大阪市が100%出資する下水道運営会社「クリアウォーターOSAKA」(CWO)の福井聡社長に、行政が100%出資する会社ならではの役割やその意義などについて聞いた。
地元業者、他社との連携を重視
――100%行政出資の会社の存在は、市場の席捲や民業圧迫につながる可能性はないのか。
「大阪市以外の自治体の維持管理も請け負っているが、当社だけですべてができるとは思っていない。管路清掃などは地元に専門業者がいるし、処理場の運転管理なら地元業者のほかにメーカー系の会社や専業のメンテ会社もある。地域の状況に応じて、様々な企業と連携することを重視している。
これから官民連携が進み、民間に任される業務範囲は広くなることが予測される。その受け皿となる民間企業にも平等・公平・公正といった行政的視点が求められるだろう。
その点、当社には大阪市の下水道事業の全体を運営してきた経験とノウハウがあり、管理者目線に立った仕事ができる。こういった経験の基、行政と民間企業をつなぐところに当社の役割があると思っている。
それによって下水道事業に課題を抱える自治体にも何らかのかたちで貢献していきたい」
――今後は大阪市での経験を持つ社員が減り、逆にプロパー社員が増える。行政的視点は継承できるか。
「その点は課題として残る。会社設立時は社員が約1,000名おり、うち市からの転籍が650名ほど、市職員OBが100名ほどいた。これから職員経験者が減っていく中、市との人事交流を一定数は確保していかなければならないと思っている。
市としても管理者として維持管理についてのノウハウを持った職員を育てる必要はあるし、一方では当社は職員との交流を通して次世代社員にも行政意識をつないでいきたい」
民間資本が入れば効率化も期待
――市100%出資の意義とは。
「 “大阪市100%出資”という信頼の裏付けがあったおかげで、早い段階で他自治体の仕事を請け負うことができた。結果的には良い選択だったと思う。
ただし、事業の更なる効率化を進めるためには、将来的に民間資本が入るメリットについても検討する必要があると思う」
――現在は包括的民間委託で5年の契約期間だが、もっと長期の方が自由度は増すのではないか。
「包括委託契約であれば5年は妥当だろう。コンセッションなら改築更新などの建設事業も含まれてくるので20年程度は必要になり、一般的に受託者の自由度は確かに高まる。
しかし、そこまでの長期になると、行政としても一般会計補助金や国庫補助金の長期的な担保の可否を別にしても先のことを想定しづらく、発注に尻込みすることも予想される。
請け負う側は長期がいいが、任せる側は多少の非効率はあったとしても短い方がいい、という構図だ。包括委託の期間を7年、10年と段階的にエンジニアリング部分の委託のボリュームに伴って伸ばしていくことが現実的だろう」
課題は社員の意識改革
――大阪市の下水道の管理を請け負ってから今年で3年目となった。手応えは?
「多様な雇用形態を活用すると共に契約方法の効率化など細かい業務改善を積み重ねた結果、過去2カ年は中期経営計画以上の利益を上げることができた。大阪市以外の業務も計画以上の売上を確保できている」
――課題は。
「社員の意識改革だ。細かなところではあるが例えば現在、大阪市から大きな包括業務を受託しているが、大阪市の現職員に対して、たとえ元同僚だったとしても、受託先として挨拶するなどきちんとした対応をするように注意している。
市民の方への対応もそうだ。民間企業の社員であるという意識を持たなければならない。下水道の運営管理には行政的視点が必要だが、仕事のやり方には民間感覚がいる。少しでも早く根付かせていきたい」
「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています
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