東京ビッグサイトで開催された水処理技術、水インフラのスマート化を推進する専門展示会「水イノベーション展」に7月19日に行ってきました。BtoCの分野ではモノ消費からコト消費への流れがあります。BtoB、BtoGにおいても、モノ提供からコト(ソリューション)提案に移行しないと生き残れないと感じています。どのような水ソリューションが提案されているのか、水の未来を考えるヒントに出会えると期待して行ったのですが、出展していたのが32社・団体と少なく、展示内容も工場排水処理設備などモノがほとんどで、イノベーションが感じられるものではありませんでした。
とはいえ、今後を考えさせられる展示も2社ありました。
工場の「脱・下水道」
(photoAC)
その1つがオルガノです。ブースで目に飛び込んできたのが「下水道使用料をゼロに」という文字です。食品工場など有機系の排水処理に、膜と微生物の働きで処理する膜分離活性汚泥法による排水処理装置「OFAS」(オーファス)を導入し、処理水をそのまま河川などに放流できるレベルまで浄化することで、下水道の使用を辞められるという提案です。1日に1,000m3の下水を出している工場で、下水道使用料が約450円/m3の場合、年間で1.6憶円の下水道使用料をゼロにできるとの試算が示されていました。もちろん初期投資は必要ですが、長期で見ればVFMが出るそうです。
ブース担当者によると「下水道使用料はこれから値上げの方向にあるので、下水道を辞めてコスト削減をしたいというニーズは増えている」そうです。さらにUF膜による水処理装置を組み合わせれば、排水リサイクルも可能です。そうなると上水道や工業用水の使用量削減にもつながります。
上下水道施設は老朽化が進み、更新に必要な予算確保が課題となっています。工場での自前処理が進むのであれば、そこの下水管は更新しないでコストを削減するという選択もできるのかもしれません。上水道や工業用水の使用量が減るのであれば、浄水場を小規模化したり減らしたりできるのかもしれません。あるいは、下水道で工場排水を受け入れ続けた方が規模のメリットが働き、バイオマスも一括して有効活用できるのかもしれません。
工場は工場の、下水道は下水道の、上水道は上水道のことだけを考えて最適解を出せたとしても、それらを足し合わせたら地域にとっては非合理になってしまう恐れがあります。合成の誤謬です。これからの水デザインは地域を統括的に考えなければならないと感じました。
市場拡大が期待される企業の水リスク対応支援
(photoAC)
もう1つは八千代エンジニヤリングです。今年から企業の水問題をまとめて解決する「水リスクラボ」を展開しており、工場などに潜む水リスクを知る入口として、地域の水資源量が分かる「水の地図」を提案していました。
ここ数年、企業の環境面・社会面・統治面に着目したESG投資の機運が高まっており、洪水・渇水リスクや、使用している水源の汚水リスク、水の使用や排出への批判などレピュテーションリスクまで考えなければならない時代になっています。
ブース担当者によると「ブースにお越しいただくのは生産担当の方が多く、水に目を向けないといけないと言う方が増えていると感じます。また、これまでは大企業の方が多かったのですが、大企業の要請を受けて対応を迫られている中小のサプライヤーの関心も高まってきた」そうです。
これまで工場の水対策というと節水と排水処理くらいでしたが、今後は多様な水リスクに向き合う必要があります。その歩みは始まったばかり。企業向け、さらには自治体向けも含め、水リスク対応支援の市場はこれから広がる予感がします。
(MizuDesign編集長:奥田早希子)