【連載】デジタルネイティブに学ぶインフラマネジメント(2)

スマホアプリで「防災行動」を進化させよ

ツールの進化より、一人一人の「防災行動」を進化させる

高専生がインフラマネジメントのアイデアを競う「インフラマネジメントテクノロジーコンテスト2020」の入賞作品が先ごろ決定した。本連載では入賞作品のいくつかに焦点を当ててこれからのインフラマネジメント像を探っている。2回目は、優秀賞を受賞したチーム「NITKCs」(ニーテックス、木更津高専)に着目する。


■連載1回目:「インフラは大事」だけでは誰も行動しない
■連載2回目:スマホアプリで「防災行動」を進化させよ←今回はここ
■連載3回目:技術開発はゴールではない


「NITKCs」のテーマは「木更津市における冠水情報通知システム」。スマートフォンアプリを使って冠水情報をプッシュ通知する仕組みで、木更津市がごみ捨てなどの行政情報を共有するために運営する公式アプリ「らづナビ」に搭載することを想定している。

発想自体にそれほどの目新しさは感じないが、優秀賞に選ばれたのは、前回紹介した最優秀賞のチーム「わくわくピーナッツ」と同じく、従来と異なる点があったからだろう。そしていわずもがなだが、それが防災力を高めると期待されたのだ。
では従来の防災とどこが違うのか。その違いを考えてみよう。

違いその1

従来:防災訓練、ハザードマップ、住民説明会などを開催する。

高専チーム:それでは防災意識の高い住民しか参加しない。アプリをダウンロードさえしておけば冠水情報が入手でき「防災行動」を起こせる。

ハザードマップを分かりやすくするとか、住民説明会の資料を分かりやすくするなどの取り組みはよく聞くが、それらはいずれも個々のツールの話だ。個々のツールをどれだけ進化させても、高専生が指摘するように意識の高い人以外にいきわたらせるのは難しい。

彼らが目指したのは、アプリという今となっては身近なツールを活用することで、一人一人の行動変容を起こすこと。ツールそのものの進化ではなく、ツールを手に入れた人の「防災行動」を進化させることなのだ。

この認識は防災のみならず、すべてのインフラマネジメントにおいて重要である。例えば水インフラで言えば、汚泥脱水機を進化させてCO2排出量を1割削減するという発想ではなく、下水道資源を活用してエネルギーを生み出したり、地域全体のバイオマスを循環させたりして、地域全体のカーボンニュートラルを進化させるという視点がこれからは求められているということを、われわれ大人たちは理解しなくてはならない。

一方、意識の高い人の意識をどんどん高くすることも重要だが、一方ですそ野を広げつつ高めていくことも大切。この着眼点は連載1回目のわくわくピーナッツと同じである。

違いその2

従来:住民は防災情報の受け手である。

高専チーム:住民は防災情報の受け手でもあり、発信者でもある。

彼らが提案する冠水情報通知システム「AINoS」(アイノス。Aqua Information Notification System)では、センサーから上がってくる水位データに加え、住民から投稿される現場写真も参考にする。住民がみずから写真を投稿することで、防災意識を継続させる仕組みだ。問題は投稿してくれるかどうかだが、類似事例を見るとやれないことはない。

例えばウェザーニュースの会員メニューには、会員から寄せられる雨雲の写真などを参考に大雨や落雷など気象変化をスマホに通知してくれるサービスがある。会員からたくさんの写真を集められるかどうかがカギとなるが、結構集まっているという。

自分の写真がどこかで誰かの役に立っているかもしれない。その感覚がいいのだと推察する。投稿写真に「いいね」する機能などがあると、より写真が集まりやすそうだ。(つづく)