【連載】デジタルネイティブに学ぶインフラマネジメント(1)

「インフラは大事」だけでは誰も行動しない/高専インフラテクコン

 

スマホを道具に仲間とつながるインフラマネジメント

高専生がインフラマネジメントのアイデアを競う「インフラマネジメントテクノロジーコンテスト2020」の入賞作品が先ごろ決定した。

インフラマネジメントを行政に任せきりで知らん顔するのではなく、一人一人(インフラサービスの受益者)がインフラマネジメントに参加する仕組みが必要だと考えている若い世代が想像以上に多いらしい。

スマホ、アプリ、ICTなどの道具や技術が当たり前のように散りばめられ、それを使って地域住民がインフラマネジメントに参加するというアイデアが多かった。

しかし、それを「デジタルネイティブだから」の一言で片づけてしまっては、本質を見誤る。

高専チームのアイデアの多くは、住民参加の原動力として「人と人とのつながり」を重視している。これこそが従前のインフラマネジメントとの相違点として着目すべきポイントである。単にスマホなど道具が変わっただけの話ではないのだ。

もちろんスマホやアプリなどは非常に重要な道具であるが、あくまでも道具に過ぎない。新しい道具が出れば、どんどんアップデートできる。彼らのゴールはICTを導入することではなく、その先のコミュニティにある。これこそを今後のインフラマネジメントを成功させる本質と捉えるべきである。


■連載1回目:「インフラは大事」だけでは誰も行動しない←今回はここ
■連載2回目:スマホアプリで「防災行動」を進化させよ
■連載3回目:技術開発はゴールではない


橋キャラを強く育てるスマホゲーム

それでは、これからのインフラマネジメント像を思考しながら、高専チームのアイデアのいくつかを見てみよう。まずは最優秀賞を受賞したチーム「わくわくピーナッツ」(徳山高専)から。

テーマは「ICT+スマホゲームによる気付けばインフラメンテ依存症!?」。

橋ごとに設定されたキャラクターを育てる育成型スマホゲームで、橋の損傷個所などの写真を実際に撮影してアップロードするとキャラクターの装備が充実したり、強くなったりする。課金でも同じように育成でき、その一部は橋のメンテナンス費用として充当される。育てたキャラクター同士を対戦させることで、仲間とのつながりが構築されていくというアイデアだ。

従来のインフラマネジメントとの違いを見てみよう。

■違いその1

従来:インフラは大切で、財政もひっ迫していることを説明したら、住民理解が進み、メンテナンスに参加してくれる。

高専チーム:土木に縁もゆかりもない人たちが休日など大切な時間を削ってまで橋の点検・報告などの行為を行うことは非現実的。大切なものだから、だけでは行動にリンクしない。

筆者も行政や企業の方から従来型のコメントをお聞きすることが多かったのだが、従来の常識を高専生はすがすがしいまでにきっぱりと否定するところからアイデアを構築している。まったくもって同感である。スタート地点が異なれば、答えも異なる。正しい課題認識はとても大切だ。

■違いその2

従来:住民はインフラサービスの受益者である。

高専チーム:住民はインフラサービスの受益者でもあり、インフラ(のキャラクター)を育てる親でもある。

説明するまでもないが、受動ではなく、能動的にインフラに関与する人が増えれば、損傷の早期発見、それによる重大事故の回避、管理コストの抑制にもつながっていく可能性がある。

■違いその3

従来:地域内の意識の高い人のつながりは構築できる可能性がある。

高専チーム:インフラに関心がない人、地域外(時には海外)の人ともつながれる可能性がある。

山の高さをどんどん高くすることも重要だが、一方ですそ野を広げつつ高めていくことも大切だ。スマホゲームがその役割を担える可能性は大きそうだ。

つづく