【連載】デジタルネイティブに学ぶインフラマネジメント(最終)

そもそも「インフラって何?」

Webジャーナル「Mizu Design」の編集長である奥田早希子は、インフラマネジメントテクノロジーコンテスト実行委員会PR部会長として活動しています。本連載の最終回として、水インフラを主軸にインフラテクコン2020を振り返ってみたいと思います。


■連載1回目:「インフラは大事」だけでは誰も行動しない
■連載2回目:スマホアプリで「防災行動」を進化させよ
■連載3回目:技術開発はゴールではない
■連載4回目:そもそも「インフラ」って何?←今回はここ
(最終回)


「インフラ」って何?

 「インフラって何ですか?」

 その問いに皆さんはどう答えますか? インフラストラクチャーを直訳すると 下部組織、基盤(社会基盤)ということのようですから、「社会生活や社会経済、社会活動など社会のすべての支えとなるモノ。いや、コト?」ということでしょうか。

 しかし、この説明だけでパッと上下水道や橋梁などをイメージできる人は、そう多くはない気がします。「それって愛?」と答える人もありそうです。

 小学生対象のインフラの勉強会では、こう説明しました。
 「インフラは、みんなで使う、みんなのもの」

 私の自転車でもなく、僕のランドセルでもない。みんなで通う学校であったり、友達と一緒に歩く道路であったり、お家の水道はあなたたち家族だけのものだけど、そこまで水を運ぶパイプはみんなで使っているもの、それがインフラなんだよと、話し伝えました。

 小学生に限らず、インフラは誰かに与えられたもので、すでにそこにあることが当たり前という感覚の人が大半でしょう。この感覚では、インフラを自分事化して、その課題を考えたり、課題解決のために行動を起こしたりすることは難しい。

 ですが、自分のものだったら大切に使うはずです。だから、「みんなで使う、みんなのもの」と考えたい。「みんな」には「自分」も入っているからです。

 インフラテクノロジーマネジメントコンテスト(インフラテクコン)も、「インフラって何だろう?」と考えることがスタート地点となります。自分のものだったら大切に使うはずなのに、なぜインフラは大切に使えないのか、使わないのか。そこから発想することが、インフラの課題を考え、課題解決のアイデアを想起するきっかけになると期待しています。

「インフラテクコン」って何?

 インフラテクコンは高専生を対象としたコンテストで、公共インフラの課題の解決策をコンテスト形式で競い合うイベントです。第1回の2020年大会は、コロナ感染防止のためオンライン開催となりました。

 テーマとしては、「広報」「合意形成」「住民参加」「省力化/合理化技術」「代替サービス」「仕組み」を設定しました。ハードとしての機能を維持する技術だけではなく、今後はソフト的なアプローチがますます重要になると考えたからです。

 そして、ハード的アプローチの効果と、ソフト的アプローチの効果が、相互に影響し合い、さらに新たな効果や価値を生み出す提案ほど、評価点が高くなるような審査基準としました。

水インフラ関連の提案が入賞

 2020年大会には、17校・30チームからの応募がありました。まず書類選考の一次審査を行い、そこを勝ち残った8チームと、敗者復活の5チームを合わせ、計13チームが最終審査に進みました。

 最終審査では学会などで行われるポスターセッションをイメージし、アイデアをまとめたポスター1枚と、アイデアを説明する動画で審査を行いました。ポスターのデザイン性や、動画での見せ方も評価ポイントの1つです。

 その結果、徳山高専「わくわくピーナッツ」の提案「ICT+スマホゲームによる気づけばインフラメンテ依存症!?」が最優秀賞に選ばれました。

最優秀賞に選ばれた「わくわくピーナッツ」(徳山高専)のポスター(クリックで拡大)

 橋ごとに設定されたキャラクターを育てる育成型スマホゲームで、橋の損傷個所などの写真を実際に撮影してアップロードするとキャラクターの装備が充実したり、強くなったりします。課金でも同じように育成でき、課金の一部は橋のメンテナンス費用として充当されます。育てたキャラクター同士を対戦させ、仲間とのつながりも構築できるアイデアです。

 インフラの大切さが分かれば住民参加が進むと思いがちですが、彼らにかかれば「土木に縁もゆかりもない人たちが休日など大切な時間を削ってまで橋の点検・報告などの行為を行うことは非現実的。大切なものだから、だけでは行動にリンクしない」と一刀両断でした。

 上下水道関連では、阿南高専「WEJOKA」(ウイジョカ)の提案「下水道未整備地区の逆襲-合併浄化槽に付加価値を-」が地域賞(3位)に選ばれています。生活汚水が有する疫学等のデータを価値化し、合併浄化槽への転換を促進するアイデアです。

地域賞に選ばれた「WEJOKA」(阿南高専)の提案イメージとマネーフロー(提案概要書より)(クリックで拡大)

ローテク下水処理のアイデアも奨励賞を受賞

一方、ここまでの本戦の流れとは別になりますが、最終審査に進めなかったチーム向けに自由参加枠を設けました。4チームの参加があり、うち2チームが上下水道関連でした。呉高専の「3本の矢」(提案:地下バイパスと排水路ハイブリッド型トンネル(SMART Tunnel)の日本における応用)、同じく呉高専の「Kure SWGT」(提案:ローテク下水処理システムで資源をフル活用!)です。

 自由参加枠については協賛企業による投票を行い「Kure SWGT」が奨励賞に選ばれました。下水処理工程からメタンガス、藻類、中水、水流など様々な資源を回収するというアイデアです

「人とつながる」高専生の気概に触れて感動した!

高専生と関連企業が出会うはずだった交流会。コロナ禍のため参加できなかった高専生にオンラインで思いを伝える下水道広報プラットホームのメンバー(クリックで拡大)

 2020大会の応募作品を見ると、スマホ、アプリ、ICTなどの新しい道具や技術が当たり前のように散りばめられています。今の高専生はデジタルネイティブですから当然と言えるかもしれませんが、しかし、それを「デジタルネイティブだから」の一言で片づけてしまっては、本質を見誤ると思います。

 アイデアの多くは、スマホなどを使って地域住民がインフラマネジメントに参加するというものした。インフラを持続するうえで住民参加が大事であり、そのためにスマホという道具を使って「人と人とのつながり」を構築しようとする気概を感じます。

 単にメンテナンスにスマホという新しい道具を持ち込んだというだけの話ではないのです。もちろんスマホやアプリなどは非常に重要な道具ですが、あくまでも道具に過ぎません。高専生たちが見据えるゴールは新しい道具を導入することではなく、その先のコミュニティだと言えるのではないでしょうか。

 冒頭で述べたように「インフラはみんなで使う、みんなのもの」という発想を核として、コミュニティが豊かに、幸せに、笑顔になる、そんな未来を考えたのではないかと思うのです。これこそが今後のインフラマネジメントを成功させる本質ではないでしょうか。「それって愛?」なのかもしれませんね。

 ところで、最終審査用の動画を見ていると、なぜかウルっと来てしまいました。ドローンを飛ばしたり、バイクで走ったり、NG集をおまけにつけたり、高専生の熱い思いにやられました。

 インフラマネジメントを行政に任せきりで知らん顔するのではなく、一人一人(インフラサービスの受益者)がインフラマネジメントに参加する仕組みが必要だと考えている若い世代が想像以上に多いらしい。このことは日本の未来に向けた福音です。ぜひWEBで作品をご覧ください。(連載終わり)