高インフレ、為替リスクへの対策進む
エジプトは1.1億人の人口のうち、65%が35歳以下という若い国です。おもな輸出品は天然ガス、フルーツや野菜で、日本の冷凍イチゴの多くがエジプト産です。
基本的なインフラはほぼ整備されており、電気と上水道は100%、下水道は70%の普及率です。
現在、国主導の経済を民間主導に変えていくことが国家的課題となっており、その原動力の1つの柱としてPPP推進への期待が高まっています。
エジプトでは2010年にPPP法と施行令が公布されました。その後、PPP法は2021年に、施行令は2022年に相次いで改訂されました。
全てのPPP案件実施に必要となった導入可能性調査を着実に実施するため、欧州ドナー支援などをうけ1000万ユーロのプロジェクト準備基金の設立も計画されています。
これらの動きからは、PPPが本格的に動き始める胎動が感じられます。
なお、エジプトのPPP案件は、契約金額は最低1億エジプトポンド(約3億円)、契約期間は5~30年とされています。
2017年からおよそ40件のPPPプロジェクトが実施されてきました。案件の多くは再生可能エネルギー事業ですが、最近は下水処理場や海水淡水化などの水分野、廃棄物処理などの環境分野、物流事業などが増えてきています。
エジプトは1952年以降8回の経済危機に直面している開発途上国の1つです。過去10年間で自国通貨価値が1/7となり、2023年はインフレ率が40%を超え史上最高となりました。このような困難な状況の中、政府はPPP推進にあたり多くの民間企業に参画してもらうため、様々な対策を講じています。
例えば、高インフレのリスクは国が負うこと、為替リスクに対してはPPPに関する外貨支払いを中央銀行に優先させ、支払いは現地調達・輸入の割合に応じて、エジプトポンドと米ドルを混合することによりリスクを軽減するなどです。なお、政府は現地製造を積極的に奨励しており、PPP事業においても現地調達率向上を目指しています。
下水処理水が水不足の切り札に
エジプトでのPPPの好事例の1つとして、ニューカイロの下水処理場プロジェクトを紹介します。
下水処理量は25万m3/日で、契約期間は2009年から2030年までの20年間。競争入札には8社が参加し、2013年から民間企業が運転管理を始めています。
契約金額は3億3,000万ドルで、うち金融機関からの投資が1億ドル、建設費は8,000万ドルです。アラブの春の混乱により建設や支払遅延があったものの、その後は1カ月以上の政府の支払遅延に対するペナルティーもあり、1か月以上の支払遅延は起きていないとのことです。
このPPP案件の特徴は、下水道資源を有効活用していることです。下水処理水は主に農業用水として、また、下水汚泥から発生したバイオガス(12,000m3/日)を汚泥乾燥の燃料として活用しており、乾燥汚泥は肥料原料として販売しています。今後はバイオガス発電も計画しています。
エジプトでは毎年150万人程度の人口増加が見込まれ、水資源のほとんどを依存するナイル川からの取水量も増やすことができないことから、今後は水不足が懸念されています。
下水処理水の農業利用は、水不足を解決する切り札とされており、特に下水や汚泥処理での技術や経験を持つ日本への期待が高まっています。(談)