西日本旅客鉄道がりそなホールディングスと提携し、金融事業に参入したことが大きく報じられた。鉄道と上下水道は異なる事業領域に見えるが、水インフラ業界にとっても重要な示唆が含まれている。
本稿では、そのポイントを2つに整理する。
示唆①:手段と目的は正しい順序で考えられているか
まず注目すべきは、「手段と目的の関係性」である。
本来、目的を達成するために手段がある。しかし現実には、目的が忘れられ、手段そのものが目的化してしまうことが少なくない。結果として、プロジェクトが行き詰まる——これは典型的な失敗パターンである。
では、JR西日本はどうか。
今回の提携の目的は、金融事業そのものではない。あくまで「顧客の囲い込み」という目的を達成するための手段として、金融を位置づけている。
手段を使って目的を達成する——
この当たり前の思考順序が、明確に貫かれている。
点検が目的化していないか:下水道の現場で起きていること
この視点から見ると、現在の水インフラ業界には気がかりな動きがある。
それが、下水道管路の緊急点検である。
八潮市で発生した、老朽化した下水道管路に起因する道路陥没事故を受け、国土交通省は全国規模で重点調査を進めている。対象となる管路は5,332kmに及ぶ。
もちろん、点検や調査は重要である。しかし問題は、その先だ。
調査によって判明した劣化管路は、本来であれば補修や更新につなげなければならない。ところが、具体的な更新計画の策定まで進んでいる自治体は多いとは言えない。
実際、調査を終えた自治体のうち、補修・更新計画を策定しているのは約35%にとどまるというデータもある。
つまり本来、「管路を適切に管理する」という目的のための手段であったはずの調査が、現状では“調査すること自体”に終始している可能性がある。
いま必要なのは、見失われた目的を取り戻し、手段と目的の関係を再構築することだ。
示唆②:総合インフラサービス会社という競争相手の出現
2つ目の示唆は、「プレイヤーの変化」である。
JR西日本は、コロナ禍で鉄道事業が大幅な赤字に陥った反省から、非鉄道事業の拡大を加速させている。その対象には上下水道も含まれる。
同社が目指すのは、これまでのような単なる鉄道会社ではない。「総合インフラサービス会社」である。
既存の鉄道利用者を基盤に、さまざまなサービスを横断的に提供し、新規顧客も取り込む。そして今回の金融事業は、それらをつなぐ“血管”のような役割を担うと考えられる。
売上規模が示す「戦う土俵の違い」
コロナ禍の2021年3月期、JR西日本は2,000億円を超える赤字を計上した。
一方で、現在の水インフラ業界に目を向けると、売上高が2,000億円を超える企業はメタウォーターなど、ごく一部に限られる。この差は、そのまま「競争の土俵の違い」を示している。
インフロニアの動きが意味するもの
さらに象徴的なのが、インフロニア・ホールディングスによる水ingの買収である。
一部では「和製水メジャー誕生」とも報じられたが、同社の戦略は水分野にとどまらない。目指しているのは、やはり総合インフラサービス会社である。
同社の売上はすでに1兆円規模に達している。
水インフラ業界は“内向き思考”を脱せるか
既存の水インフラ業界が、上下水道という枠内だけで物事を考え続けるならば、市場は総合インフラ会社に取り込まれていく可能性がある。
いま求められているのは、
- 視野を広げること
- 発想を拡張すること
である。
JR西日本の一手は、異業種の動きではない。水インフラ業界の未来を映す「予告編」として捉えるべきだろう。



