包括委託や指定管理者制度、水道法の改正により取り組みやすくなったコンセッションなど、持続可能な上下水道インフラの実現に向けた官民連携の制度整備が進んできた。今後はいかに実行していくかが問われる。上下水道以外にも数多くのインフラの官民連携事業に携わってきた日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門の石田直美部長に、実行面での課題などについて聞いた。2回に分けてお届けする。
コンセッション特有の追加コストに課題
――コンセッションは持続可能な水道の選択肢となり得るか。
「可能性はあり、期待している。自治体の人的リソースに課題があるようなケースで特に有効だろう。しかし課題もある。
コンセッションでは更新費用を調達する民間の創意工夫によって、更新投資の効率化、最適化を実現し、運営経費と合わせてトータルコスト削減につながると期待されるしかし、自治体が更新をする場合の有利な資金調達手段に比べて民間の金利コスト、さらには法人税負担がマイナス方向に働き、結果的に費用の削減効果を打ち消してしまうケースが多い。
VFMが低めになると、感情的にコンセッションに反対する人を説得する負担も大きくなってしまう。地域の合意形成を取り、導入にこぎつけるまでのハードルは多くの自治体にとって高すぎると感じる。水道法改正をきっかけにすぐに案件が増えるとは残念ながら考えにくい。様々の試行錯誤が必要だろう」
「コンセッション」と「工事を含む包括委託」の“中間”
――では、上下水道サービスを持続するために、どのような官民連携が望ましいのか。
「更新工事を含めて、5~10年の期間で運営管理を包括的に民間委託する例が増えている。熊本県荒尾市の水道事業や群馬東部水道企業団の取り組みが有名だ。コンセッションとの相違点は主に2つあり、1つは事業者責任が法的にも契約的にも自治体にあって、民間は表に出ないこと。もう1つは更新の財源が公共資金であることだ。
この場合、先述したように自治体の資金調達コストは民間より割安に抑えられる利点がある半面、工事をすれば公共資金が民間に支払われる、つまり工事をすればするほど民間は儲かるスキームなので、投資を減らすより工事を増やす、というゆがんだインセンティブが働く恐れがある。
コンセッションと、工事を含む包括委託のいずれにも一長一短がある。これら2つの方法の中間位の選択肢は考えられないだろうか。一定程度の民間資金を使うが、事業者責任は自治体が負うことで安心感を保つスキームだ。延払いにより民間が投資回収リスクを一定負担するサービス購入型PFI的なスキームとも言える。
他分野であるが、設備投資を民間資金で賄った場合、それを公共資金で賄う公設民営事業に比べ投資が削減される傾向が確認できた。民間は自ら資金調達しなければならないとなれば、なるべく合理化して投資コストを抑制しようと工夫するのは当然だ。
人口減少や技術イノベーションなど、上下水道インフラを取り巻く環境は変わっていく。前例主義的に投資コストを公共調達するのではなく、投資回収のリスクを一部でも民間にも負ってもらって合理化のインセンティブを高めることには意味がある。しかし、今のコンセッションに躊躇のある自治体の場合、更新リスクを民間に移転する選択肢が用意されていない。水道法改正をゴールとせず、これからも官民連携に多様な選択肢を考えていくべきだ」(つづく)
「環境新聞」編集部、聞き手:Mizu Design編集長 奥田早希子
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