浜松市は2018年度から、西遠浄化センターの運営にコンセッション方式を導入した。施設は同市が所有するが、運営は権利を25億円で取得した民間企業が20年間にわたって実施する。上下水道では日本初のコンセッションとして注目され、一部マスコミには品質低下や値上げなどマイナス面が大きく報じられた。事業開始から約1年が経過した今、実態はどうなのか。運営事業者である浜松ウォーターシンフォニーの佐藤丈弘最高執行責任者に聞いた。
省エネ機器から両面印刷までコストダウン徹底
――提案では20年間の運営費を、浜松市が実施する場合の600・5億円より14.4%減らす目標を掲げていた。コストダウンは想定通り進んでいるか。
「経費のうち人件費を除けば、委託費と電気代の比率が高い。
このうち委託費については、点検や修理の一部を社員が行う“Do it your self”にした。メーカーに任せたら過剰になりがちな点検などを合理化することができ、提案よりさらに7%削減できた。突発的な修繕費だけを見ると、過去3年間の平均より74%も削減できた。
年間約3億円かかっていた電気代の削減には、特に注力した。省エネ型の散気装置など、高効率な設備に入れ替えたり、省エネ機器の優先運転や汚泥焼却炉の運転を設計能力85%から100%に引き上げた。
契約面では、複数の電力会社の合い見積もりを取ったり、1年契約から3年契約に変更したりもした。それらの取り組みの結果、電気代は提案よりさらに7%削減できた。
電気の力率(電源から送られた電力に対して、有効に使われた電力の割合)を99%から100%にするという地道な努力もしている。20年間で1,400万円とはいえコストダウンできる計算だ。
その他、グローバルな調達網を生かして薬剤の調達コストを削減したり、臭気センサーを導入して消臭剤の使用量を合理化したりした。プリントはモノクロ・ツーインワン・両面印刷を徹底するなど、できることは何でもやった。
これらの結果、初年度は計画以上に効率化を図れ、想定以上の利益を上げることができた。提案した20年間の運営コスト513.9億円への削減に沿う滑り出しだった。
昨年は台風で浜松市が大規模停電したが、下水道機能は維持できた。市民の負担を減らした上で当社の利益を確保し、なおかつ公共性も保っていけると自信を持って言える」
頭を使って家計を切り詰める
――想像以上に細かい部分まで経費削減を徹底している。社員のコスト意識が重要だ。
「コンセッションは“家計型ビジネス”だと思っている。一般家庭なら電気代を減らすためにエアコンの温度設定を変えたり、ネットで調べて1円でも安く調達しようと努力する。
本事業では収入が年間約18億円で、大きく減ることは無いが、大きく増やすことも難しい。であれば、コストダウンが重要になる。
固定観念を捨て、以前のやり方への固執を捨て、当社の家計をいかに切り詰めるかを考えよう、と社員には常に言っている」
――従来の包括委託などの民間委託形式と比較して、やりやすさは感じるか。
「これまでの多くは仕様発注だったので民間のやることが決められており、頭を使う必要は無く、創意工夫を発揮する余地は限られていた。
コンセッションは性能発注なので、決められた性能を発揮しているのであれば、そこに至る過程は自由にやっていい。頭を使って創意工夫すれば、コストダウンができ、利益となって還ってくる。工夫のしがいがある」
性能発注にやりがいあり
――コストダウン以外にトップライン(売上)を上げる取り組みは?
「汚泥のエネルギーを利用する新技術の導入検討や、第2期の9年目からは養鰻のパイロット事業を実施する予定だ。ウナギの養殖には30℃程度の水温が必要なので、加温に汚泥焼却炉の排熱を活用しようと思っている。
浜松なのでまずはウナギに着目したが、ほかにも地域に還元できることがあれば積極的に取り組んでいきたい」
――エネルギー利用のような任意事業がなくても、コストダウンだけで利益は確保できるか。
「期間が20年と長く、スコープが従前より広く、性能発注であれば、任意事業が無くても利益は確保できる。
コンセッションでなくても、性能発注であれば公共よりコストダウンできることを確信しており、ビジネスとしての魅力はある」
――「下水道事業は行政が運営してきたので民間には運転技術が無い」とも言われるのに、なぜそこまでコストダウンが図れるのか。
「これまでも行政はマネジメントをしてきたが、手足を動かしてきたのは民間だった。現場の技術は、むしろ民間が持っている」
「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています
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