昨年12月、改正水道法が成立した。改正のポイントはいくつかあるが、とりわけコンセッションに関わる条項については「水道の“民営化”で料金が上がる」「水質が悪化する」など反対意見が根強い。法改正は水道事業の持続可能性につながるのか。公共事業の公民連携や公共インフラの老朽化問題に詳しく、内閣府PFI推進委員会委員でもある東洋大学経済学部の根本祐二教授に聞いた。
値上げ合意のためのデータ構築を
――今回の法改正は“改悪”だったのか。改正の意義は。
「現在の水道台帳は情報が不十分であり、これからどれくらいの費用が必要なのか、それを料金で回収できるのか、できない時にどうすればよいかを考えることができなかった。適切な維持管理費は料金に見込んでおらず、結果として適切な維持管理ができていない。
これまで大きな問題にならなかったが、水道管の破損による断水は各地で起こっている。施設はますます老朽化するので、これまで維持管理してこなかった分、事故のリスクは高まる。過去にすべきだった修繕も行い、早めに更新していくとなると、料金値上げは避けられない。値上げの妥当性を説明するには、数値データがいる。そのために今回の法改正では、台帳整備、将来の更新投資の計測と公表が義務付けられた。その意義は大きい」
――値上げは避けられないか。
「水道事業を持続させるには料金値上げは必須だ。その上げ幅を少なく済ませる方法として、改正法には広域連携と公民連携の2つの手法が盛り込まれた。
ただし、水道がネットワークインフラである以上、2つの浄水場を広域連携させたとしても、2つの学校を1校に統廃合するほどの劇的なコスト削減の効果はない。公民連携にしても、すでに水道の維持管理や運営は民間への業務委託が進んでおり、民間ノウハウがそれなりに入っているので、劇的な効果は期待できそうにない。
水道を持続させるうえでこれら2つは補助的な手法であり、やはり値上げの効果が大きい。値上げの合意形成を得るための情報を作ること、これが法改正の最大のポイントだ」
ペットボトル水が安心なら民が作る水道水も安心
――法改正には反対意見が多い。値上げにつながるとの意見については。
「法改正が行われなければデータ開示が遅れ、水道事業の赤字はさらに増える。それは税金で賄うしかない。水道は普及率がほぼ100%なので、必要コストを料金でとっても税金でとっても本質的には変わらないが、水道事業が原則とする受益者負担は使った量に課金する制度だ。それが正しいならば、税金の補てんは間違っている。10倍も20倍も値上がりする話ではないので、国民は許容しないといけない」
――「法改正によって水道が“民営化”されると飲み水の安全性が失われる」との反対意見については。
「複数のメディアの方や反対派の方とも話をしたが、何条の何項に反対なのかを答えられた人はいない。条文を読んでいないからだ。とにかく『民間に水道を任せられない』から反対すると言う。
しかし、民間に任せるという条項や民営化するという条項は含まれておらず、あくまでもコンセッションだ。コンセッションは2011年のPFI法の改正ですでに規定され、水道事業にも適用できるようになっていた。ただし、水道事業者が管理者の権限を放棄しないといけないという課題があった。市町村が施設を所有し、民間が運営し、管理者が不在となる。これでは不安定だ。空港コンセッションなどはそうなっているが、水道では法的に位置付けられた管理者の責任は重く、無視できない。そこで、市町村が管理者としての立場を維持したままコンセッションできるようにした。
つまり、公民連携に関する条項は、反対派の懸念を払しょくするためのものだ。それに反対が出ることは想定していなかった。きちんと説明すると、反対派の方も納得してくれる。
それでもコンセッションに反対する人はいる。水道を民間が運営することが心配だと言う。しかし、そう言う人もペットボトル飲料は飲むし、フランスから輸入されたペットボトル水『エビアン』も飲む。それは民間が作ったものだ。なぜ心配しないのかと言うと、衛生基準をクリアしているからだ。病気になった時、民間病院にも行くだろう。医師免許という裏付けがあるからだ。弁護士は基本的にみな民間人だ。つまり、官だから安心で、民だから不安なのではない。
水道水も同じことで、だれが作ったかではなく、水質基準をクリアしていたり、製造者の能力の裏付けがあれば安心できるはずだ。民間は基準を守らないとビジネスができないので、自ら質を劣化させる行動はしない。市販の飲み物を官が供給しているわけではないのと同じく心配する必要はない」(つづく)
「環境新聞」編集部、聞き手:Mizu Design編集長 奥田早希子
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※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています