奪い合いの競争に未来はない──協創が導く希望の社会

山口乃理夫 東亜グラウト工業代表取締役社長

山口乃理夫 東亜グラウト工業 代表取締役社長

奪い合いの競争に未来はない──協創が導く希望の社会

私たちはいま、国内外のあらゆる場面で「奪い合い」の構図に巻き込まれています。限られた資源、人材、情報──それらを巡って繰り広げられる競争は、まるで他者を打ち負かすことが前提かのようです。一度立ち止まって考えてみませんか。本当にその先に、持続可能な未来はあるのでしょうか?

もちろん、競争そのものが悪だとは言いません。競争が技術革新や成長を促してきた側面も確かにあります。しかし、それが「奪うこと」を目的とするなら、私たちは無意識のうちに、ゼロサムの世界に自らを閉じ込めてしまっているのではないでしょうか。誰かが得をすれば誰かが損をする、そんな前提のもとでは、心から希望を持てる未来など描けません。

「奪い合いの競争に未来はない」。この言葉は決して感情的な主張ではなく、冷静な現状認識です。私たちが置かれている環境は、気候変動、人口減少、地政学的緊張など、複雑で絡み合った課題に満ちています。これらの課題に、従来の「勝者総取り」的な発想で立ち向かっても、抜本的な解決には至りません。むしろ、分断と疲弊を深めるだけです。

一方で、「協創」という考え方があります。これは、異なる立場、背景、スキルを持つ人々が手を取り合い、単独では成し得なかった価値を共につくり出すというアプローチです。競い合うのではなく、力を重ね合う。奪い合うのではなく、掛け合わせることで新たな可能性を広げていく。この発想こそ、これからの時代に求められる変革の鍵だと私は信じています。

具体的な例を挙げてみましょう。たとえば、「エネルギー×農業×観光」という組み合わせ。再生可能エネルギーを活用したスマート農業と、その現場を訪れ学ぶツーリズムを融合すれば、環境にやさしく、教育的価値もある地域資源となり得ます。これにより地域の魅力を国内外に発信することも可能になり、地域経済の活性化にもつながります。

あるいは、「福祉×テクノロジー×地域社会」という掛け算もあります。高齢化が進む地域で、介護ロボットや見守りAIを地元住民と連携して導入することで、高齢者が安心して暮らせる環境を共につくることができます。その結果、地域に根ざした新たな雇用や、デジタルスキルの習得機会も生まれ、地域全体の自立性が高まります。

さらに、最近注目されているのが「教育×スタートアップ×行政」の協創です。教育機関と起業家精神を育むスタートアップ、そして地域行政が連携することで、子どもたちに実践的な学びの場を提供しながら、地域課題を解決する新しいサービスを共に開発することができます。たとえば、放課後の時間を活用した課題解決型プログラムを通じて、子どもたちは学びと社会貢献を同時に経験し、地域社会との接点も広がっていきます。

こうした協創の土壌を育むうえで欠かせないのが、「パーパス」と「レジリエンス」です。パーパスとは、言い換えれば「生きる目的」や「自分が社会にどう貢献したいか」という個人や組織の存在意義です。これが明確であるほど、人は自分の持ち場で役割を果たすことに誇りとやりがいを感じられます。パーパスを中心に据えることで、協創に向けた共通の目標が定まり、組織や地域の一体感も生まれやすくなります。

そして、レジリエンス──すなわち、困難にしなやかに立ち向かい、回復し、成長していく力。これもまた、協創のプロセスにおいて重要な基盤となります。多様な人々が関わる協創の現場では、意見の相違や試行錯誤は避けられません。ですが、パーパスがぶれなければ、対話を通じて乗り越えることができます。レジリエンスがあれば、困難を一時の挫折ではなく、次なる創造のチャンスへと変えられます。

個人でも組織でも、こうした力を持っているかどうかが、これからの時代を生き抜くカギになるのです。とくに日本は現在、少子高齢化や経済低迷など、さまざまな課題に直面しています。ですが、私はこの状況こそが大きなチャンスだと考えます。課題があるからこそ、そこに解決の余地があり、新しい価値を生み出す余白がある。世界に先んじて高齢社会に突入した私たちは、その解決策を見出すことで、他国にとっての未来のモデルとなり得るのです。

私たちは、ひとつの価値観を脱ぎ捨てるタイミングに来ています。「奪い合い」から「分かち合い」へ。「排除」から「包摂」へ。「独占」から「協創」へ。

私たちが目指すべきは、互いの違いを活かし、尊重し合いながら、持続可能で希望に満ちた社会を共に創り出すこと。協創という考え方が、私たち一人ひとりの行動に根付いたとき、未来はきっと今よりも明るく、豊かになると信じています。

もう一度言います。「奪い合い」から「協創」に舵を切り、希望に満ちた社会を共に作っていきましょう!


山口乃理夫(やまぐちのりお)
東亜グラウト工業 代表取締役社長
1993年に積水化学工業に入社し、M&Aで手腕を発揮。仲間や部下から厚い信頼を集めるなど、一貫してヒト・モノ・カネという経営企画の視点で組織を成長させてきた経営のプロ。2017年に現職に就くと、7年間でグループ全体の売上高、営業利益とも2.4倍に押し上げた。