ホルムズ海峡が揺らす「日本の食とエネルギー」
ホルムズ海峡の不穏な情勢が、燃料代の高騰や石油由来製品の不足など、日本経済にじわりと影響を及ぼし始めている。日本がエネルギー資源のほとんどを輸入に依存する「資源貧国」であること、そして中東情勢にいかに脆弱であるかを改めて痛感させられる状況だ。
国産資源があればこのリスクは緩和できる。しかし、日本にそのような資源はあるのだろうか。
答えは意外にもシンプルだ。私たちが毎日排出している「ウンチ」と「おしっこ」である。
(上・肥料編)では、「ウンチ」と「おしっこ」が肥料としてホルムズ海峡リスクを緩和し得ることを見てきた。(下)では「エネルギー」としての可能性を考える。実は「ウンチ」と「おしっこ」はエネルギーとしても高いポテンシャルを秘めている。
ホルムズ海峡が止まれば、暮らしはどうなるか
(上・肥料編)で述べたように、世界の原油と天然ガスの約2割がホルムズ海峡を通過している。さらに日本が輸入する原油の約9割は中東産であり、その大半がこの海峡を経由する。
ここが封鎖、あるいは不安定化すれば、エネルギーだけではなく、様々な面で生活への影響は避けられない。
・燃料不足
・食品トレーなど石油由来製品の不足
・ガソリンや食料品の高騰
肥料と同様に、最終的には「家計への直撃」となる。
原油先物価格(WTI)は2026年1月末に1バレル=65ドルだったが、中東情勢の悪化を受けて上昇し、4月7日には112ドルまで高騰した。停戦発表後にやや下落したものの、4月22日時点でも93ドルと高止まりしている。(参考元)
ホルムズ海峡が止まると何が起きるか

「資源貧国」日本に残された選択肢
こうした外部要因に翻弄されるのは、日本がエネルギー資源の多くを輸入に依存しているためだ。
では、国内に使える資源は本当にないのだろうか。
実は、見過ごされている資源がある。
それが下水汚泥である。
下水汚泥はウンチやおしっこをきれいにする過程で発生するもので、約8割が有機物資源、いわゆる「バイオマス」である(参考元)。このバイオマスが肥料にもなれば、エネルギーにもなる。
日本で発生する下水汚泥から得られるエネルギー量は、総発熱量で約43PJ(ペタジュール)に相当し、これは原油約110万キロリットル分に匹敵する。日本の年間石油消費量(原油換算:約1,750万キロリットル)と比べると約0.6%に過ぎないが、国産エネルギーとしては無視できない規模だ。(参考元)
わずかでも国内で賄える割合が増えれば、中東リスクの緩和につながる。
下水はどれだけのエネルギーを持っているのか

下水はどうやってエネルギーになるのか
下水汚泥のエネルギー利用は、主に次の3つに分けられる。
■熱
・バイオガスを燃焼
・下水そのものの熱を活用
■電力
・バイオガス発電
・炭化汚泥による発電
・処理水を利用した小水力発電
■自動車燃料
・バイオガスを天然ガス代替として利用
特に中核となるのが「バイオガス」だ。下水汚泥を発酵させることで発生し、その約60%がメタンで構成される。都市ガスの約半分の熱量を持つ、実用的なエネルギー源である。(参考元)
下水からエネルギーを生み出す方法

全国で進む先進事例
すでに各地で実装が進みつつある。
全国で進む下水のエネルギー活用(一例)

これらはすでに「実証」ではなく、「実装」の段階に入っている。
それでも進まない理由
一方で、普及はまだ道半ばだ。
下水汚泥のエネルギー利用率は約26%(2022年度)にとどまる。肥料利用と合わせても、バイオマス資源として活用されている割合は2024年度時点で42%と半分に満たない。(参考元)
技術的には可能であっても、
・設備投資の負担
・下水汚泥の量の確保(特に小規模自治体)
・制度設計の遅れ(広域化などによる量確保)
といった課題が、導入のハードルとなっている。
それでも活用は進んでいない

「下水」はエネルギー安全保障になる
先述したように、下水汚泥の約8割はバイオマスである。つまり、本来は再利用できる資源が、まだ十分に活かされていない。
その活用を進めることは、単なる環境対策ではない。エネルギー安全保障の一部を担う取り組みでもある。
ウンチで電気がつき、ウンチでバスが走る。
一見ユーモラスに聞こえるこの未来は、実は現実的な選択肢だ。
ホルムズ海峡の向こう側に依存するのか。
それとも、自分たちの足元にある資源を活かすのか。
その問いは、すでに私たちの目の前にある。(完)


