住民が株主として運営会社の監視を

持続可能な水インフラと官民連携(2)三井住友トラスト基礎研究所、福島隆則氏に聞く

施設の老朽化に伴う更新投資の増大、財政の悪化、人口減少による料金収入の減少、技術者の減少など、上下水道インフラは持続の危機に直面している。官民連携はその解決策として期待されるが、民間が上下水道を運営すると値上げや管理水準が低下すると懸念する声もある。連載2回目からは、持続可能な上下水道にとっての官民連携のあり方を識者インタビューを通して探っていく。まずはインフラの官民連携で多くのコンサルティング経験を持ち、内閣府PFI推進委員会の専門委員でもある三井住友トラスト基礎研究所PPP・インフラ投資調査部の福島隆則部長に聞いた。

官民連携に絶対解なし。最適解を地域で探るべき

――上下水道インフラの持続にとって、そもそも官民連携は必要なのか。

「金融の立場から上下水道インフラを見た時の問題点は、多くの自治体で健全な事業運営になっておらず、持続可能性にも難があることだ。少子高齢化や人口減少を背景に歳入が減り、老朽化した施設の維持管理や更新にかけるお金が無くなってくる。純粋な官の事業は成立しにくく、必然的に民間に頼らざるを得なくなる。こうした点から、官民連携は必須と考える」

 ――上下水道インフラの持続につながる官民連携のあり方とは。

 「一言に官民連携といってもやり方は様々ある。100%公共事業と100%民間事業の間がすべて官民連携であり、公共寄りの事業もあれば、民間寄りのものもある。どこが良いのかはケースバイケースで、自治体によって異なって当然だ。最適解はあるが絶対解はない。

改正水道法でコンセッションが議論されているが、だからといって上水道はコンセッションで運営されなければならないとは思わない。選択肢の1つとして捉え、包括委託や第三セクター方式なども含め、住民や首長らが一緒に最適解を探るべきだ」

民間がインセンティブを持てる仕組みを

――官民連携では民間資金のほかに、民間ノウハウへの期待も大きい。民間の力を最大限に発揮できる状況にあるか。

「日本ではサービス購入型(注・公共サービスを提供した民間に対し自治体が対価を支払う)のPFIで仕様発注が中心となっており、民間ノウハウを発揮しづらい。性能発注であっても、パフォーマンスが低下した時に整備費に影響するほどのペナルティが課されることはなく、ダイナミックに民間がインセンティブを持つ形にはなっていない。

海外の道路の維持管理で多用されるアベイラビリティペイメント(民の運営管理のパフォーマンスに対して官が対価を支払う)では、多くの審査項目を基に民は厳しくモニタリングされ、駄目なら減額、良好ならボーナスがもらえる。その仕組みを上下水道に取り入れて性能発注とし、さらに入札でもバリアントビット(官が決めた要求水準を上回る良いアイデアを民間が提案する)を導入すれば、民間の創意工夫で提案できる領域が広がる。そうすればコンセッションをやらずとも、民間がよりインセンティブを持てるようになる」

「官がやっても値上げ」官に説明責任

――民間に任せると料金が値上げされるという懸念が住民側にある。官民連携の足かせになるのでは。

「多くの自治体が政治的配慮から必要な値上げを行わず、不足分を税金で補てんしている。それをきちんと説明しないから、民間に任せると値上げされると誤解される。実態を住民に説明するのが先だろう。

上水道を民営化しようとすると、住民の反対運動が起こることが多いが、非常に上手く対応している自治体もある。例えば、官が運営し続けた場合の値上げ予想を示し、それをどれだけ抑えられるかを民間に競わせようとしている例がそうだ。

いずれにしても、値上げが見込まれているなら、官民連携の議論より前に説明しておくべきだろう」

 ――もう1つの住民の懸念として、民間に任せると収益が重視されて管理のレベルが落とされるという声がある。民間が住民の信頼を得る方法とは。

 「客観的なモニタリングの強化で一定の監視はできるが、住民の信頼を得るという意味では、民間企業の振る舞いがより重要になるだろう。水道に限らず、インフラを担う民間企業は、収益性と社会性という相反するものを両立させなければならない。どちらかに寄りすぎると齟齬が起こる。ただそれは、簡単ではないが、不可能でもない。バランス感覚を常に持っておくことが重要だろう」

 ――海外では値上げやサービス低下などを理由に再公営化された例もある。日本で官民連携が必然だとするなら、その失敗をどう是正すれば良いのか。

「一案だが、クラウドファンディングを通じて住民が運営会社に出資するということも考えられる。そうすれば、住民が株主として運営会社を監視できる。住民参加型の資金調達の仕組みは効果があると思う」

上下水道も、電気も、ガスも、通信も

――上下水道における官民連携の今後の方向性は。

「長期的には、上下水道だけではなく、様々なインフラを一緒に経営する方向に向かうと考えている。一つの例がドイツのシュタットベルケ(注・町の事業の意)という仕組みだ。電気、ガス、上下水道、交通、通信などを1つの経営体が運営する。そうすることでスケールメリットが生かされ、収入の安定性、コストダウンにもつながる。そこでの収益は、過疎地のバス事業や高齢者の見守りサービスなど、低収益だが社会性の高い事業に投資できる。

国内では浜松市や大津市などが、模索し始めている。経済活動は自治体の境界に縛られる必要がないので、シュタットベルケの活動地域は市外、県外にも拡大できる。それが進めば広域化も進み、結果的に道州制へ発展することになるかもしれない。

中核となるのは大手企業だろうが、個々の事業を地域企業が担うことで、地域経済の活性化にもつながるはずだ」

「環境新聞」編集部、聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子

第1回「救世主はコンセッションだけか」
第2回「水道法改正の最大の意義は“情報”」

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています