民間参入の前提はデータと料金改定

持続可能な水インフラと官民連携(4)東洋大学、根本祐二氏に聞く (下)

昨年12月、改正水道法が成立した。改正のポイントはいくつかあるが、とりわけコンセッションに関わる条項については「水道の“民営化”で料金が上がる」「水質が悪化する」など反対意見が根強い。法改正は水道事業の持続可能性につながるのか。公共事業の公民連携や公共インフラの老朽化問題に詳しく、内閣府PFI推進委員会委員でもある東洋大学経済学部の根本祐二教授へのインタビューの後編をお届けする。

民活で予防保全型の維持管理へ

 ――民間がコンセッションで運営すると、水道事業の経営が不透明になるとの指摘がある。

「法改正で情報開示が管理者の義務になったので、それは運営権者である民間にも適用される。不安があれば民間に開示義務を課せばいい。

儲けすぎるとの指摘もあるが、適正利潤は考えないといけない。電力、ガス、鉄道には公共料金として認可するプロセスがある。同じように公共料金として判断できるような制度設計をすればいい。電気などの公的サービスは民間が提供できているのに、水道だけできないことはない」

――民間に災害への対応力はあるか。

「官の災害対応は事後保全だ。被災したり、壊れてから、予備費や特別交付税で対応する。増税も可能で、それがソフトバジェット(緩い予算制約)を生む。それでも自然災害は局所的かつ一定の確率でしか起こらないので、国による対応は可能だ。

一方、老朽化は全国レベルで同時進行しており、国は面倒を見切れない。各事業体でやるしかない。ただし老朽化は自然災害とは違って完全に予想可能であり、事故が起こらないよう事前に対応する予防保全ができる。事後保全型より費用対効果を高くすることはできる。それができるのは民だ。民は復旧費として交付税がもらえるわけではなく、サービスが止まれば利益があがらず事業が持続しない。そうならないよう予防保全するのが民の力だ」

 ――課題は。

「水道コンセッションに手をあげる民間はいるのか。どこに配管が埋まっていて、いつ修繕したかも分からない現状では、リスクが高すぎて民間は容易には参入できないだろう。まずは官がデータを完備し、適切な水準まで料金を値上げをしたうえで、民間に渡す必要がある。

民がやると料金が上がるという声もあるが、それは間違い。官がやっても料金は上げないと持続できない。値上げした状態で民が引き取り、民の努力で値下げをしていく。値上げのリスクまで民は負えない」

技術のブレークスルーで“量”の削減を

――上下水道サービスを持続させるうえで、インフラの量を減らすことも必要だ。

「公共施設(ハコモノ)の場合、ハコには公共性が無く、そこで提供されるサービスに公共性がある。集会場が無くても集会はできる。例えば学校にすべての公共機能を統合して他の公共施設を無くしても、サービスレベルはそれなりに維持できるし、劇的に維持コストを安くできる。

しかし、土木インフラはモノそのものに公共性があるので、モノが無くなったらクオリティが下がる。上下水道、道路、橋梁すべての維持に必要な年間コストは4.6兆円と見積もっているが、これを減らすには量を減らさないといけない。だが、非常に難しい。

下水道の場合、人口密度の高いところは公共下水道、低いところは浄化槽という具合に役割分担することで、量を減らすことはできる。ただし、社会全体のコストは大幅に減るわけではない。下水道も使用料の値上げは必要だ。

ところが、水道には、浄化槽のようにネットワークインフラに依存しない分散型の形態が存在しない。分散型の可能性として地下水専用水道と給水車があるが、地下水専用水道はスケールが必要でリゾートホテルや病院などには可能だが、限界集落には適用できないだろう。給水車にしても、少人数の集落に適用している実例では1人当たりの原価が非常に高く、一般化するのは現実的ではない。となると受益者負担で料金の大幅値上げしかない。水を安価に運ぶ技術などのブレークスルーが待たれる」

「環境新聞」編集部、聞き手:Mizu Design編集長 奥田早希子

第3回「水道法改正の最大の意義は”情報”」
第5回「効率化の鍵は民による更新投資のマネジメント」→

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています