日立製作所は先月から、上下水道事業の経営課題の解決を支援するクラウドサービス「O&M支援デジタルソリューション」の提供を開始した。ソフトの販売ではなく、サービスの使用料として対価を回収する。これまで設備の売り切り型ビジネスが主軸だったが、今後は新サービスを武器に運営・マネジメント事業も強化する。
「上下水道もモノからコトへの移行が必要だ」
同社の千葉直利水ビジネスユニット事業開発推進本部長は、先日のインタビューに対してこう意気込んだ(「【PPP新戦略】デジタルソリューションで目指す変革」)。
モノとは、プラントや設備などのプロダクトだけではない。民間委託が進む運転管理でさえ「多くの事例はこれまでは官が担っていた作業の委託に過ぎず、“決められた役務”というモノを提供する段階にとどまっている」。これに対してコトは「経営」だとする。
上下水道業界はプロダクトの売り切り型ビジネスが主流であったが、整備が進み、今後はモノ売りの市場が縮むことは避けられない。逆に経営支援のコト市場は膨らむ期待があり、各社が対応を急ぐ。同社の新サービス投入は、モノからコトへの転換の本気度を示したものと言える。
新サービスの第一弾として、3つの機能の提供を開始した。
1つ目は、AR(拡張現実)を活用した「設備保全支援機能」。作業員は眼鏡型ウェアラブル端末やタブレット端末を使って過去の故障・修理履歴を現場で確認したり、遠隔で熟練者から作業指示をもらえたりする。上下水道の熟練運転員・技術者が減少する中、ノウハウの継承とともに、作業員の熟練度によらない安定した運転につなげる。
2つ目は、IoTを活用した「プラント監視機能」。設備に取り付けたセンサーからデータを収集し、稼働状況を可視化する。
3つ目は「台帳機能」。設備の稼働年数や故障・修理履歴、点検結果などの情報をデジタル化して一元管理する。
同社が独自に構築するIoTプラットフォーム「Lumada」を活用する。
今後は順次、提供する機能を増やしていく。現時点で予定されているのは、設備の状態に応じたメンテナンスを可能にする「設備状態診断機能」、熟練者の運転ノウハウを基にAIが効率的な運転を支援する「プラント運転支援機能」、運転実績データと天候などのオープンデータも基にAIが適正な薬品注入量などを示す「水質予測機能」の3つ。
これらが適用されれば、まだ使える設備なのに耐用年数が来たから取り替えるという無駄や、劣化が進んでいるのに耐用年数前だから取り替えられずに起こる事故の防止につながることが期待される。また、安全を見て過剰に薬品を注入するような無駄の防止にもつながる。現在は同社が運用を受託している施設で実証実験を行っている。
国内の上下水道事業は、老朽化した施設の更新投資の増大、人口減少による事業収入の減少などにより、事業運営の一層の効率化が求められている。今後は個別施設の効率化のみならず、複数自治体の施設管理を一体化したり、事業統合したりする広域化の際、施設の統廃合シミュレーションにも活用する。また、新サービスを武器に、上下水道事業の運営受託の件数増加につなげる方針である。
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています