2026年は「インフラマネジメント元年」になる

「直す」から「どう残すかを考える」へ、インフラ政策が大転換

2013年は「社会資本メンテナンス元年」だった。
そして2026年は、後から振り返ったときに「インフラマネジメント元年」と呼ばれる年になるかもしれない。

国土交通省の社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会のインフラマネジメント戦略小委員会が2026年9月、「今後のインフラのマネジメントのあり方について」の中間とりまとめをまとめた。

副題は、「今こそ『インフラマネジメント』への戦略的転換を」だ。

ここで注目したいのは、「メンテナンス」ではなく「マネジメント」という言葉である。
道路、橋、上下水道、河川など、これまで造ってきたインフラを点検し、傷んだところを直して長く使う。それだけでは、人口減少時代のインフラを維持できない。

どのインフラを残すのか。どこに重点的にお金や人を投入するのか。場合によっては、何を集約し、撤去するのか。そして、それを誰が決め、誰が支えるのか。

インフラ政策が、そんな「経営」の領域へ踏み込み始めた。

2013年「メンテナンス元年」から13年

大きな転換点となったのは、2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故だ。

国土交通省は翌2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置づけ、点検、診断、措置、記録というメンテナンスサイクルの確立や、「壊れてから直す」事後保全から「壊れる前に直す」予防保全への転換を進めてきた。

しかし、それから13年。

インフラを取り巻く条件はさらに厳しくなっている。高度経済成長期以降に整備された施設の老朽化が進む一方、インフラを管理する側の人とお金は減っている。

中間とりまとめによると、全国の市区町村の約4分の1には技術系職員が一人もおらず、約半数は5人以下しかいない。市区町村の土木費も1993年度の約11.5兆円をピークに、近年は約6.5兆円程度で推移している。

つまり、

「管理しなければならないインフラは老朽化していくのに、管理する人とお金は増やせない」

という構造である。
そこに2025年1月、埼玉県八潮市で下水道管路の破損に起因する大規模な道路陥没事故が発生した。

中間とりまとめは、この事故によって、これまで進めてきたインフラメンテナンスの取り組みだけでは不十分であることを「痛感した」としている。

そこで打ち出されたのが、

「インフラメンテナンスからインフラマネジメントへ」

という戦略的転換である。

そもそも「インフラマネジメント」とは何か

今回の中間とりまとめで重要なのは、「インフラマネジメント」を改めて定義したことだ。
その考え方を簡単に言えば、インフラを一つひとつ、あるいは一つの分野だけで考えるのをやめるということである。

道路は道路、水道は水道、下水道は下水道として管理するのではなく、異なるインフラや管理主体を横につなぐ。
さらに、地上と地下など空間的にも一体で捉える。
そして、計画、設計、整備、維持管理、更新までを時間軸でもつなげる。

そうしてインフラ全体を最適化していくことを「インフラマネジメント」と位置づけた。

ここが「メンテナンス」と大きく違うところだ。壊れた施設をどう直すかという技術論だけではない。人口や土地利用、災害リスク、財政、地域の将来像なども見ながら、

「このまちに、将来どんなインフラが必要なのか」

を考えるところまで対象が広がる。

「全部を同じように守る」からの転換

その象徴が、中間とりまとめが掲げた「メリハリ」である。

人口が増え、税収も増えていた時代につくられたインフラを、人口が減る時代にすべて同じように維持し続けることは難しくなっている。

そこで、
事故のリスクや社会への影響、地域の将来像などを踏まえて優先順位をつける。
重要なところには重点的に人や予算を投入する一方、必要に応じて施設を集約・再編する。

中間とりまとめでは、まちづくりとインフラ老朽化対策の計画を一体的、整合的に考えることまで求めている。

下水道については、さらに踏み込んでいる。
将来の人口減少などを踏まえ、下水道区域を縮小して浄化槽などの区域へ見直すことも含め、「システム全体として維持すべき施設の最適化」を検討するとしている。

これは大きな変化だ。
これまでのインフラ政策が主として「どう造るか」「どう長持ちさせるか」を考えてきたとすれば、これからは、

「何を、どこまで、どう残すのか」

を考える時代になるからである。

市民は「利用者」から「オーナー」へ

もう一つ、今回の中間とりまとめで注目したい言葉がある。

見える化」である。

しかも、見える化には二つあるとしてる。一つは、AI、ロボット、センサー、ドローンなどを活用してインフラの状態を管理者や担い手が把握する「テクニカルな見える化」であり、もう一つが、市民への「見える化」である。

中間とりまとめは市民を、

「利用者であり納税者でありそしてオーナー」

と位置づけている。

インフラの劣化状況だけでなく、人口分布、災害リスク、土地利用、老朽化対策に必要な費用などをマッピングなどによって分かりやすく示し、さらには財政負担や更新需要を含めた「財政の見える化」まで検討するとしている。

なぜ、そこまでするのか。

これからはインフラの集約や再編、優先順位付けといった、住民にとって必ずしも歓迎されるとは限らない判断が必要になるからである。

実際、国土交通省のアンケートでは、「重点化」や「軽量化」のメリハリを取り入れたインフラマネジメントを約7割の機関・部署が実施していないと回答した。町村では、その理由として「地域・議会の反対(が予想される)」が多く挙げられた。

行政だけでは決められない。

だからこそ、まず現状を見えるようにし、市民と共有し、対話しながら決めていく。

「見える化」は情報公開のためではなく、意思決定に市民を巻き込むための出発点になる。

インフラ危機を「自分事」にする

中間とりまとめはさらに踏み込んで、インフラ危機を「専門家だけの課題」ではなく、「市民一人一人の生活に直結する自分事」として認識してもらう必要があるとしている。

そして、

市民の関心が高まる

メディアが取り上げる

政治が動く

予算が確保される

人材が集まる

という社会的な「モーメンタム」をつくることを求めている。これは、従来のインフラ政策にはあまり見られなかった発想ではないだろうか。

行政と専門家がインフラを管理し、市民はそのサービスを受ける。
そんな関係から、市民自身もインフラを支える主体になる。

中間とりまとめの最後にも、国民一人一人がインフラマネジメントを支える「重要な主体の一員」として、インフラ管理者と連携・協力することへの期待が記されている。

ただし、ただ「見せる」だけでは市民の行動にはつながらない。何のために「見える化」するのか、その目的を明確にする必要がある。この点については以前に投稿した記事、筆者のnoteも参照してほしい。
※「Mizu Design」インフラ情報を「公表する必要はない」と考える自治体も
※note 「モーメンタム」って何ですか?「市民への見える化」を阻む言葉の壁

「インフラマネジメント産業」が生まれる

変わるのは行政だけではない。

中間とりまとめでは、「インフラマネジメント産業」という言葉も打ち出された。

道路会社、水道会社、下水道会社、建設会社、コンサルタント――といった従来の分野の壁を越え、地域のインフラを持続的に支える産業へと発展させていく考え方だ。

広域・多分野のインフラを「群」として捉える「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」をさらに進め、自治体、事業者、技術者をそれぞれ「束」にしていくことも改めて示された。

包括的民間委託などの官民連携も、さらに推進するとしている。

つまり、これから求められる民間企業の能力も変わるということだ。一つの施設を造る力、一つの設備を維持する力だけではなく、

地域全体を見て、異なるインフラや行政、企業、住民をつなぎ、将来像から逆算してインフラをマネジメントする力

が重要になる。

2026年、「マネジメント元年」へ

2013年の「社会資本メンテナンス元年」から13年。

点検し、診断し、壊れる前に直すという考え方は、日本のインフラ政策に定着してきた。
しかし、人口減少時代には、それだけでは足りない。

限られた人とお金をどこに使うのか。
どのインフラを残し、どのインフラを集約・再編するのか。
道路、水道、下水道などの分野をどう越えるのか。
行政と民間はどう役割を分担するのか。
そして、そこに市民がどう関わるのか。

インフラを「維持する」だけではなく、地域の将来から逆算して選び、つなぎ、経営する。

今回の中間とりまとめが示したのは、そんなインフラ政策への転換である。
2013年が「社会資本メンテナンス元年」と呼ばれたように、
2026年は「インフラマネジメント元年」として記憶される年になるのかもしれない。

いや、そうしなければならない。

(編集長:奥田早希子)