
キャリアの舵を自分で握る時代がやってきた!
「人生100年時代」と呼ばれるようになって久しくなりました。誰もが長く生きる可能性をもつ時代において、働く時間もまた、これまでよりもずっと長くなる・・・これはもはや避けられない現実です。でも考えてみてください。私たち自身は「長く働ける準備」は出来ていますか?
定年後、「まだ私は働ける」「まだ私は働きたい」と思っても、社会または企業があなたを必要と感じなければ、自分自身が望んでも仕事はありません。健康も気力もある。けれど求められるスキルが無ければ、そこでキャリアは終わってしまう。そういう時代がすぐそこまで来ています。
一方で社会は深刻な人手不足。それなのになぜ「働きたくても働けない人」が生まれてしまうのでしょうか。理由はひとつ。「必要とされる仕事」が変わってきたからです。
AIやDXが進展する中で、単純作業や定型業務の多くは、確実に自動化の波にさらされています。人がやるべき仕事は「誰でもできること」から「その人だからできること」へと、確実に変わりつつあります。どんなに人が足りなくても、「自分の価値」が無ければそこに居場所はない。それが、私たちが直面している現実なのです。
だからこそ、全ての働く人に問いたい。あなたの「売り」は何ですか?
年齢も立場も関係ありません。20代であれ、50代であれ、60代であれ、自分にしかない価値を育てている人は、どんな時代でも、どんな場所でも必要とされます。そして強い「売り」には、3つの共通点があります。それは「希少性」「市場性」「再現性」という3つの要素が揃っていること。
例えば、自分だけが持っている専門的な知識や経験があれば、それは「希少性」になります。なかなか代替が効かないものであればあるほど、希少性が高く、「売り」の価値が高いものと言えます。
ただ希少性があっても、今の社会や組織から求められているものでなければ、あまり意味をなしません。それがいわゆる「市場性」です。
そして、一度きりの偶然ではなく、どこでもどんな時でも安定的に成果をだせる力なら、それは「再現性」という強みになる。「希少性」や「市場性」と比べると再現性は少し分かりにくいかもしれませんね。「再現性」が高い人とは、その道の、「プロ人財」と呼ばれる人をイメージして頂ければいいと思います。会社が変わっても、職種が変わっても、どんな立場になっても、結果を出す人がいます。こういう人がいわゆる「プロ人財」です。
彼らは成功しても失敗しても、起こった事象を本質的に理解するために、成功要因・失敗要因の因数分解を行い、かつ復習を怠りません。だからいついかなる時でも成果が出せるのです。「希少性」「市場性」「再現性」、この3つが揃った時、あなたの価値は圧倒的に際立ちます。
そして大切なのは、それがAIには真似できない「人間ならではの力」であること。例えば、誰かの気持ちに寄り添う力、組織の空気を感じながら進めていく協調性、異なる価値観の間に橋を架ける柔軟さ。これらはAIでは代替できない、「人としての力」です。
こうした「売り」はただスキルを磨き上げれば得られるものではありません。どんな力をどんな方向で育てていくのか。それを決めるために必要なのが、自分自身の「ミッションステートメント」です。
あなたは、何のために働くのか。
どんな人生を送りたいのか。
どんな瞬間に心が動き、誰の笑顔にやりがいを感じるのか。
一度、自分自身に静かに問いかけてみてください。
それが言葉になった時、キャリアの選択肢はただの選択肢ではなく、人生そのものに意味を持たせるものに変わってきます。ミッションが定まれば、「どんなスキルを身につけたいか(売りを何にするか)」も「どんな仕事をしたいのか」も明確になります。
変化の激しい時代に、「これをしていれば安心」という正解は、残念ながらありません。ですが、自分の軸を持っていれば、たとえ環境が変わっても、自分の居場所を作り出すことができます。
誰かに選ばれるのを待つのではなく、自分で機会をつかみ、自分で道を切り開く。それこそが「キャリア自律」の真髄です。
そして不思議なことに「自分の手でキャリアを育てていく」という姿勢は、想像以上に人生を豊かにしてくれます。「やらされる」のではなく「自分で選ぶ」日々。義務ではなく、納得を持って働くことの楽しさ。たとえ失敗しても、迷いながらでも、自分の人生に責任を持ち、そこに意味を見出していく過程は、きっと人生そのものを輝かせてくれます。
いくつになっても「働くのって楽しい」と言える自分自身であるために、キャリアの舵は自分自身で握るのです。
今こそ、年齢に関係なく、自分自身の可能性に向き合い、「キャリア自律」という人生の旅を始めてみませんか?
みなさんの「人生100年」が素晴らしいものになりますように!
山口乃理夫(やまぐちのりお)
東亜グラウト工業 代表取締役社長
1993年に積水化学工業に入社し、M&Aで手腕を発揮。仲間や部下から厚い信頼を集めるなど、一貫してヒト・モノ・カネという経営企画の視点で組織を成長させてきた経営のプロ。2017年に現職に就くと、7年間でグループ全体の売上高、営業利益とも2.4倍に押し上げた。