【寄稿】ホンマに大変! 上下水道事業の官民連携(上)

地に足をつけて考えよう 深澤哲・クリアウォーターOSAKA常務取締役

 上下水道事業は今、施設が老朽化して更新投資が増大するにもかかわらず、人口が減って料金収入は減少し、財政難によって管理する技術者も雇えないという厳しい状況に置かれています。そうした課題を解決する手法として、官民連携への期待が高まっています。とりわけ、施設の所有権を官側に残したまま、運営権を民間企業に売却するコンセッションと呼ばれる方式が注目されています。しかし、果たしてコンセッションだけが唯一の選択肢なのでしょうか。実はそこには、これまで議論されてこなかった課題が残されているようです。

やってみなければ分からない、そんな考察について、大阪市から全面包括業務委託を受けて下水道施設の運転管理を行っているクリアウォーターOSAKA株式会社の深澤哲常務取締役に投稿していただきました。3回にわたってお届けします。

市長から「上下分離」の指示を受け…


大阪市市岡下水処理場の処理槽(深澤氏提供)

私は、大阪市 100%出資のクリアウォーターOSAKA株式会社という、同市全域の全下水道施設(全ての処理場、管渠、ポンプ場)の運転維持管理を包括的に受託する会社の常務取締役をしています。

大阪市建設局は、2011 年 12 月に市長からの「下水道事業は上下分離方式による経営形態へ変更を」との指示により、事業スキームや委託方式の検討に着手しました。上下分離方式とは、下水道施設の所有や政策決定など「上部」を行政が担い、運営や維持管理など現場業務中心の「下部」を民間に委託する官民連携の手法の1つです。

上下分離方式に移行する移行措置として、既存の一般財団法人都市技術センターを活用した試行的委託を行った上で、2017 年 4 月に本事業の目的のために設立された当社と、大阪市との間で行政契約(あるいは私法上の契約)に基づく全面包括業務委託(コントラクト・アウト方式)により、本格的に業務の開始となりました。全国で初めての取り組みです。

このコントラクト・アウト方式とは、PFI とか公共施設等運営権などのように、海外に範をおき、あらかじめ法律で一定の枠組みを定めた方式(プレタポルテ)を採用するのではなく、対象となる事業や自治体の特徴や状況に応じて、委託者と受託者との間で事業実施の枠組みを設定するもの(オートクチュール)です。

以下では、この制度設計から事業運営実施までの経験に基づいて、官民連携方式による上下水道事業のあり方について、いくつか考えるところを述べさせて頂きます。

上下水道の制度と歴史は日本の知財だ


大阪市内にある浄水場(深澤氏提供)

上下水道は基礎インフラです。インフラとは、「人間が人間らしく生きるために必要な基盤を整備して運営すること」と定義することもできます。いくらペットボトル水が普及しても、お風呂や洗濯には水道水を用いますし、少なくとも都市部において下水道に代替する機能をはたす存在はありません。

この観点からすると上下水道事業は、代替性があまりない、日常生活に不可欠な存在です。言い換えると、サービスの提供が止まると最低限の生活がなり立たなくなってしまいます。

このような事情を背景に、日本での近代的な上下水道事業は、政府によって整備運営されてきました。また、これを前提として法律(ex. 地方公営企業法、水道法、下水道法)や税財政面での支援制度なども整備されました。

その結果、上水道では「安心で安全な水を安定的に、お客様へ供給すること」が、そして下水道では「公衆衛生、環境保全、および防災の各面において、地域住民から求められる安全と安心を継続的に提供すること」が実現し、維持されてきたのです。

この日本で構築された制度枠と歴史的経験は、現在でもガラパゴス化した存在ではなく、むしろ途上国などへも移転できる「知財」です。クリアウォーターOSAKAによる事業受託方式を検討する際には、こうした枠組みの制度的あるいは経済合理的メリットの恩恵をいかに享受するかも重要な課題でした。先人の知恵は簡単にはないがしろにできません。

そもそも、なぜ官民連携に期待するのか

ところが近年では、官民連携とか PPP(Public-Private Partnerships)と称される、従来は政府セクターが担ってきた事業に民間セクターが参画する方式の導入が、上下水道事業でも真剣に検討され、模索されています。

これは、1)事業持続への懸念(人材や技術の不足による事業継続性への懸念)、2)収入財政面の悪化(ex. 対象人口の減少による収入減や容易ではない料金改定)が主たる原因です。大規模な自治体でも大きな問題ですが、規模が小さい自治体であるほどに悩みが深刻となっています。

そこで民間企業により、足りない人員や保有しない技術ノウハウを提供してもらうことで事業を持続させ、経済インセンティブを活用して経営の効率化を少しでも実現させようというのが行政側の期待です。

基礎インフラの視点からすると、「事業継続への懸念」のほうが「収入財政面の悪化」よりも一層に緊迫した重要な課題です。

他方で民間の事業者からは、「作る時代から育てる時代への変化」といった言葉に象徴されるように、現下では新規整備が見込みにくくなってきている中、新規よりも既存施設に着目することで更新投資や運営管理で収益を確保できるといった戦略があると推察されます。

(つづく)


寄稿者:深澤哲・クリアウォーターOSAKA株式会社常務取締役 

1982年日本開発銀行(現株式会社日本政策投資銀行)入行。日本経済研究所インフラ本部長および一般財団法人都市技術センターの常務理事として、国内外の上下水道や電力などインフラ分野での事業制度設計等に従事。大阪市下水道事業の上下分離には構想段階から関与してきた。株式会社大阪水道総合サービス取締役。2017年4月より現職。

※本ペーパーでの意見や見解は深澤氏個人のものであり、所属する組織のものではありません

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