【鼎談】リスクマネジメントからリデザインするアフターコロナの下水道③

リスクマネジメントはAI任せにできるか?

コロナと気候危機を乗り切って下水道機能を持続させるには、従来業務の効率化だけにとどまらず、業務そのものをリデザインするくらいの新しく抜本的な対応が必要です。そこで本鼎談では、下記3名の方ににお集まりいただき「リスクマネジメントからリデザインするアフターコロナの下水道」をテーマに議論していただきました。全4回の3回目です。

加藤裕之氏 東京大学下水道システムイノベーション研究室特任准教授(元国土交通省下水道部下水道事業課長)
若狭公一氏 埼玉県下水道公社市町村支援課主幹
尾上裕二氏 浜松ウォーターシンフォニー最高執行責任者

(進行・執筆:奥田早希子・一般社団Water-n代表理事。2020年8月11日取材)


テーマ3「コロナ×自然災害への備え方:DXの可能性」

時代はビジネスインテリジェンス

尾上裕二氏 浜松ウォーターシンフォニー最高執行責任者

――コロナ禍に洪水など自然災害が覆いかぶさり、複合災害が現実のものとなっています。これまでのリスクマネジメントは通用しません。1つの対策としてBPRの話がありました。それ以外にDX(デジタルトランスフォーメーション)も有効だと思います。ICTなどの導入はどれくらい進んでいるのでしょうか。

尾上氏 今はICTの普及期にあると思います。先ほども話したように、現場にタブレットを持って行ってその場で入力したり、中央操作室から現地の設備の数値や情報をくみ取って水質処理の判断をするなどの取り組みは実施しています。しかし、最終的に人が判断するところは変わっていません。

今後はIoTの時代に入っていくと思います。BI(ビジネスインテリジェンス。企業が蓄積した大量のデータをもとに経営の意思決定を行う考え方)を含め、考えること、意思決定も情報技術の中で行うことになります。

コロナ禍によって人員を絞らざるを得ない状況で有効なだけではなく、労働人口の減少という社会課題に対する1つの答えにもなるでしょう。

今は情報を1カ所に集約し、そこで判断することまではある程度できています。今後は判断しなくていいフレームワークを作っていく時代になると考えています。当社では将来のAI活用も視野に入れ、まずは電子データの蓄積をはじめたところです。

加藤氏 国内だけではサンプル数が限られますが、御社は世界企業の中の組織ですから、データが世界中から集まってくる。それは強みです。ただ、その成果はオープンにしてぜひ日本の下水道の現場に広く還元してほしいと思います。

人への技術・情報の蓄積もおろそかにできない

若狭公一氏 埼玉県下水道公社市町村支援課主幹

若狭氏 尾上さんがおっしゃるように、今はICTを使って情報を集め、自分たちで考えて判断しています。これから広域化や共同化をもっと進めていくには、離れた市町村のデータも収集できるようにしていくべきだと思います。

ただ、最終的な責任を取るのは管理者です。何かあった時の責任を、AIに押し付けることはできません。ですので第1段階ではAIが人をサポートするような形で、AIを使ったとしても補助的な活用から始まるのではないでしょうか。

技術者がまったくいなくなっても困ります。人に技術や情報を蓄積していくこともまた、大事だと思います。

南国ビーチで下水道管理。これ、理想だね!

加藤裕之氏 東京大学下水道システムイノベーション研究室特任准教授(元国土交通省下水道部下水道事業課長)

加藤氏 DXの最初の目的としては、効率性アップでしょう。人がやっていたことをAIやICTで代替し、人材不足を補い、同時に効率性を確保する。その際に、働く人の安全性や、さらには快適性を確保することを考えていきたいです。

下水道の仕事は、けっこう大変です。例えば管路の中に入ったり、処理場でも危険な場所に行くことも多い。そうした職場環境を、DXなら変えられるのではないでしょうか。

快適性については、例えば南国のビーチサイドで潮風に吹かれながら管路管理をする。そんな仕事のやり方があってもいい。そうした将来像が描ければ、下水道という仕事のブランドも向上するし、働きたいと思う若い人を増やすことにもつながります。DXの実装にあたっては、そういう考え方で臨むべきだと思います。

一方、デジタル化が進めば、下水の水質情報を見える化できます。私は現職時代から情報を新たな下水道資源としてプロジェクトを手掛けてきました。

これまで下水道管理者は水質だけしか見てきませんでしたが、実は水質には汚水を出した人の生活が映し出されています。食生活や病歴などの傾向を把握できるかもしれません。そのデータを基に、健康産業が創出される可能性だってあるはずです。

これまで下水道と社会との間に断絶があったように感じていたのですが、DXはその溝を埋め、社会とつながるツールにもなるのではないでしょうか。効率性だけではなく、下水道を通じて人の暮らしを豊かに、より良くしていける可能性を感じます。(つづく)

その1「人的リスクは甚大。だからこそBPRで業務を研ぎ澄ます」
その2「評判リスクから下水道従事者の人権を守れ

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています