みずからの殻を破って「オソト」に出よう!

マネジメント時代に求められる業界「変態」を問う:talk with 岡久宏史氏

 一般社団法人Water-nは3月23日、新規事業「水インフラマネジメント大学」の4月開講に向けたキックオフセミナーをオンラインにて開催し、約80名の方が視聴してくださいました。ゲストスピーカーである公益社団法人日本下水道協会の岡久宏史理事長と、当法人代表理事の奥田早希子とのトークセッションの概要をお伝えします。

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ゲストスピーカー
岡久宏史氏(左)
公益社団法人日本下水道協会理事長


この記事のコンテンツ
■下水道普及率を増やしていくことの「終焉」
■社会貢献の視点で下水道の新たな役割を創造する
■マネジメントの時代はビジネスチャンスの時代
■勝ち残るのは全体が分かる企業と、特別な技術を持つ専門企業
■想像力と想像力で「変態」しよう


下水道普及率を増やしていくことの「終焉」

奥田 下水道事業の目標はかつては普及率であり、その「数字」が上がることで評価されました。ですがすでに普及率はほぼほぼ上限に達していて、何で下水道事業を評価すればいいのかが分からない。普及率に変わる目標が見えないから、産業界も何を開発すればいいのか、どこに力を入れて経営すればいいのかが不透明で、苦しんでいるように感じます。

岡久氏 まず現状を見てみると、生活排水処理人口普及率は合併浄化槽なども含めて約92%、下水道だけでも約80%に達しています。未整備地域の方が約1,200万人いらっしゃいますが、下水道による整備率は増えてもあと5%程度でしょう。

下水道事業として浸水対策はまだやるべきことがありますが、汚水処理の面で下水道普及率を増やしていくことは終焉ではないでしょうか。

とすると、建設からマネジメントへの変革、今あるモノの再構築を考える時代になっているわけです。この時代には成長ではなく「変態」が重要です。

奥田 「変態」というのは岡久さん独特の言い方ですよね。成長との違いは?

岡久氏 木の苗は大きくなっても木のままです。これが成長。これに対し、青虫は大きくなると、さなぎになり、蝶になる。まったく異なる生物になっていく。これが変態です。

私が国土交通省下水道部長の時に策定した新下水道ビジョンにも「変態」の考え方を盛り込みました。下水道事業を成長させるのではなく、「変態」によって成熟化させる。これからはこういう発想が必要ですね。

<新下水道ビジョン>より
「成熟化」とは、
これまでの排除・処理・循環という下水道の既成概念を超えるもの。
幼生がさなぎを経て蝶に「変態」していくかの如く、
時代の要請に応じて、社会との連携を深化させ、
能動的に社会的役割や貢献を多様化・拡大、新たな価値を創出、
下水道の本質的役割を変化させ、下水道を持続しつつ、進化させる。

(岡久氏提供)

(岡久氏提供)

社会貢献の視点で下水道の新たな役割を創造する

奥田 ドラッガー曰く「マネジメント」は目標があって、目標に向かって頑張っていくこと。これまでの下水道事業は普及率を目標にしっかりとマネジメントされてきました。

「建設からマネジメントへの変革」という意味は、運営とか再構築とか経営などを重視する時代になるということですよね。まさにそう思います。そうなるとマネジメントが変わる、つまり新たな目標が求められると思うのですが?

岡久氏 だけど普及率のような分かりやすい数値目標を立てることは難しい。

可能性があるとするなら、例えば地球温暖化防止のような社会貢献と絡ませること。下水道事業で消費するエネルギーの自立率を目標値にする、というイメージです。そのためには、下水道事業の新たな役割を作っていく必要があります。

下水道のIoT化というのは目標にはなりえません。これは手段ですね。そのような手段を使って、その結果としての社会貢献の度合い、その役割の達成度こそが目標になる。だからこそ、水マネ大学のコンセプトである「オソト」に目を向けないといけない。

奥田 社会貢献の度合いが目標になる、というのは良い考え方ですね。「オソト」に目を向け、地域や生活者に対してどのような価値を提供できるのか。ユーザー目線で求められる商品や役割を構築するという発想は、スッと腹落ちします。

以前に下水汚泥の消化ガスから水素を製造する取り組みが脚光を浴びましたが、燃料電池車の普及が遅れたのでトーンダウンしたという話を聞きました。捌け口が無いモノを作ってもしょうがない。ニーズを把握することもそうですが、燃料電池車を作って需要を創出するくらいの発想がほしい。

岡久氏 ほんとにその通り。下水道から再生水や汚泥が出るから何かに使おう、であったり、汚泥からレンガができた、ガスができた、どうぞ使ってください、という発想ではうまくいきません。

マネジメントの時代はビジネスチャンスの時代

奥田 キーワードとして出てきた「マネジメント」に話題を移していきましょう。これからのマネジメントでは運営や経営などが重要になります。ここは民(企業)の得意分野ですから、ますます官民連携が進むと思います。

岡久氏 新下水道ビジョンの根底にあるのは官民連携です。大都市は大丈夫でしょうが、中小都市では下水道に関わる人、特に技術者が減ってきているので、民のノウハウや経験に頼らないとうまくマネジメントできなくなります。

官側で技術継承していくべきという人もいますが、中小の市町村にとっては現実的ではない。これからは民ですよ。

奥田 官側で技術継承できるならそれでもいいと思いますが、それは難しい?

岡久氏 公共団体のトップが「下水道は建設が終わったから終わり」という発想になっているから、官に人がいない。整備されて、これから力を入れなきゃいけないのに、そのような体制になっていない。最後の責任は官にあるので、しっかりしてもらわないと困るんだけど…。

奥田 まあその意味では民にとってはビジネスチャンスですよね。

岡久氏 まさにビジネスチャンスだと思いますよ。

奥田 ですがそのチャンスをつかみ、民がしっかりと活躍できる状況になっているかというと、ここにも課題がありそうです。民に委託するときに本当の意味での性能発注になっているのでしょうか? 民が自由度高くやれているように思えないのですが?

岡久氏 そこですね。包括的民間委託は2002年ごろに出てきた発想で、その肝は性能発注でした。民間のアイディアや工夫、ノウハウの活用を目指しました。

ですが、まだ発注者が性能発注を100%理解していないところがありますね。性能発注しているのに、民のやり方にいろいろと口を挟むとか…。

まずは発想を転換することです。これまでは官民が上下関係、甲乙関係でしたが、これからはパートナーになる。「請負」とか「請け負け」という言葉が出るようでは、うまくいかないでしょう。

 

奥田 民側の意識改革も必要ですよ。官は「お上」的な卑屈な考え方で、上から仕事が降ってくるという意識では、パートナーにはなれません。

岡久氏 お金を持っている人の立場が強いというのはあるから、民の方にとっては「そうは言っても強く出れないよな~」と思うかもしれない。だからこそ、官から変わるべきでしょう。

また、民の履行確認をし、公平公正に判断できるような第三者機関を早く作った方が良いですね。そこが官民の間での疑義やトラブルの調停も行う。この役割を官が担うのはおかしいでしょう。

評価の仕方ももっと単純でいい。民を性悪説で見ているから複雑になるわけで…。

奥田 民間活用の評価の1つにVFMがありますが、これは使い方を間違っていませんか? 民間に任せるから安くなるという発想が間違いというか。

岡久氏 今まで官が手が回らなかった部分もきちんと管理をするようになれば、逆にコストアップする可能性もある。必ず安くなるというわけではないですね。

勝ち残るのは全体が分かる企業と、特別な技術を持つ専門企業

奥田 マネジメント時代にますます民の役割が大きくなることは間違いないと思いますが、では、どのような企業が勝ち残っていくのでしょうか? これまでは下水道事業が求める技術を持つ企業がいいとされていたように思いますが、いい企業の基準が変わっていくのでは?

岡久氏 二極化すると思っています。

まずマネジメントの時代ですから、処理場と管路を複合的に見て、下水道システム全体を管理できる、全体を総合的に見られる民間企業があると良いですね。

かといって、全社がそうである必要はなく、一方では特別な技術を持った専門企業も必要です。

奥田 スマホで日本企業が海外に勝てなかった構造と似ている気がします。日本企業は部材を製造していましたが、勝ち残ったのは使用する部材を決める選択権を持った会社だったと聞いたことがあります。

下水道システム全体を総合的に見る企業というのは、選択権がある企業ですね。一方、これがないとだめでしょ、というくらいのオンリーワンの技術もある意味では選択権を持っていて強い。

岡久氏 エネルギーゼロの下水道事業を例にとると、全体を取りまとめる企業がいて、一方で例えば処理槽のばっ気量を4割削減する管理ができる専門企業も必要。そういう企業体がタッグを組んでほしい。

下水道施設の機器を最新の省エネ機器に入れ替えて、最新の処理の制御技術を導入すれば、半分程度の電力で賄えるという試算があります。また、下水汚泥の消化ガス発電で電力の4割は賄えるという試算もあるので、残りの1割に太陽光などを使えば自立できます。

汚泥脱水機の電力消費量を1割削減できるだけなら自治体側も踏み切りにくいでしょうが、処理場全体の電気が不要ということなら首長が決断するでしょう。1社で処理場全体に対応できないなら、数社でタッグを組めばいいアイデアが出ると思います。

奥田 下水道業界にはパイプの業界、パイプメンテナンスの業界、施設の業界、施設メンテナンスの業界という具合に、さらに細かな縦割り業界があります。作る時は専業のほうが効率的だったかもしれませんが、このままバラバラでは「全体」に目配りできない。まずはこの壁を溶解することだと思います。

岡久氏 下水道業界の中にも「オソト」があるんですね。確かにメーカー、処理場、管路の企業は横のつながりが案外と薄い。まずはみんなで集まって議論する。そこから新しい発想が産まれそうですね。

奥田 自治体から課題をもらって解決する「課題解決型」の企業では勝ち残れない。これからは「課題発掘型」の企業であるべき、と某企業の会長がおっしゃっていました。

また別の某企業の方は、今後の公共事業を担っていく企業には、注文を受ける「受注」ではなく、注文を創造していく事業構想型の「創注」の力が必要だと指摘しています。

まったくもってその通りだと思います。岡久さんが「請負」という発想がだめだとおっしゃっていたことと根本は同じ意味です。

岡久氏 官民連携はまさしくそういうことです。そのために、官側は持っている情報をどんどん解放してほしいです。

想像力と想像力で「変態」しよう

奥田 最後に、国や企業にどのように「変態」していってほしいですか。

岡久氏 今の延長線上ではなく、不連続的な発想をしてほしい。そのためには、今までの考えを捨てることが大事です。

人間は「想像」できないと、新しいことを「創造」できません。2つの「ソウゾウ力」を持った「変態」になってほしいですね。

奥田 「変態」になるために、岡久さんが心がけておられることは?

岡久氏 自分の殻を破ること、そのために色んな人と付き合うことです。同じ会社の人と飲んでばっかりではだめですよ。水マネ大学などで勉強し、心を開いて、いろんな情報を手に入れて「変態」してください。

奥田 本日のセミナーのタイトル「みずからの殻を破って『オソト』に出よう」の「みずから」には2つの意味を込めました。今この瞬間から「自ら」「水から」変えていく。セミナーがそのきっかけになりましたら幸いです。

ありがとうございました。動画はこちらをご覧ください。