映画「前田建設ファンタジー営業部」に土木の神髄を見た

マジンガーZの地下格納庫は72億円

バカバカしいほどに科学的かつクソまじめ

 アニメに登場する現実ではあり得ない(と思われる)設定の構造物を、アニメの登場人物からの依頼を受けて(というテイで)、本当に作る(作れる)とした場合の工期と価格をはじき出すのが、前田建設ファンタジー営業部だ。

これまでに手掛けた案件は9件に達する。その検討結果は特設サイトや書籍で紹介されているので、ご覧になった方も少なくないだろう。

現実世界で実現可能なギリギリの技術と材料を探し出し、組み合わせ、工夫を凝らす様はバカバカしいほどに科学的かつクソまじめで、「あ~これなら本当に建設できるかも」と思わせられてしまう。以前からファンだった。

その第1号案件である「マジンガーZ 地下格納庫編」が映画化された。書籍でも読んでいたが、改めて映像を見て土木の神髄に感じ入った。

知見、経験、工夫、創意、協働、そして「地球を守る」という思い

マジンガーZの格納庫は、地下に建設されている。ただし、汚水処理場(おそらく最初沈殿池か最終沈殿池)の地下である。いざという時に天井部が左右に割れ、こぼれ落ちる水(汚水あるいは処理水)にまみれながらマジンガーZは格納庫からせり上がり、発進するのだ。

本プロジェクトでは、光子力研究所の弓教授からの発注を受け、この汚水処理型地下格納庫を現実世界に建設できるかどうかを検討する。

ネタばれするので詳しくは述べないが、ファンタジー営業部には技術面で様々な壁が立ちはだかる。移動式の天井では汚水の重さに耐えきれない、10秒程度(アニメを基に算出)でマジンガーZを地上部まで持ち上げるジャッキがない、アニメの設定が揺れて設計変更を余儀なくされる、等々。

部員は時にくじけ、あきらめそうになるが、時に教科書を読みこみ、社内の土木や機械のプロフェッショナルに教えを請い、ついには社外にも協力を要請し、考え、工夫し、解決策を手繰り寄せる。

できない理由より、何ができるかを考える。1人でできないなら、仲間の力を借りる。自社にない技術なら、他社と協働する。技術があるだけではだめで、それをどう使うか、どう組み合わせるかも大切だ。

科学的知見、現場経験を両輪とし、工夫、創意、協働、そして(マジンガーZの設定では)地球を守るという一念がプロジェクトを動かし、「新しい」を創造する。これこそが、土木の神髄なのだと感じた。そうやって日本の国土は築かれてきたのだ。

「新しい」を創造する土木の底力

そうして築かれた上下水道や道路、橋梁などのインフラはすでに日本全国にいきわたり、作る時代は終わった。だからといって、土木の時代が終わったわけではない。

これからインフラ、いや日本という国土をいかにマネジメントしていくのか。そして、インフラあるいは日本という国土からどのような価値を生み出せるのか。この領域はほとんど未踏である。

作る時代が終わり、土木界はここのところ少し元気がない。確かにこれから日本は人口減少社会を迎え、作るものも減っていくが「プラスからマイナスになる」ととらえるのではなく、「だれも経験したことのない新しい時代」と考えれば少し楽しい。

今こそ「新しい」を創造してきた土木の底力に期待したい。

ちなみにマジンガーZの地下格納庫は、工期6年5カ月、工事金額72億円であった。

(編集長:奥田早希子)