インフラクライシスを乗り越えるための、ありきたりな言葉

奥田早希子 Webジャーナル「Mizu Design」編集長

インフラ災害は予測できないが、「老朽化」は予測できる

2012年12月2日、笹子トンネルの天井板が崩落した。日曜日の朝、帰省先の静岡から自宅へと東名高速道路を車を走らせていた時に、カーラジオからそのニュースが流れてきた。しかも、ちょうどトンネルの中だった。

「ドライバーの皆様はお気を付けください」

アナウンサーがそう告げて、ラジオの速報は終わった。まったく、いい加減なもんだと思う。一体、何に気を付ければいいのか。ドライブ中に天井板が落ちてこようとは、どこの誰が予測できるだろう。予測できない事象に気を付ける術はないではないか。

八潮市で発生した道路陥没事故も然り。道路が陥没するなど、予測できるわけがない。どこまでも続くと思っていた道路に人知れず空いた巨大な空洞を、気を付けて避けることなど不可能である。

いずれもインフラの老朽化に起因する事故だった。笹子はトンネル、八潮市の事故は古くなった下水管が原因とされている。八潮市では一時、120万人が上下水道の使用を制限され、洗い物を少なくするために食器にラップを敷くなどの不便が余儀なくされた。

これは阪神淡路大震災から始まったサバイバル術だと聞いたことがある。人工物が原因ではあるが、その被害を予測できないこと、被害の様相を見るにつけ、自然災害、それも激甚災害のように思えてならない。

下水道やトンネルだけではない。道路も橋梁も水道管も老朽化が進んでいる。そして、やはり残念なことに、その被害がいつ、どこで起こるかは、自然災害と同じように予測はできない。

しかし、「老朽化」は予測できる。このことを忘れてはならない。いつ、どこで、何が、どれくらい老朽化するか、老朽化しているかをしっかりと調査・点検し、未来を予測し、対応することはできる。行政にはしっかりと、対策を取ってもらいたい。

「下水道」「道路」「橋梁」…から「下水道と道路と橋梁と…」へ

ただやみくもに対策するのではヒトもカネも時間もかかる。効率よくインフラを調査・点検し、老朽化対策を実効的に実行するには、各インフラの管理者の連携が欠かせない。八潮市の道路陥没事故では、通信や水道などにも影響を及ぼした。地下に埋設されているインフラは、相互に影響を及ぼし合う。であれば相互に連携したほうが良いことは明白だ。

八潮市の事故を受け、国土交通省は専門家会議「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」を設置した。その委員長である政策研究大学院大学の家田仁特別教授の言葉に、相互連携への覚悟が見えた。

「第1回下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」。右側テーブルの手前から5人目が家田氏

「(八潮市の道路陥没事故のような)重大な事態が起きた時には、それ(下水管の老朽化対策)だけを考えるのでは手薄である。地下のさまざまなインフラをまとめ、メンテナンスにとどまらず、インフラマネジメント全体をどう改善できるかを考えていく。インフラの状態や地盤状況などの情報を、インフラの枠を越えて活用できる“地下空間の統括デジタル管理システム”も視野に入れる」

日本では下水道、水道、道路、橋梁など、インフラごとに所管官庁が異なる(今は水道と下水道は一緒になったが)。いわゆる「縦割り行政」は、作る時にはうまく役割分担ができる仕組みだった。しかし、作ったモノを管理したりマネジメントしたりする時にはうまく機能しないことが、八潮市の事故で明白になった。

道路陥没が下水管のせいなら、道路の状態を観察するのは下水道管理者の仕事なのか?
それとも道路のことだから道路管理者の仕事なのか?
いやいや地下に埋まっている水道管や通信管の管理者の仕事なのか?

縦割り行政のままでは仕事の譲り合い、という名の押し付け合いが起こるか、すべての管理者にスルーされるかして、いずれまた大規模な道路陥没が起こるだろう。

今こそ縦割り行政を突き崩し、家田氏の言うように、インフラ全体をマネジメントできる構造を構築する時だ。下水道は下水道だけを作り、道路は道路だけを作ってきたが、統括的にマネジメントするなら、下水道は下水道のことだけ、道路は道路のことだけを考えてはいられない。インフラを自分事化すべきと言われるが、自分のことだけを考えていればいいわけではないのだ。

※インフラの統合的なマネジメントがなぜ必要なのかについてのオピニオンは、こちらの記事をご覧いただきたい。
「いくら点検しても道路陥没を止められないたった1つの理由」

「私たち」で考えよう

あなたもわたしも一緒にインフラの未来を考える「私たち化」こそが必要である。そこには産官学のほか、生活者も含まれる。「私たち」で考えるための場づくり、仕組みづくりを行政には期待する。そして、国の使命は「私たち」で考えるための情報を整備することにほかならない。

老朽化したインフラが一斉に崩壊をはじめる「インフラクライシス」は、インフラの管理体制も見直さず、手をこまねいていては、やがて確実に現実になる。その不都合な未来に立ち向かい、創り替え、行動していくときに持っておきたい信条を「私たち化」という言葉はよく表していると思う。アパレルメーカーのearth music&ecologyが2017年に使ったキャッチコピーを心にとめておきたい。

私より、私たちで、生きよう。

私たち。
私のために生きるの飽きた。
誰かのために生きるの疲れる。
私と誰かで、私たち。
私より、私たちのためって、新しい?
私と私と私。
誰かと誰かと誰か。
世界中の私と誰かがどこかに集まって、
私たちはいま、新しい私たちになれるかな。
なれるといい。

コピーライター:児島令子
「毎日読みたい 365日の広告コピー」(ライツ社)より一部抜粋