埼玉県八潮市で発生した下水管に起因する道路陥没事故は、老朽化が進む下水管を適正に維持管理することの重要性と難しさを現代社会に知らしめました。地下に埋まっている下水管の状況を知ることは容易ではなく、直径80㎝以上であれば下水管内部に人が入って調査点検できますが、危険が伴うことは言わずもがなであり、作業員が下水に流されるなどの事故も過去には起きています。
そこで注目されているのが、作業員が管内に入らずに作業する「NoEntry」技術です。なかでも維持管理業務のひとつである調査点検の領域では、ドローンをはじめとしたDXなど最新技術の導入が進みつつあります。
そこで、この分野に意欲的に取り組んでいる株式会社フソウの鈴木慎哉専務、管清工業株式会社の小海健執行役員、ブルーイノベーション株式会社の熊田貴之社長の3氏に、インフラ点検におけるドローン活用の現状や市場動向、DX展開などについて議論していただきました。
参加者
株式会社フソウ 鈴木慎哉 取締役専務執行役員
管清工業株式会社 小海健 執行役員
ブルーイノベーション株式会社 熊田貴之 社長

本記事の内容
ドローン産業の現在地
-ハード開発から用途開発・価値創造の時代へ
-ドローン産業に立ちはだかる3つの課題
ドローンとDXの融合がもたらすインフラ運用の変革
-フソウはなぜブルーイノベーションとの連携を推進するのか
-ドローンはヒトの代替にあらず 地域とインフラの関係を変える変革者だ
現場から見たNoEntryの現実
-NoEntryと言えどNoEntryではない理想と現実のギャップ
-ドローン点検の本質は「撮影して終わり」にしないこと
データの評価・見える化・活用がドローンビジネスを創出する
-「ドローンってかっこいい」が若手や女性を魅了
-ドローンビジネスを創出するもう1つのカギ「基準」
ドローン点検市場の確立へ 世界とのスピード差は埋められるか
-求められる「人の安全確保」「地域経済」を前提とした制度
-前例のない新技術こそ使ってほしい
-「メンテナビリティ」がドローン点検を加速
-世界に飲み込まれる前に柔軟でアジャイルな制度運用を
ドローン産業の現在地
ハード開発から用途開発・価値創造の時代へ
――人による目視の手間がかかる場所や危険個所のインフラを点検するツールとしてドローンへの関心が高まっています。スタートアップとしてその市場をけん引されているのがブルーイノベーション株式会社です。技術や市場の動向などについて熊田社長からお聞かせください。

熊田氏 当社はドローンのハードウェアだけではなく、お客様の用途に合わせてソフトウェアのアプリケーションまで作り上げ、システムインテグレーションを提供しています。コアテクノロジーであるブルーアースプラットフォーム(BEP)を使用し、複数のドローンやロボットの同時制御を得意としています。

通常のドローンはGPSのサポートが必要なのですが、下水管やトンネルの中、橋梁やタンクの下など、インフラにはGPSが届かない場所が多く、ドローンを飛ばせません。そこで、位置情報を特定するセンサーモジュールも独自に開発しました。
インフラの点検市場が事業の半分以上を占め、特に火力や水力、原子力、送配電といった電力関連が大きな割合を占めています。能登半島地震の後からは上下水道など公共インフラの点検も増えてきました。
また、力を入れているのがドローンパイロットの育成です。インフラの点検は、現状ではレベル1(目視内×手動操縦)あるいはレベル2(目視内×自動操縦)なのでパイロットが必須です。そこで2014年に一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA、ジュイダ)を立ち上げ、これまでに約3万人のドローンパイロットを育成してきました。国家ライセンス制度導入前は、民間ライセンスの主要な提供機関として機能できたと自負しています。
現在は、現場にパイロットが行かないレベル3(目視外×自動操縦×無人地帯)やレベル4(目視外×自動操縦×有人地帯)といった次世代のインフラ点検の実用化に向け、国土交通省や東京大学と一緒にドローンが離発着するドローンポートの共同開発に取り組んでいます。すでにJ-ALERT(ジェイ-アラート)と連動させ、津波時に自動で避難広報するシステムの社会実装に成功しました。

ドローン産業に立ちはだかる3つの課題
――ドローンが出始めた当時はドローンの開発が目的になっていたと思いますが、今はドローンを使った価値創造、ドローンの用途開発へとフェーズが一段上がっているんですね。ここまで来る道のりは決して短くなったのでは?
熊田氏 そうですね。でもまだ道半ば。「ドローン産業」をしっかりと立ち上げるために、これからも取り組んでいかなければならない重点課題が3つあると考えています。
1つ目は技術的ブレークスルーです。長時間飛行、バッテリー性能、電波問題の解決などで、現在も技術の進展を続けています。
2つ目は法的ブレークスルー。ドローン業界には規制が付きまといますからね。そこを突破するために産官学で対話する場が、先ほど申し上げたJUIDAです。
3つ目は人材育成です。最後はやっぱり人。産業を支える人材の確保と育成が非常に重要です。
労働人口が減り、国や自治体の予算は減り、災害は激甚化し、安全保障上の危機は高まっています。そういう時代に、人の負荷を減らし、省人化に耐えられるインフラをいかに作っていくか、という視座が重要になると思います。
インフラ分野でドローン市場が広がりにくいわけ
――「ドローン産業」が立ち上がったと言えるほど、市場はまだ形成されていないのですか。
熊田氏 ドローン市場では、社会が抱く期待やイメージと、実際の現場での導入スピードがまだ一致しておらず、残念ながら一気に普及しているとは言えない状況です。その理由として次の4点があると感じます。
1点目は、費用対効果を明確に示しきれていないことです。ドローンやロボットが本当に“元が取れる”のか、定量的な効果を示すデータが不足しているので、他業界と比べても導入の判断がつきにくい状況です
2点目は、利用シーンの認知をまだまだ広げていく必要があること。ドローンの存在自体は知られてきましたが、「具体的にどう役立つのか」についての理解がまだ浸透しきれていないと考えています。
3点目は、市場の期待と実態の時間差です。災害や事故が起きると株式市場などが一気に反応し、「ドローンの時代が来た」と期待が高まるのですが、実際の技術開発や現場実装には時間がかかります。そこに期待とのギャップが生まれてしまい、投資家などが離れてしまうケースも考えられます。
4点目は、ドローン開発の時間軸がITより長いこと。自動車の開発サイクルは約6年、ITは約6カ月と言われているのに対し、ドローンは2〜3年程度。IoTの一領域だからIT並みに速いと思われがちですが、ハード開発を伴うためPDCAサイクルが長くなる。それはしょうがないのですが、「遅い」と判断する投資家もいらっしゃいます。
だからこそ、短期的なブームに左右されず、制度・人材・技術を一体で設計できるプレイヤーが必要だと考えています。
ドローンとDXの融合がもたらすインフラ運用の変革
フソウはなぜブルーイノベーションとの連携を推進するのか
――株式会社フソウはSBIインベストメント株式会社と立ち上げたCVCファンド「FUSO-SBI Innovation Fund」を通じ、2020年にブルーイノベーションに出資し、事業連携を進めていらっしゃいます。その背景やねらいをお聞かせください。

鈴木氏 当社は1946年に香川県丸亀市に創業して以来、パイプやポンプ等の資機材商社販売機能、鋼管製造のメーカー機能、そして浄水場や下水処理場等の上下水道施設の建設を中心に事業展開してきました。
その後、上下水道の老朽化対策や維持管理が重視されるようになり、アフターサービスや運営にシフトしてきました。2016年には創業70周年事業の一環としてフソウテクノセンターを高松市に開設し、技術開発にとりわけ力を入れています。

現在、FUSOグループ全体として、水・住まい・エネルギーの3本柱で事業を展開しています。当社はグループの中核企業であり、3本柱のすべてに関係する技術として力を入れているのがDXです。今では浄水場や下水処理場の全施工案件で3Dスキャンニングを行い、設計・施工管理はもとより、受発注者や協力会社間のコミュニケーションに活用しはじめています。
熊田社長が言われていたように、ITより遅いとは言え、ドローンのハード技術は日進月歩で進化していますが、社会実装を進めるには、技術を統合し、現場で使える仕組みとして提供するシステムインテグレーションこそが重要です。DXがそのカギを握ると考えています。
上下水道分野においては、属人的な作業に頼らない、効率的で効果的な運用体制を作ることが求められています。この領域においても、ブルーイノベーションの取り組みと我々の3D技術の融合がブレークスルーを生み出すと考え、出資をはじめとする連携を進めてきました。
今は下水管内での飛行実績を積み上げ、下水管の清掃・点検・調査や修繕、改築等を手掛ける管清工業様と連携し、より良いサービスを提供できるよう開発を進めているところです。
今後は下水道分野に限らず、技術展開の領域を広げることで、国が進める「群マネ」(地域インフラ群再生戦略マネジメント。注:他分野、広域のインフラを束ねて維持管理すること)にも役立てられると考えています。

ドローンはヒトの代替にあらず
地域とインフラの関係を変える変革者だ
――NoEntryであるドローンとDXの融合に着目されたのはなぜですか。
鈴木氏 下水管内の点検など人が担ってきた作業をいかに機械化するか(ドローン側面)、人のノウハウやナレッジをいかに機能化するか(DX側面)が重要だと考えているからです。インフラを適正に管理するには、現場の知見を集約する仕組み、ドローンで得られた画像や映像の統合的な連携、そして、それらの利活用がますます重要になると考えています。
将来的には、オープンな情報をもとに誰でも扱える標準化された仕組みができ、技術や価格の差がソリューションとして適切に評価され、より良い地域インフラを構築・マネジメントしうる世界を目指したい。今はその基盤づくりの段階です。
ブルーイノベーションはドローン、我々は3Dに着目していますが、そのほかにもさまざまな新技術やツールを有機的に機能しあうことが求められると思います。多様な選択肢が用意されていれば、対象に応じて多様な組み合わせができます。ひとつの技術で完結するのではなく、複数の技術が相互に補完し合う世界を構築できればと思います。
――誰でも扱えるようになるということは、私のような生活者がインフラの維持管理に何らかの形で参加できる、そんな世界が来るかもしれませんね。NoEntryというのは、ヒトの代替技術だけにとどまらず、インフラのあり方や地域の関わり方を構造から変革するかもしれませんね。
鈴木氏 そのためにも、国土交通省の各委員会の提言や施策でも強調されていますが、まずはすべてのインフラを「見える化」することが重要です。見えるからこそ、専門業者ならではの最適な対策と実行が担えるでしょうし、住民や需要家等の視点においても協働できるところが見えてくる。データの利活用を通じてさまざまなステイクホルダーが繋がっていくものと思います。
熊田氏 世界的にはドローンを航空機とみる傾向が強く、当社もいろいろチャレンジしてきたのですが、最終的に今の「見る」「点検」に行きつきました。画像の解像度も上がり、見えないものが見えるようになりました。今はそこに省人化や、鈴木専務がおっしゃったような人の知見の機能化なども求められるようになっていますから、ドローンももっとレベルアップしなければなりません。
インフラ老朽化や少子化、自然災害がもっと深刻化するまでに、ドローンを「一時的な対症療法」ではなく、「インフラ運用の当たり前」として社会に根付かせたい。それが、私たちの役割だと考えています。
現場から見たNoEntryの現実
NoEntryと言えどNoEntryではない理想と現実のギャップ
――次に下水管の点検で実際にドローンを活用されている管清工業の小海さんに伺います。ドローン、あるいはNoEntryに対する期待や課題をお聞かせください。

小海氏 下水管の点検作業では、管内に入った作業員が下水に流されて死亡するなど悲惨な事故が無くなりませんから、業界としても、当社としても、人が入らない方向への転換、つまりNoEntryは以前から必須と考えてきました。ですが、「人が入れるなら入ったほうが安い」という古い価値観が根強く残っているのも事実です。

――確か直径80㎝の下水管までは入っていいんでしたよね。かがまないと入れません。考えただけで息が詰まりそうで、恐怖を感じます。
小海氏 そうなんです。かなり古い基準がいまだ残っていて、完全なNoEntryにはなっていません。ですから、国土交通省がNoEntryを推進していただけることに、非常に期待しています。やるからには完全なNoEntryを目指したいですね。
――完全な、というと?
小海氏 NoEntryというと、マンホールの中にも人が入らないという話が広がっているんですよ。
――そう思っていましたが、違うのですか。
小海氏 違います。下水管内はドローンで点検できても、マンホールの中までは人がドローンを運び入れてセッティングしないといけません。また、補修工事なら下水管内まで入らなくてすむ現場もあるでしょうが、改築工事にいたっては下水管内に入らずに工事することはまず不可能です。
NoEntryは良い旗印ですが、実際にできることとできないことがあります。それを明確にし、理想と実際の作業とのギャップを埋めておかないと、「なんだやっぱり人が入るんじゃないか」と評価され、普及が遅れるのではないかと心配しています。理想と現実との間にギャップがある辺りはドローンと似ているかもしれません。
ドローン点検の本質は「撮影して終わり」にしないこと
データの評価・見える化・活用がドローンビジネスを創出する
――ドローンの活用状況は?
小海氏 2025年に八潮市で老朽化した下水管が原因で道路陥没事故が発生しました。それ以前からドローンは使っていましたが、事故で一気に注目され、弊社では保有台数が3台から約20台に、オペレーターは25人に増えています。
ただ、実際にはバッテリーの持続時間が短かったり、電波が届かなくなったら墜落して回収不能になることもありますし、狭い場所では飛ばせないこともあります。「ドローンならなんでもできる」と考えず、管内の状況を広く早く把握するための点検手段と位置づけ、積極的に活用しています。
――管清工業はテレビカメラ車もお持ちですが、ドローンとどのように使い分けるのですか。
小海氏 ドローンは水位が高かったり、下水が滞留している下水管で、テレビカメラ車では調査不能もしくは機材設置に時間を要する直径800㎜以上の中大口径管で使うことが多いですね。テレビカメラ車はミリ単位の計測が必要な詳細調査で活用しています。
人が下水管内に入って実施する潜行目視をドローンで代替することもあります。 NoEntryという部分では潜行目視をドロ-ンなどの活用で機械化していくことが最重要ではないかと感じています。またデジタルデータとして動画で点検記録を残すという意味でも「人から機械」への転換は重要だと考えます。画像処理技術などもデジタル動画がなければ活用できません。
――人がやると決められている作業があると思いますが、それをドローンに置き換えてもいいんですね。
小海氏 構いませんが、技術的な基準や積算基準、資格制度がまだ存在しないので、技術的な基準や適正な対価を設定し、資格制度もしっかりと整備し、管路管理手法のひとつとして標準化するのはこれからです。
ただ、点検して終わり、動画を撮って終わり、では管路管理手法のひとつとして標準化できるとは思っていません。ドローン点検で得られた情報をどのように蓄積し、評価し、分析し、見える化し、利活用するか、そこまでを含めて考えるべきです。撮った情報を使わないのであれば、わざわざ「人から機械へ」転換する価値はないと判断されかねませんから。
しかし、ここには課題が残ります。弊社の調査結果はすべてGISと結び付けてデータベース化しているので、自治体ごとに整備している下水道台帳のGISと統合できるのですが、あまり(ほとんど)活用されていないのが実状です。
業界にアナログ思考が根強いことが一因でしょう。当社はドローンのほかにテレビカメラ車も使っていますが、こちらも「撮って終わり」が少なくありません。ブルーイノベーションの技術とフソウのDX技術のような先端技術を駆使して、撮った情報をもっと活用できる、国土交通省も弊社も以前より積極的に進めている全国統一データベースのような仕組みの構築にも更に注力していきたいです。
ドロ-ンなどこれまでの管路管理手法にはなかった点検技術が標準化されていくことで、さまざまな点検調査手法や技術を民間事業者が自由に選択できる時代が来ることを願っています。
鈴木氏 各地で検討が進む下水道管路の領域を含むウォーターPPPにおいては、効率性と調査精度の最適化を図る手法として、ドローン調査が当たり前になるかもしれません。その前提として、やはり民間事業者の自由度の高さは欠かせませんね。
「ドローンってかっこいい」が若手や女性を魅了
小海氏 余談ですが、ドローン導入による予測もしなかった効果として、若手職員や女性職員のドロ-ンに関しての関心度が非常に高く、資格取得や操縦技術向上の機会への応募が大幅に増加しました。今は2名の女性職員がドローンオペレーターとして活躍しています。学生の関心も高く、以前より進めているテレビカメラ車の遠隔操作も含めて下水道業界のイメージ向上にも貢献できると実感しています。

鈴木氏 インフラの現場作業では、多様な担い手が現場で活躍していく姿がこれまで以上に望まれます。高所や足場の悪いところでの労務の安全を確保する上でもドローンは有効です。
――障がい者の雇用にもつながりそうです。インフラ管理の現場は男性の若手が多いイメージですが、ドローンが年齢の壁、性別の壁を切り崩していきそうですね。
ドローンビジネスを創出するもう1つのカギ「基準」
――小海さんによると、下水道の現場ではドローンで何でもできるわけではない、とのことでしたが、それでも熊田さんが下水道への適用にチャレンジするのはなぜでしょうか。
熊田氏 10年前は私も「GPSも入らない下水管でドローンを飛ばすなんて無理」と思っていました。ところがこの10年で技術が進歩し、これまで困難だった場所も点検できるようになりました。ドローンは経験工学ですから、下水道での経験が技術を進化させたことは間違いありません。
下水道業界では八潮市の事故でドローンが一気に注目を集めました。しかし、点検に関していえば、実は電力やプラントなど民間インフラでのドローン活用は進んでいますが、下水道など公共インフラではあまり進んでいません。
電力などの場合はアセットオーナーがドローンを使うのに対し、公共インフラではアセットオーナーは公共、ドローン使用者は民間事業者で、所有者と使用者が異なります。だから積算基準や判定基準などさまざまなルールが決まらない現状では普及しづらいのです。
そうした中で、下水道が公共インフラでのドローン活用のロールモデルになりうるのではないか。とかく閉鎖的なドローン業界と他業界のコラボレーションの先行事例になりうるのではないか。そうなれば、他の公共インフラにも広がっていくのではないかと、ドローン業界では結構期待しています。
鈴木氏 上下水道インフラの大きな事故が起きるたびに国では対策の検討が集中的に行われますが、最終的な施設管理者が地方公共団体であることも一因であるとは言え、インフラマネジメントの根本的な課題解決のアプローチに至らない対応という印象も否めません。その一例が、和歌山県で起きた水管橋の崩落事故です。復旧対応の先にある、健全なインフラを維持するための継続的な制度改善や新技術の導入につながったとは言い難いと思います。
八潮市の事故を契機にドローン点検への関心が高まっていますが、それを一過性に終わらせてはいけません。危機感を持った継続的な取り組みが必要だと思います。
ドローン点検市場の確立へ
世界とのスピード差は埋められるか
求められる「人の安全確保」「地域経済」を前提とした制度
――上下水道業界で、ドローン点検はブームに終わるのか否か。真のNoEntryは実現できるのか否か。否のシナリオを回避するために、どのような課題が残されているのでしょうか。熊田さんがおっしゃった3つのポイント、技術と制度のブレークスルー、人材育成を踏まえつつ、鈴木さんから伺えますか。
鈴木氏 制度面では先ほどから指摘されているように、交付金の基準や積算基準など現場に即した制度整備はこれからますます必須だと思います。制度設計においてはドローンを活用するためのものではなく、作業者の安全確保、今後のインフラの担い手確保の視点を大前提とすべきです。
また、地元に仕事を作るという観点も忘れてはなりません。2015年に下水道法が改正され、腐食の恐れのある管路の5年ごとの点検が義務化された際には、地域雇用、地域経済への寄与も念頭に置かれたものと認識しています。ウォーターPPPや群マネの広がりの中で、当社や管清工業のような全国区の企業と、地元企業との良いコラボレーションモデルがもっと生まれてほしいです。
――それが十分ではないということでしたら、どこに課題がありそうですか?
鈴木氏 今は下水管だけがフィーチャーされていますが、本来は機械や電気設備も含めたストック全体を管理する、地域最適のインフラマネジメントにデジタル技術を高度利用するアクションプランが必要なはずですが、今はそうなっていないと感じています。
それ以外にも立地条件によっては斜面崩壊や台風による倒木など、さまざまなリスクを考えないといけない。そういう観点も不足していると感じます。でも、とりわけ小規模な事業体ではそれを考える人手が足りないし財源もない。確実に社会ニーズは高まっている中で、どうすればいいのか考え続けています。
前例のない新技術こそ使ってほしい
小海氏 下水道業界でドローンを普及させるには、民間企業の自由度を高めることがとても大事だと思います。公共インフラ管理の現場では使用できる機械や手法が限定されていることも多く、民間企業の自由度はさほどある状況ではありません。標準ではない新技術を使う場合は多くのハードルがあり、導入までに時間がかかる場合が多くあります。
弊社もドローンなど新技術の導入や開発を積極的に進めています。新しい技術ですからもちろん実績は少ないです。ともすると現場で予想通りの活躍ができない場合もあります。このような場合でも新規技術活用を積極的に後押ししてくれるような制度が今よりも多く出てきてもらえると、民間企業の投資意欲もさらに大きくなるのではと思います。
例えば新技術を後押ししてくれている国土交通省の「上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Crossプロジェクト)」に、更に前例なしでの採用を後押しする導入支援策もセットであれば、民間企業の新技術導入、開発意欲はもっと高まると思います。
ウォーターPPPが、民間企業の自由度の更なる発揮の突破口になるかもしれません。国民の大事な財産である上下水道管路を適正に管理するための官民連携の新しい形がウォ-タ-PPPです。その制度の中で官民が連携して新技術を積極的に取り入れ、その技術をマイナス面だけではなく育てていけるような評価をしていくことで、ドロ-ンなどの新技術の導入や開発の速度は速くなると思います。
これが良い意味での民間の技術力競争にもなるはずですし、地元企業のドロ-ンなどの新技術導入にもつながり、地域経済の活性化にもつながるのではないでしょうか。本来のPPPはコストダウンが第一の目的ではなく、新しい手法や技術を積極的に導入し地域経済も活性化させながらより良い管路管理を官民(利用者も含め)で創り上げていくことだと考えます。ドロ-ン技術がその突破口のひとつになることを期待しています。
鈴木氏 自治体には、交付金をどう使うかという自由度が必要だと感じます。今の交付金は公共財(モノ)に対して配られますが、サービスに使われてもいいのではないでしょうか。デジタル技術の進化によって、ツール、ソリューションの仕方も変化しています。それが結果としてモノの健全度を高めることにつながる、という発想も大事だと思います。
「メンテナビリティ」がドローン点検を加速
小海氏 メンテナビリティ(メンテナンスしやすい設計)の視点が出てくると、ドローン点検が一気に進むかもしれませんね。ここにハンドホールをつければドローンを飛ばせるとか、ここに何かを置けばカメラを入れられるとか。
八潮市の事故を受けて設置された「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」が2025年12月にまとめた第3次提言で、下水管の再構築では「メンテナビリティ」と「リダンダンシー」を確保することとされました。コストも時間もかかるリダンダンシーに比べ、メンテナビリティなら少ない金額で短時間で対処できますから、進み始めればドローンの普及も早いのではないでしょうか。
鈴木氏 電力やガス、道路管理にも下水道の技術を適用できると思います。下水道の情報を他インフラで活用できるかもしれません。もちろん、その逆も考えられるでしょう。急激な社会状況の変化の中で、新しいビジネスモデルが生まれる可能性は大いにあると期待しています。
世界に飲み込まれる前に柔軟でアジャイルな制度運用を
――上下水道業界でドローンを普及させるうえで、ドローン業界から見た時にどのような課題がありますか。
熊田氏 海外では民間企業が先行して事例を作り、それから法規制が整備されていく民間先行型が多く見られます。失敗も含めて実験を繰り返し、アジャイル的に技術開発も法改正も前に進めています。アメリカや中国、オーストラリア、カナダなどはとくにスピード感も柔軟性も高いと感じます。
今、フィジカルAIが大きな話題になっていて、ドローンで体験しているものを AIで認識し、それをまたドローンにフィードバックしていくような技術開発が急速に進んでいます。日本も取り組んでいますが、従来の制度運用では世界のスピードとの差が広がりつつあるように感じます。
さらに最近は安全保障分野がドローン技術を強く牽引し始めており、海外のルールや価値観が大きな影響を与える可能性があるという声が、業界内でも聞かれるようになっています。民生分野と安全保障分野のバランスをどのように取っていくのかは、慎重な議論が求められるテーマだと考えています。
こうした状況を踏まえると、日本においても、より柔軟で実証を重視した制度運用へと進化させていくことが、国際競争力の観点からも重要になってくるのではないでしょうか。
――日本の上下水道業界もスピード感が必要ですね。それでは最後にこれだけは言っておきたいことがありましたらお願いします。
小海氏 先ほども話したように、現状では「NoEntryではできない」ことがあります。今後の管路管理が本当にNoEntryになっていくのかどうか、奥田さんのように業界のオソトにいる方々にしっかりと見届けていただきたいです。
――承知いたしました。本日はありがとうございました。

Webジャーナル「Mizu Design」編集長 奥田早希子



