新規事業を開拓したいのに人材が足りない!

水インフラの持続と企業力(1) 人材から考える上下水道

官も民も人材不足

老朽化に対応した工事が増えるにつれ人材も必要になるが……(photo by Photo AC)

「民間企業が深刻な人材不足にあることを、行政は分かっていない」

下水道管のリニューアル事業を手掛ける中小企業の社長は、深刻な表情で心境を吐露した。

「民間活用と言われ企業に期待されるのはうれしいが、そう容易ではない」

自治体によって運営されてきた上下水道事業は今、厳しい経営状況に置かれている。

要因の1つが、既存施設が一気に老朽化することだ。すべてを更新するには、下水道だけでも2033年には約1兆円、13年の約1.5倍に投資が拡大するとの試算もある。

2つ目は収入の減少だ。人口減少や節水機器の普及などの影響で、1人1日当たりの水使用量は1998年ごろのピーク時には322リットルあったが、15年度には39リットル少ない283リットルへと1割以上も減った。今後の人口予測を見る限り、数字が回復する見込みは薄い。

3つ目は人口の減少だ。下水道で働く職員数は03年には4万人近くいたが、16年には3万人を切った。約7割に縮小したことになる。

モノを維持するための事業や工事が増えるのに、それを実行するカネもヒトもいない。上下水道はヒト・モノ・カネの三重苦に見舞われている。

その解決策の1つとして期待されるのが官民連携だ。民間企業の経営手腕を取り込み、行政が抱えるヒト・カネの不足を補う。さらには、電力やガスなど他のインフラ産業との協働や地場産業との連携、技術イノベーションなど行政が不得手とする新事業領域を開拓することで、新たな収益源の創出やドラスティックな社会コスト削減が期待できる。

 「官側は人材でも発想力でも限界がある。これからは民間企業の役割がますます高まる」。冒頭の中小企業社長は、行政職員のその言葉を複雑な心境で受け止めた。「民間企業も人手が足りないのに…」

学生は水の仕事に未来を感じていない

 下水道の更新投資(つまりは更新事業ボリューム)が約1.5倍になる13年から33年に間に、就職を控えた18~21歳の人口は約488万人から約393万人へと2割近く減少する。人材の争奪戦は激化が必至だ。魅力的なスタートアップ企業が増え、ユーチューバーといった新たな職業も生まれる中、上下水道は分が悪い。

「最近の学生は上下水道インフラが整った中で育ち、公害時代に汚れた川もきれいになっていた。水で困ったことが無いから、水に興味がなく、水の仕事に未来も感じにくい」

とある大学の土木系の准教授は残念そうにこう話す。

人材不足は、数の問題だけではない。官民連携への期待が高まる中、民間企業に委託する業務が、これまでの個別業務からより包括的になり、さらには上下水道の運営権を民間に移管するコンセッションへと拡大が予測される。先述したような異業種連携やまちづくりなど、柔軟な発想で地域ごとにカスタマイズした解決策の提案が民間には求められる。こうした業務の質の変化に対応できる人材の確保・育成も不可欠だ。

こうした状況を受け、人材育成や働き方改革などに力を入れる水会社が出始めた。上下水道サービスの持続には、企業力が欠かせない。そして、企業力を高める源泉が人材である。本連載では、水会社の企業力アップ術を人材の側面から掘り下げる。

Mizu Design編集長:奥田早希子

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています