。財政規模が小さい団体にこそ下水道事業が継続できなくなるかもしれないという危機感を持ってほしいのだが、政府からの働きかけは弱い。

東京都では下水道事業に公営企業会計が導入され上記決算が公表されているが、どのくらいの都民が知っているだろうか。支払った下水道使用料で事業がきちんと賄われていると誤解しているのではないか。

下水道経営の手足を縛っているのは、地方公共団体の危機感不足と、説明がないことによる住民の危機感欠如である。健全化のためには下水道料金を値上げするしかないが、それを持ち出すには危機感の共有化が前提になる。

内閣府・国土交通省・総務省は、この状況を打開するために民間の知恵を活用する公民連携(PPP)の導入を働きかけている。行政事業レビューでは「下水道事業のPFIの推進」と題して議論が展開されたが、PPP、PFI、コンセッションなどという用語が氾濫して、国民には理解がむずかしいものになった。そこで僕は危機感に焦点を絞って質問を重ねた。

公営企業会計に基づく下水道会計の見える化、近隣団体との事業統合による広域化、料金の適正化、PPP/PFIの導入など、行政事業レビューの結論は当然としか言えないものになった。その中でも一丁目一番地は下水道会計の見える化による危機感の共有だと、僕は思った。


寄稿者:山田肇 東洋大学名誉教授