KPMG/あずさ監査法人はこれまでに、多くの自治体の上下水道の課題解決に携わってきた。パートナーの村松啓輔氏と伊丹亮資氏へのインタビューを2回に分けてお送りする(第2回目)
法改正が水道持続を後押し
――昨年の水道法改正を巡って、水道事業へのコンセッションの導入を懸念する声も上がった。どう見ているか。
村松氏 改正前からコンセッションは可能だったが、以前は自治体の代わりに民間事業者が水道事業者になるというスキームだった。水道という重要な生活インフラに自治体が関与できないことは、住民感情的にも受け入れにくい。改正によって自治体が関与することが定められ、コンセッションはやりやすくなった。
そのほか、広域連携の推進に関して都道府県に努力義務が課されたり、自治体に資産管理の推進を求めたりなど、水道の持続を強く後押しする改正だったと考える。
民間提案を実現できるスキームが必要
――水道のコンセッションは進むと思うか。
村松氏 コンセッションによる運営が始まっている空港を見ると、インバウンド需要が取り込めたり、商業施設やホテルを併設したりしてトップライン(売上高)を上げられる可能性がある。だからこそ、民間事業者は投資に値すると判断し、参入する。
しかし、水道事業は状況が異なる。人口減少によって水道水の需要が先細っていくため、トップラインが上がるわけではない。住民の理解を得るという難しさもある。
それでもなお民間事業者がコンセッションに関心を持つとするなら、仕様発注から性能発注に近づける必要がある。
現状の民間委託は、例えば水質検査を1日何回やるか、それを何人でやるか、など自治体が決めたことを決められた通りに遂行する仕様発注だ。
それを性能発注にして、IoTなどの最新技術を使って浄水場や下水処理場をコンパクト化するなど、民間事業者の自由な発想でより効率的かつ高性能な維持管理ができれば、コスト削減の余地はまだまだある。それが利益の源泉となる。
下水汚泥による発電や小水力発電、地域住民に還元できる事業など付随的事業も行えば、さらに収入源を増やせる。
アイデアを持っているのは民間事業者である。性能発注のように民間事業者からの提案を実現せしめるようなスキームを示せれば、参入意欲も高まるだろう。
単年度の仕様発注から、中長期の性能発注へ
――包括委託では性能発注に近づけないのか。
村松氏 包括委託は仕様発注であり、民間事業者のアイデアを生かしたプラスアルファの取り組みは難しい。民間事業者の自由裁量は、コンセッションでこそ広がる。
だからこそ、コンセッションで仕様発注のような契約をしては意味がない。水質と供給量を担保できている限りにおいては、自治体は従前と異なるやり方を認め、KPIによってモニタリングをする。
運営過程を民間事業者に任せる性能発注だからこそ、コスト削減ができ、効率化もでき、利益が生まれる。
伊丹氏 包括委託では5年程度の契約期間が多いが、その間に性能発注に完全移行することは難しいだろう。民間側の投資も必要であり、投資回収するには5年という期間は短すぎる。
――性能発注を実現するには?
村松氏 中長期的なスパンが必要だ。単年度契約で行われている現状の業務委託では、性能発注はできない。コンセッションは契約期間が長く、性能発注を適用しやすいはずだ。
伊丹氏 特に水道については住民感情もあり、いきなり完全な性能発注にするところまで自治体も思い切れないことも想像される。例えば、部分的に数年やってみて、うまくいったら性能発注の範囲を広げていくなどのやり方も考えられる。いずれにしても20年くらいのスパンが必要だ。
――水道事業の課題も解決でき、民間事業者のノウハウも生かせる。そうした官民連携を成功させるカギは?
村松氏 スキーム、情報開示、民間事業者の選定プロセス、この3つが重要だ。
スキームとは官民のリスク分担のあり方である。民間に任せる範囲が多すぎると民間事業者がリスクを負いきれないし、住民理解も得にくい。民間事業者が許容でき、受け入れられるところを自治体ごとに見出す必要がある。
そのうえで、事業のリスクを負えるのか否か、民間事業者が意思決定するための情報を開示する。
そして、選定基準を明確にすることで、民間事業者が提案しやすい環境を作る。
自治体ごとに解決したい課題は異なる。官民連携の手法は多様であり、その自治体に合った手法の選択をサポートしていきたい。
「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています
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