INTERVIEW SERIES #02
インフラから考える日本の未来
人口減少社会では、老朽化したインフラをどう維持するかが大きな課題として語られています。しかし、#1で家田仁さんが語ったのは、老朽化そのものではありませんでした。
問われているのは、人口増加時代につくられた仕組みや価値観を、人口減少時代にどう組み替えるかということです。家田さんは、それを「マインドリセット」と表現しました。
では、そのマインドリセットを自治体経営として実践すると、どのようなまちづくりになるのでしょうか。
岩手県紫波町では、公民連携によるまちづくり「オガールプロジェクト」を通じて、身の丈に合った地域経営に取り組んできました。図書館、産直、バレーボール専用アリーナ、民間施設などを組み合わせ、施設を整備するだけではなく、幸せに暮らし、地域に価値を生み続ける仕組みを育てています。
町職員の時代からその中心を担い、2026年2月に町長に就任した鎌田千市さんに、人口減少時代の自治体経営、そして「豊かさ」について伺いました。(聞き手:編集長 奥田早希子)

岩手県紫波町長
「まちを再編集する」という発想
――鎌田さんがよく使われている「まちの再編集」という言葉には、どのような思いが込められているのでしょうか。
オガールプロジェクトを担当してから、「まちの再編集」ということをずっと言ってきました。これは今も変わっていません。
高度経済成長期につくったものが老朽化したから建て替える。あるいは、今までなかったものを新たに整備する。その時に、ひとつのプロジェクトでひとつの目的だけを達成するのではなく、ひとつのプロジェクトで複数の課題を解決したい。それを「まちの再編集」と言う言葉を使い大事にしています。
「再編集」は「箱」だけの話ではありません。箱に合わせてコトを起こし、人を巻き込んでいく意味も含んでいます。
オガールプロジェクトが始まった18年前と比べると、まちのプレイヤーも変わっています。創成期の人はモチベーションも使命感も強く持っていますが、それを引き継ぐ人は創成期を知りません。マインドを引き継ぐのはなかなか難しいものです。だから、昔をそのままトレースするのではなく、その時代に合った人が運営や経営を考えていかなければいけない。こうしたことも「再編集」なんです。
その時に、人、場、そして学びを大事にしています。時代は変わっていきますから、とりわけ学び続けることは重要です。この3つは、若い人たちにも伝えるようにしています。
何のためにやるか。活動の本質を見極める
――「まちを育てる」ということも大事にされていますね。「まちの再編集」や「まちを育てる」という考え方は、最初からお持ちだったのですか。
最初からではありません。「まちの再編集」という言葉は、公民連携基本計画をつくる時に意識しました。「まちを育てる」という考え方は、オガールプロジェクトで審査などに関わってくださった弘前大学の北原啓司先生から教えていただき、意識するようになりました。
コーディネーターやファシリテーターの養成講座にも関わってきましたが、その中で「これは何のためにやっているんだろう」と考えるようになったんです。ワークショップはそこに集まっている人たちのベクトルを合わせていく手段であり、そのためにコーディネーターやファシリテーターが必要なんだ。そう思い至ってようやく、本当に自分がやりたいことは、いいワークショップを開くことではなく、まちの担い手を育てることなのだと気づきました。「まちの再編集」や「まちを育てる」というように発想するようになったのはそれからです。
――往々にして「ワークショップを開いて満足する」ことに陥りがちですよね。
そうなんです。その罠があります。でも、場を開かないと参加はありません。だから場を開くことは必要です。ただし、その次のステージをちゃんと用意しなければいけません。それが「まちの再編集」であり、「まちを育てる」活動だと思います。
一人ではプロジェクトは進まない
――町役場に入った当初から、住民参加や担い手づくりを意識していたのですか。
いや、思っていませんでした。商工観光課にいた頃は、「補助金を取ってきて、計画をつくって進めていこう」という感じでした。
変わったきっかけのひとつは、中心市街地活性化基本計画をつくった時です。学識経験者に教わりながら、最初は見よう見まねでワークショップを開催するようになりました。その後、公民連携の仕事に関わるようになり、「俺が、俺が」ではなく、仲間をつくることの重要性を感じるようになりました。
公民連携基本計画をつくる時に、町では7つくらいのワークショップをやっていて、そのほとんどに関わったんです。食育、総合計画、マルシェ、広場づくりなど、いろいろな分野の人たちと付き合うことで、自分の幅が広がったことも大きかったと思います。
本当に、担い手の皆さんと一緒にまちをつくっていくんだ、という感覚になっていきました。
――みんなと一緒に、という感覚がオガールプロジェクトの原動力になったのでしょうか。
後から思うと、そうですね。オガールプロジェクトの民間側のキーマンである岡崎正信さんは、市場性を見て、民間事業者の皆さんの投資を誘導する役割でした。私たち行政の役割は、市民との合意形成でした。それにもう一人、行政手続きを積み重ねていく私の上司もいました。
民間主導型の公民連携、市民参加のプロセス、行政手続き。この3つがそろったから進められたのだと思います。
何でも一人でできるわけではありません。民間事業者にお願いすれば何とかなるというものでもない。それぞれが役割を認識し、役割を果たし合わないとプロジェクトは進まないのです。
「私たち」のまちとは何か
――#1で家田仁さんは、これからは「あなたのため」「私のため」ではなく、「私たち」という考え方でインフラやまちを考えなければいけないと話されていました。鎌田さんのお話も、その根底に近いものを感じます。
多様性という言葉が言われるようになってから、私も意識するようになりました。
「みんなのために」と言う時がありますよね。でも、「みんな」って誰なのか、という話になると思うんです。
みんなが求めるものは、意外と平凡になりがちです。隣の町にあるから、うちにも欲しい。そういう形で公共施設が整備されてきたところもあったと思います。でも、それだと、わざわざ紫波町に来てもらう理由にはなりません。
大事なのは、紫波町に合ったもの、紫波町の特性を生かしたものを見つけることです。町の変化は起きている。それを観察しながら町をつくっていくことが重要だと学んできました。紫波町には、それが「兆し」としてあったのだと思います。
例えばオガールプロジェクトで整備したバレーボールアリーナであれば、町内の建設会社のチームが全国クラブ選手権に行くようなチームでした。図書館であれば、「図書館をつくろう」という住民団体がありました。マルシェについても、紫波町には産直の文化がありました。
何もないところから新しいものをポンとつくったのではありません。兆しがある中から公民連携で創造してきたんです。
オガールは「無からつくった」ものではない
――つまり、紫波町は全く新しいものを外から持ってきたのではなく、自分たちが持っていたものを見極めて、みんなでつくり上げたということでしょうか。
そう言えると思います。役所だけで考えていたら、バレーボールアリーナはできなかったでしょう。役所はどうしても平等を重視しますからね。「なぜバレーボールで、なぜバスケットボールはできないのか」となります。
でも、民間は平等だけでは成り立ちません。いかに市場性を見つけ、他にはないものをつくり、人を呼び寄せるか。市場をつくるという意味では、役所だけではなく、民間主導で進めたことに大きな意味があったと思います。
――だからこそ、とがったことができるのですね。
そうですね。最近では、廃校になった小学校を活用して、バスケットボールスクールを運営している事業者もいます。ドリブルの部屋があったり、トレーニングルームがあったり、試合を観戦できるようなシアタールームがあったりします。壁も含めて、すごくかっこいいんです。行政だけでは、あそこまではなかなかできません。
――「かっこいい」は大事ですね。
はい、デザインは大事です。オガールプロジェクトでもデザインガイドラインをつくり、デザイン会議を設置してご助言をいただきました。公共施設も対象に含まれます。他の自治体に比べ、そもそもの発注の仕方、公共調達の考え方が違うのだと思います。

サイダーコミュニティショップ「Green Neighbors Hard Cider」


人口減少でも、一概に「縮小」とは言えない
――紫波町は活性化しているように見えますが、人口は将来的には減少していくと思います。やはり縮小の方向なのでしょうか。
一概にそうとも言えません。コンパクトシティやスマートシュリンクという言葉がありますが、誤解されるところもあると思っています。
紫波町では、東北本線や国道4号沿いの中央部で宅地造成が増えています。ここ数年でかなりの区画が増え、新しくファミリー世代が引っ越してきて、小学校の増築が必要になる地域もあります。
一方で、農村部では人口が減る傾向にあります。紫波町は農業を基幹とする町で、ぶどう、りんご、米、畜産があります。それは町の資源ですから、失うことはできません。
農村の持つ意味は、単に食料の調達だけではないはずです。農村の風景、環境、人と野生動物との境界を守ることもあります。そこを失うと、町の産業にも関わってきます。
中央部と東西の農村部はそれぞれ違った特性があり、資源も違うので、地域づくりのやり方が違うと思っています。
今、町内には地区ごとに地域運営組織を設立する動きがあります。自分たちの地域は自分たちで守り、つくっていく。その地域の特性を生かして、困りごとも解決しながら持続性を高めていく。そのための支援を行っています。
農村だからこその豊かさがある
――人口が減る地域は中心部に人や機能を集め、周辺部をたたんでいくという話になりがちです。でも、本来のスマートシュリンクは、周辺部もそれぞれ残っていけるようにすることなのかもしれません。
地域の効率性と機能性は、考えていかなければいけないと思っています。
東西の地域については、人が少なくなるのは必然です。ですが、人口が減っていくことは敗北ではありません。農村の方が豊かだと思うことも多々あります。減っていく中でもどうやったら豊かに暮らしていけるかを考えるべきです。
自分たちの地域だけでは何ともならないこともあります。だから、他者を受け入れ、役割分担をし、補完してもらう。そのために行政に何ができるのかを考える必要があります。
国が言う農地の大規模化や集約化は、それはそれで必要です。農業経営をする人も必要です。
一方で、産直があり、地産地消を推進し実践されている人もいます。農ある暮らしをしたい人もいます。専業にはなれないけれど、土に触れて、生産して、収穫して、一緒に食べる。そういう多様な農業があっていいと思うんです。
今、食と農の学びの場をつくることも考えていて、農業に「チェックイン」できるようなイメージです。単なる労働力の確保ではなく、なぜ今この作業が必要なのかを学びながら、一緒に作業していく。そういう形が大事だと思っています。

PPPとは、民間を手足にすることではない
――オガールプロジェクトは官民連携(PPP)の成功事例としても高く評価されています。そのポイントとして、民間の人を行政の手足として使うという、PPPにありがちな発想とは異なることがあるように感じます。
そうですね。例えば、明治時代に建てられた旧紫波郡役所があります。県の指定文化財になると、簡単には改修できません。でも、今の生活様式に合わせて断熱もしっかりして、使える部材を生かしながら全面改修することにしました。
ただ、改修するだけでは意味を成し得ません。何に使うのか、が大切なポイントです。そこで、施設を運営する民間事業者を先に選び、用途を提案してもらってから改修を進めました。
普通は行政が改修してから委託先を募集するという流れになりがちですが、その逆です。改修前に事業者からの提案を聞けたおかげで、公共の部分も必要だということに気づくことができ、条例をつくって公の施設として位置づけ、指定管理者制度によって官民複合施設として運営を行うことになりました。

行政が計画を決めて、それを遂行してくれる事業者を見つけるのではありません。パートナーが先にいて、一緒に計画を考えて、遂行する。これが本当のパートナーシップだと思います。
行政には行政にしかできないことがあります。開発行為の許可や、条例の制定によるルール化、指定管理者制度を取り入れる仕組み化は役所にしかできませんし、住民や議会にご納得していただく必要があります。制度や組織の壁を突破しないといけません。
一方で、事業の壁は民間に突破してもらわなければいけません。民間事業は稼がないと持続しませんから。だから、お互いの壁を、公民連携でうまく突破していく必要があると思っています。
何が欲しいかではなく、何をしたいか
――住民が行政サービスを受ける側ではなく、一緒に地域をつくる側でもあるという意識はどうつくってきたのでしょうか。
行政が計画を決める前に、最初から住民の声を聞いています。ただし、「何が欲しいですか」と聞くと、「公民館に和室が欲しい」といった話になりがちです。でも、なぜ和室がほしいのか、避難所のためなのか、茶道のためなのか、懇親会のためなのか。そこを掘り下げていくと、住民の声にこたえられる設備は、和室ではないかもしれないということが見えてきます。
何が欲しいかではなく、何をしたいかを聞くことで本当のニーズが分かる。それを共有することが、一緒に地域をつくる第一歩だと思います。
使われない施設をつくるほど、役所にとって将来の負担になるものはありません。公共施設は、住民の暮らしが良くなるためにつくるものです。それが将来負担になるのであれば、つくらない方がいい。だからこそ、最初から住民の声を聞かなければならないんです。
行政依存から、能動的な市民へ
――住民の意識は変わってきたと感じますか。
座談会などをやっていても、数年前に比べて空気感は変わったように感じます。うまく言えませんが、行政依存が減ったような気がします。
もちろん、「税金を払っているのだから、あれをやってほしい、これをやってほしい」という気持ちも分かります。でも、受け手側の市民、受動的な市民よりも、一緒に活動してくれる人、自分たちで活動する能動的な市民が増えてくれば、公共課題や地域課題の解決に向かうと思っています。
熊や鹿などの鳥獣被害もそうです。猟友会だけでは対応しきれません。住民の皆さんのサポート体制をつくる必要があります。
課題はどんどん変わります。コロナも、DXも、鳥獣被害も、10年前には今ほど大きく語られていませんでした。だから、その時々の課題に応じて、地域で支える仕組みをつくっていく必要があります。
人口減少は「課題」ではない
――人口が減っていく時代の自治体経営は、どうあるべきだと考えていますか。
人口は確かに減ります。でも、人口が減ること自体が課題かというと、私はもう課題ではないと思っています。
出生率を上げる努力は必要です。ただ、その効果が現れるのは20年後です。今もがんばらなければいけませんが、それで今の課題がすぐ解決できるわけではありません。だから、人が少なくなる中でも、どうやって豊かに暮らしていけるかを考えなければいけないんです。
人が少ないことを前提に考えると、いろいろなものを棚卸しできます。役職、会議、地区の代表……。行政側は縦割りで、交通安全、農業、福祉など、それぞれで会議を開く。でも受け取る側は同じ人たちということがよくあります。そこは効率化していかなければいけません。
一方で地域運営組織のように、自分たちの地域をマネジメントし、課題解決していく組織をつくることを進めています。行政の手が届かず、民間事業者も市場性としては手をかけられない領域を、そこに暮らす住民の活動が担ってくれる。そうすると、町は豊かになるはずです。
私は、「小さな政府、大きな公共」の方が豊かになると思っています。役場は小さくても、公共領域を担う人たちが多ければ、地域は豊かになる。役割分担をしながら、一緒に町をつくっていく。共に創る、共創です。
豊かさとは、選択できること
――鎌田町長にとって、豊かに暮らすとはどのようなイメージですか。
豊かさとは、選択できることだと思っています。選択できるというのは、心に余裕がないとできません。お金や時間もそうですし、地域との関係や目的を持ったコミュニティ、仲間との関係性も関係します。
地方は都市に比べると選択肢が少ない。特に芸術や音楽など、文化的な要素は少ないと思います。でも、昔は地域の中にそういうものがあったんです。郷土芸能や結などもそうです。
同じ目的を持った人たちの活動と、地域の活動がシームレスにつながる。地域は他者を受け入れる。市民活動をしている人たちには、地域を活動の場としてもらう。そういう関係ができると、選択の幅が広がると思っています。
――選択肢を増やすことが町長の仕事ということですか。
地域の人と地域外の人とがつながる「関わりしろ」があって、人が少なくなる中でも豊かさを感じることができる。地域の中で「くらし」と「なりわい」が両立して、希望を持って暮らす人が増えていくと良いな、と思っています。
変わる時代に、柔軟に対応する
――10年後、日本の地域社会はどうなっていると思いますか。
正直、予測することができません。デジタル化は進むと思います。ただ、自治体でいうと、まだまだ人がやらなければならない部分は多いと思います。特に東北は雪も多く、人が担わければならない仕事も残ります。
大切なのは、10年後の形を今の段階で決めてしまうのではなく、変化に応じて地域の仕組みを変え続けることだと思います。今ある施設や産業、組織、人の力を見直し、新しい役割や価値を持たせていく。ここでも「まちの再編集」が必要になります。
人口の数字だけで判断するのではなく、地域の中でどれだけ人と人のつながりがあるか、自分にも役割や居場所があると感じられるか。こうした関係性も、道路や施設と同じように、地域を支える大切な基盤です。
一人ひとりが複数の人や活動と緩やかにつながることで、行政だけでも市場だけでも支えきれない部分を、地域全体で補い合うことができます。
行政の役割も、すべてのサービスを提供することから、人が出合い、学び、活動し、関係を育てられる環境を整えることへ、変わっていくのではないでしょうか。そこで新しいつながりが生まれ、互いを気に掛ける文化が育つことに意味があります。
10年後、どんな技術が生まれ、どんな課題が起きているかわからない。ただ、変化に柔軟に対応できる地域には、人と人との信頼や、共に考え行動する習慣があるはずです。人口の多さではなく、関係性の豊かさによる「共創」によって、ここで暮らし続けたいと思える町をつくる。これから目指すべき「暮らし心地の良いまち」だと思っています。
――ありがとうございました。
#1で家田仁さんは、人口減少時代には、インフラを「つくる」発想から「マネジメントする」発想へ切り替える必要があると語りました。
鎌田町長の言う「まちの再編集」は、そのマインドリセットを自治体経営として実践する言葉のように聞こえます。
施設をどう維持するか。
インフラをどう更新するか。
もちろん、それは重要な問いです。けれども、その前に私たちは考えなければならないのかもしれません。
どんな地域で暮らしたいのか。
何を未来へ残し、何を変えていくのか。
人口減少時代のインフラを考えることは、施設をどう守るかということではなく、地域の未来を自分たちで選び直すことなのかもしれません。「選ぶ」ことができることこそが豊かさだという鎌田町長の言葉が印象的です。
「豊かさ」とは、人口の多さでしょうか。
それとも、自分たちで未来を選べることでしょうか。
今一度、問い直してみませんか。(編集長:奥田早希子)


