KPMG/あずさ監査法人はこれまでに、多くの自治体の上下水道の課題解決に携わってきた。パートナーの村松啓輔氏と伊丹亮資氏へのインタビューを2回に分けてお送りする(第1回目)
自治体の危機感強まるも見えない具体策
――官民連携に関する案件に変化は見られるか。
伊丹氏「最近は『上下水道事業を持続させるために何をやればいいか』という漠然とした問い合わせが多い。地方の小都市からも問い合わせが来ている。
広域化や施設の統廃合、県営水道からの受水など、いくつかの解決策は知っていて、なんとなく将来設計も考えているが、実際にどう進めるかは分からない、というケースが多い。
まずは、将来的な更新投資額、収入減少の予測などの課題整理が重要だ。そのうえでベストと思われる選択肢を見つけるお手伝いをしている」
――上下水道の事業継続に対して危機感を強める自治体が増えていることは良い。
村松氏「将来的に老朽化した施設の更新投資に莫大な予算が必要になることは以前から示されていたが、それが“いずれ”ではなく、いよいよ遠くない将来になってきた。どうすればいいのかという漠然とした不安や危機感は、すべての自治体が共有しているだろう。しかし、そのすべてが投資額の将来予測を数字で把握できているわけではない。
自治体の規模や立地条件、水源の場所なども踏まえ、自治体ごとの最適解を探るしかない。手つかずの自治体では、まず長期的な視点で、水道施設の維持修繕、更新の計画を作成し、事業の将来収支の見通しの作成に着手する。いわゆるアセットマネジメントを自治体も推進する必要がある。」
長期的な収支見通しに基づく事業判断を
――事業継続に取り組むうえで、自治体の課題は。
伊丹氏「絶対的に人手が足りない。職員は日常業務で手いっぱいなので、事業継続の課題に労力を割くことが難しい」
村松氏「自治体が単独で取り組むには限界がある。中央省庁の各種調査補助制度を活用し、監査法人等の外部専門家の活用が有効と考える。」
――会計士の立場から見た上下水道の課題とは。
伊丹氏「財務情報と設備情報がつながっていないことだ。
上下水道には、固定資産台帳と設備台帳がある。固定資産台帳には資産の会計上の価値に関する情報が、設備台帳にはその資産のメーカーや仕様、修繕履歴などが記載されている。普通の会社なら両者が紐づいているが、上下水道ではそうなっていない。
現場職員は設備台帳を見て、このポンプは古くなったから交換時期だ、と思うが、帳簿価格が分からないので、リプレースするか否か、するならいつか、といった最終判断を下せない。
アセットマネジメントには、両者の有機的なつながりが不可欠だ」
村松氏「アセットマネジメントに基づき五年程度の中期収支見通しは作成されているが、それでは不十分だ。なぜなら管路の耐用年数は法定でも四十年と長く、その更新時期も見通す必要があるからだ。
そのような長期の収支見通しがあれば事業継続のために将来的に何が必要になるかが明確になる。
また、住民に対する説明責任を果たすためにも、長期の収支見通しの作成は必須だろう」
「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています
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