ホルムズ海峡リスク下で国産資源「ウンチとおしっこ」を考える

ホルムズ海峡リスクを救う下水のポテンシャル(上・肥料編)

ホルムズ海峡が揺らす「日本の食とエネルギー」

ホルムズ海峡の不穏な情勢が、燃料代の高騰や石油由来製品の不足など、日本経済にじわりと影響を及ぼし始めている。日本がエネルギー資源のほとんどを輸入に依存する「資源貧国」であること、そして中東情勢にいかに脆弱であるかを改めて痛感させられる状況だ。

国産資源があればこのリスクは緩和できる。しかし、日本にそのような資源はあるのだろうか。

答えは意外にもシンプルだ。私たちが毎日排出している「ウンチ」と「おしっこ」である。

「排せつ物」はバイオマス資源のかたまり

ウンチとおしっこには、食物残渣や腸内細菌などが含まれている。つまり有機物資源、いわゆるバイオマスの宝庫であり、エネルギーにも肥料にもなる。

「とはいえ衛生的に扱えないのでは」「集めるのが大変では」と思うかもしれない。

だが日本では、その問題はすでに解決されている。下水道という仕組みによって、大半の排せつ物は自動的に下水処理場へと集められているからだ。

そこで発生する「下水汚泥」こそが、資源の本体である。

肥料は“化石燃料依存”でできている

肥料の三大要素は「窒素・リン・カリウム」。このうち、ホルムズ海峡問題の影響を最も受けやすいのが窒素だ。

窒素肥料は、空気中の窒素をアンモニアに変換することで作られる。その際、水素源として不可欠なのが天然ガスである。

さらに主流のハーバー・ボッシュ法は大量のエネルギーを必要とし、そのエネルギー源もまた天然ガスに大きく依存する。

つまり窒素肥料は「化石燃料のかたまり」と言っても過言ではない。

ホルムズ海峡が止まると、食料価格が上がる

世界の原油・LNGの約2割がホルムズ海峡を通過している(参考元)。ここが不安定になれば、天然ガス供給は滞り、アンモニア生産は減少する。結果として起こるのは、

・肥料不足
・肥料価格の高騰
・農作物価格の上昇

つまり「食卓への直撃」である。

実際、地域は異なるがロシアによるウクライナ侵攻時には窒素肥料価格がほぼ倍増した。ホルムズ海峡の影響は、それ以上になる可能性もある。


ロシアによるウクライナ侵攻後の窒素肥料(硫酸アンモニウム、石灰窒素、尿素)の価格動向(参照元)

2022年1月 6,912円

2022年2月 ウクライナ侵攻

2023年
1月 13,354円


 

ホルムズ海峡が止まると何が起きるのか

実は日本は“窒素大国”だった

ここで視点を変えると、日本にはすでに巨大な窒素資源が存在している。

それが下水だ。

全国の下水処理場に集まる窒素量は年間48.5万トン。これはアンモニアの年間輸入量を上回る規模である。(参照元)

つまり、理論上は「国内の排せつ物だけで肥料の一部を賄える」ポテンシャルがある。

日本は❝すでに窒素を持っている❞(年間量)

「ビストロ下水道」という挑戦

この可能性に着目し、国土交通省は下水汚泥の肥料利用を進めてきた。

その象徴的な取り組みが「ビストロ下水道」である。汚泥肥料で育てた農作物は「じゅんかん育ち」と名付けられている。

ネーミングはユニークだが、普及は簡単ではない。流通の難しさや重金属への不安、農家や生活者の心理的抵抗感などの壁が立ちはだかっている。

下水汚泥肥料が広がらない理由

普及のカギは「心理」と「制度」

そこで国土交通省は2023年、下水汚泥の肥料利用を優先する方針を打ち出した。しかし実態として、肥料利用率はまだ15.5%にとどまる。(参照元)

今後の拡大には、技術よりもむしろ
「安心できる仕組み」
「受け入れられるストーリー」
が重要になる。

見逃されているもう一つの価値:温暖化対策

さらに見過ごせないのが環境面の価値だ。

下水処理過程では、多くの窒素が大気中に放出されている。その中には強力な温室効果ガスである一酸化二窒素も含まれる。

これを回収・再利用できれば、
・肥料資源の確保
・温暖化対策
を同時に実現できる。

まさに一石二鳥の資源循環である。

下水処理場で回収されずに失われる窒素(参照元)

現場ではすでに動き始めている

北海道で「ビストロ下水道」に取り組む農家は、化学肥料の高騰を見越して汚泥肥料の使用を増やすことを検討している。

これは単なる環境活動ではない。中東リスクに備えた「経営判断」である。そして、その判断は今後ますます重要になるだろう。


次回予告(下編)

下編では、下水から「エネルギー」を生み出す可能性に焦点を当てる。
ウンチとおしっこは、燃料としてもホルムズ海峡リスクを緩和できるのか。