<経営トランスフォーマー>13人目:鷹取啓太 阿部吉郎 業界を驚かせた統合の真の狙いはマーケットの成長だった

月島JFE アクアソリューション 水インフラのリーディングカンパニーを目指す

IoT・デジタル化、脱炭素、 SDGs 、コロナ、人口減少、整備時代の終焉など、世の中に見られるいくつかのトレンドが各社の経営にどのような影響をもたらすのか、その影響を見据えて各社はどう経営戦略を変革(トランスフォーメーション)するのか。新連載「経営トランスフォーメーション」では、経営の変革に挑む経営トランスフォーマー達へのインタビューを通してインフラ事業の羅針盤を示す。 

月刊下水道とのコラボ連載です(2024年2月号掲載)


【連載】経営層シリーズインタビュー<13人目>鷹取啓太社長、阿部吉郎副社長 

月島JFEアクアソリューション株式会社
鷹取啓太社長(右)
阿部吉郎副社長(左)

上下水道業界において、大手が中小企業を統合することは合っても、大手と大手の統合はほとんど例がない。だからこそ、月島アクアソリューションとJFEエンジニアリングの国内水エンジニアリング事業の統合は上下水道業界を驚かせた。その背景に何があったのか。そして、狙いはどこになるのか。2023年10月1日に誕生した新会社「月島JFEアクアソリューション(TJAS)」の鷹取啓太社長と阿部吉郎副社長に、新会社の経営トランスフォーメーションを聞いた。 

シュリンクする市場、減らないプレイヤー 

日本の下水道業界は、業務内容によっていくつかの領域に分化されている。上流側から下流側へ大まかに言うとコンサルタント、下水処理場の建設・装置(EPC)、下水道管路の敷設、処理場の維持管理・運営、下水道管路の維持管理があり、それぞれに業界団体が組織されている。 

2023年10月1日に誕生した月島JFEアクアソリューション(TJAS)の統合元のひとつである月島アクアソリューションは、このうちのEPCを担う企業で構成する日本下水道施設業協会(施設協)に協会設立当初から名を連ね、業界発展の一翼を担ってきた。 

施設協が設立したのは1980年。日本下水道施設工業会として発足し、会員は34社でスタートした。あれから40年以上が経過した現在、正会員33社、賛助会員6社、合わせて39社へと5社増えた。これを業界が発展しているためと言えるのか。 

その判断を下すには、2つの情報を合わせて見る必要がある。 

ひとつは政府の建設投資額の推移だ(図1)。協会設立の1980年の公共事業の土木分野への投資額は約14.8兆円。そこから右肩上がりに増えて1998年に約27.6兆円まで膨らんだがその後は減り続け、2020年には約14.7兆円と1980年と同レベルまで落ち込んでいる。 

図1 建設投資額(政府・公共事業)の推移(Y軸の単位は億円)(統計で見る日本「e-Stat」より筆者作成)

もうひとつ見ておきたい情報は、下水道処理人口普及率である。1980年は約30%と低く、整備の需要に沸いていた。その後、順調に整備が進んで2021年度末には80.6%となり、おかげで私たちは衛生的な暮らしと豊かな水環境を享受できるようになった。しかし、それは整備の需要の減少、つまり月島アクアソリューションが主戦場としてきたEPC市場の縮小を意味することでもある。そして、将来的に整備の需要が回復し、先述の公共事業の土木分野への投資が再び増加に転じる望みは薄いということでもある。 

少しだけ増えた会員数と、シュリンクする市場。データを見る限り、会員が増えているからといって発展する業界ということは難しい。逆にこのままでは1社あたりの受注額までシュリンクしていく厳しい状況に置かれていると分析できる。 

EPCの限界とPPPへの期待 

月島アクアソリューションは下水道事業とEPC業界の紆余曲折に40年以上にわたって身を置いてきたからこそ、こうした現状を危機感を持って見つめていた。そして、官が発注したものを作るだけの従来型の官需、言い換えれば請負型のEPCビジネスに限界を感じるようになった。TJASの鷹取啓太社長は、JFEエンジニアリングの国内水エンジニアリング事業との統合を決断した心の内をこう話す。 

「国内の公共投資額は減っていますから、プレイヤーの数が減らなければ1社あたりの受注額は減っていくはず。なんとかこれまでやってこれましたが、これからは難しいでしょう。かといって海外市場に目を転じても、EPCだけなら新興国にコストで勝てない。 

今後は装置を売って終わりのEPCではなく、装置や施設を使って上下水道サービスを提供するコンセッションなどの官民連携(PPP)、運営やマネジメント、エンジニアリングの市場が伸びるはずだし、当社もそこに舵を切っていくべきです。月島アクアソリューションのメーカーとしての力、JFEエンジのプロジェクトマジメント力を融合させ、新たな事業領域に挑戦していきます」 

企業として成長するために市場を成長させる 

TJASが目指す上下水道サービスのPPP市場が今後、伸びることは間違いないだろう。しかも、令和5年度「PPP/PFIアクションプラン」でウォーターPPPという施策が打ち出され、民間に委託する業務はより広範囲に、契約期間はより長期間になっていくことが見込まれる。阿部副社長もそこに期待する。 

「上下水道関連の従来市場がシュリンクする中、どこでマーケットを拡大できるかと考えたらPPPに行きつきます。官が持っている事業を民間のマーケットにシフトすることで、マーケットが成長できます」 

しかし先述のように日本では業界が細分化されてきたため、官が担ってきた上下水道事業の“全体”を1社で請け負える水会社はまだ育っていない。1社が育つのを待つか、異分野の企業が統合する方が早いか。業界内でそんな声を耳にする。月島アクアソリューションとJFEエンジの統合は、そこにひとつの解をもたらしたと感じる。 

「異分野の企業が統合することで、事業領域も企業としての規模も拡大して、コンセッションのような大型PPPを担える力をつけていきたい。大型PPPを請け負える企業が増えれば、大型PPPが増え、PPP市場が拡大し、企業は成長できます。マーケットと企業の成長は両輪です。シュリンクする市場でシェアの奪い合いをするのではなく、業界全体で新しいマーケットを作っていかなければなりません。その一翼を担っていきたいです」(阿部副社長) 

強い発言力を持つリーディングカンパニーを目指す 

マーケット拡大への意欲に加え、鷹取社長は今回の統合を機に上下水道業界を魅力的な業界にしたいという強い思いを秘める。 

「社会的に必要不可欠な仕事ですが、給与水準は決して高くありません。むしろ他のインフラに関わる仕事と比べて低いと言っても過言ではありません。  

また、なんといっても社会的意義に対して正当に評価、処遇されているようには感じられません。このままでは若い世代の技術屋さんが、この業界を目指さなくなることを危惧しています。」

水循環の中で、人間が汚した水をきれいにしてくれる下水道などのシステムが最も重要だと筆者は考えているが、パイプは地下に埋まっていて見えないし、汚水を扱うので臭い・汚い・きついの3Kの仕事とされ、脚光を浴びないどころか、時に敬遠されることもある。そんな現状に鷹取社長は忸怩たる思いを抱えている。 

「その背景には単価設定や発注額、下水道使用料など、いくつもの要因が絡み合っていますし、関係者も行政と業界のほか、料金改定となれば政治まで絡む複雑な方程式を解かなければなりません。 

その中にあって、業界の声が小さすぎます。電力業界であれば東京電力のような売上7兆円を超える企業があり、財界や政界に対する発言力があります。

上下水道業界にも専業の大手企業が育ち、リーディングカンパニーとして強い発信力を持って産業構造そのものを変えていく必要性を感じます。  

その意味でも当社は、リーディングカンパニーの一角を占める企業を目指します。」

上下水道業界は公共事業の中で育ってきた。つまり、官が仕事を作り、民が請け負う「受注型」だ。しかしPPPやマネジメント指向が強まるこれからは、民が仕事を作り、民がやる「創注型」に変わっていくことが予想される。そうした中、下水汚泥発電事業で独立採算事業を手掛け、また、製糖事業で民需も経験した月島グループと、上下水道以外の分野でもプロジェクトマネジメントを手掛けてきたJFEエンジのDNAを併せ持つTJASが、他社にないノウハウと発想で「創注型」市場をけん引していってくれることを期待する。