最近のインフラ界隈で、「見える化」が流行りはじめている。
大きく分けて2種類ある。ひとつは、管理者や担い手にとっての「テクニカルな見える化(管理者への見える化)」。もうひとつが「市民への見える化」である。
「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」の第3次提言や、社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会インフラマネジメント戦略小委員会の「今後のインフラのマネジメントのあり方に関する方向性(案)」でも、「見える化」が重要なキーワードになっている。
これからインフラを使い続けていくために、どちらの「見える化」がより重要だろうか。
私は断然、「市民への見える化」だと考える。
なぜなら、インフラのあり方を最終的に決めるのは市民だからだ。にもかかわらず、これまで市民に届けられるインフラの情報は、あまりにも少なかった。
そんなことを言うと、「いや、広報には積極的に取り組んできた」というお叱りの声が聞こえてきそうである。
たしかに下水道では、20年以上も前から広報を重視してきた。しかし、その内容は汚水処理の方法や下水道システムの仕組みなど、「学習的」なものが中心だったのではないだろうか。情報の受け手は「へえ、なるほど」で終わってしまう。
下水道システムのことを分かりやすく伝える。それだけで、果たして「見える化」と呼べるのだろうか。
「見える化」は何のためにするのか
そもそも「見える化」とは何か。
日立ソリューションズの解説では、「業務の進捗や成果、状態など、一見して分かりづらい物事を客観的に認識可能な状態に」することであり、その目的は「見えるようになったデータを業務改善や課題解決に活用する」ことだと説明されている。
つまり、見えるようにすること自体が目的ではない。その先にある「改善」や「課題解決」につながって、初めて意味を持つ。
「へえ、なるほど」で終わってしまう広報では、課題解決という目的にはなかなか届かない。
「市民への見える化」を効果的なものにしたいなら、まず「何のために見える化するのか」を定めるべきだ。
私は、その目的を「行動」に置きたい。
例えば、インフラマネジメントについて考え、それを投票行動につなげる。あるいは、下水道管路の腐食を抑制するため、油を拭き取ってからフライパンや皿を洗う。そんなささやかな行動でもいい。
情報を知り、理解する。その結果として、一人ひとりの選択や行動が少し変わる。
そこまでを意識した広報であってこそ、本当の「見える化」と言えるのではないだろうか。
「可視化」で終わってはいけない
「見える化」と似た言葉に「可視化」がある。
一般的に「可視化」は、目に見えないデータなどをグラフやチャートなどによって見える状態にすることを指す。一方、「見える化」は、見えるようになった情報を改善や課題解決につなげていくところまでを含む考え方として使われることが多い。
この違いは、これからのインフラ広報を考えるうえで重要だ。
2026年5月に可決された下水道法改正では、維持管理の状況を公表する制度も盛り込まれた。
まず、これまで見えていなかった情報を「可視化」することは重要である。しかし、私は、それだけで終わってしまわないかと懸念している。その懸念を抱かせる調査結果がある。
4700を超える自治体の機関・部署を対象としたアンケートでは、52%がインフラの状況等を住民に「公表していない」と回答した。
さらに、公表していない機関・部署のうち44%が「公表する必要はないと考えている」と回答。5%は「公表する必要があると考えているが、諸事情により、公表しないと判断した」と回答している。
社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会の第4回インフラマネジメント戦略小委員会で提示された資料である。
家田仁委員長(政策研究大学院大学シニアフェロー)は、自治体が見える化に消極的であることを問題視し、危機感を共有するためには「圧倒的な見える化」が必要だと指摘した。
ほかの委員からも、人や予算の不足を理由に現状を直視していないのではないか、という趣旨の厳しい意見が出された。
見せるべきは「情報」だけではない
「見える化」は、大いに流行らせてほしい。
インフラがどのような状態にあるのか。維持するためにどれだけのお金が必要なのか。誰が支えているのか。このままでは何が起きるのか。これまで市民から見えにくかった情報を、もっと社会に開いていく必要がある。しかし、情報を公開するだけでは「可視化」で止まってしまう。
何を知ってほしいのか。知った市民に何を考えてほしいのか。そして、どんな行動につなげたいのか。
そこまで設計して、初めて「市民への見える化」になるのではないだろうか。
目的を定めない「見える化」では、やはり何も見えない。
「見える化」を一過性のブームに終わらせないために、インフラの状態だけではなく、「何のために見える化するのか」という目的そのものも、可視化する必要がある。
(編集長:奥田早希子)

