「ゴミ拾い」を科学する マイクロプラへの挑戦

一般社団法人ピリカ 関根久仁子さんに聞く

陸上ごみの自然界への流出を科学技術で防止することを目指して京都大学の学生が設立した一般社団法人ピリカ(本社:東京都渋谷区)は2020年3月、12都府県・100地点で海洋などのマイクロプラスチックを調査した結果を公表しました(「マイクロプラでは人工芝が最多だった」)。この結果を踏まえた今後の展開などについて、同団体の関根久仁子さんに伺いました。

マイクロプラはすべての産業が抱えるリスク

ごみ拾いをする関根さん(関根さん提供)

――先ごろ発表された調査結果をどう受け止めておられますか。

 「日本各地のマイクロプラの含有量が、東南アジアと比較して多かったことは想定外で驚きました。メコン川下流のマイクロプラの量が多い所、状況的には“ひどい”箇所と、日本がほぼ同じ水準でした。

海洋プラの問題は日本よりアジアの方が深刻だというイメージがあるかもしれませんが、実は他山の石ではなかった。私たちも自分事として解決すべき問題であると感じました」

――最も多いマイクロプラは人工芝で、被覆肥料も多かったです。

「2018年の調査で初めて、そのことが分かりました。海洋プラは一人一人のポイ捨てだけが原因なのではなく、産業活動からも漏れているということを認識していただけたと思います。

調査では人工芝などが多かったのですが、それも氷山の一角でしょう。特定の産業や会社だけの問題ではなく、ありとあらゆる場所に起こりうるリスクだと考えています。

まずはそのことを認識し、関心を持っていただけるとうれしいです」

海洋に流出してからでは遅い

マイクロプラは独自開発した装置「アルバトロス」で採取する(ピリカ提供)

 ――調査結果を踏まえて訴えたいことは。

「マイクロプラは海に流れ出てしまってからでは、拾って解決することは容易ではありません。現実的な対策は、流出を防ぐことです。そのためには、プラスチックの使用総量を減らしたり、代替したりすることも有効です。

プラスチックメーカーやプラスチックを使う産業を否定するわけではありません。あらゆる産業が、無意識に社会の利便性を高めようと、科学技術で作ってきた素材が、生態系を乱し、人への健康リスクへの影響もまだ十分に解明されていない今、何がどのように流れ出ているのか、その流出経路に興味を持ってもらいたいと思います」

施策評価に科学的な論拠を活用

採取したマイクロプラは大学や企業と連携し、素材を同定し、製品も推定する(ピリカ提供)

――今回の調査も、独自開発したゴミ拾いSNS「ピリカ」もそうですが、科学的なアプローチで陸上ゴミの量と回収場所を明らかにしたことの意義が非常に大きいと思います。

 「日本ではおそらく9割のゴミは廃棄物処理システムに乗って処理できていますが、残り1割はそのシステム外で漏れています。そのゴミを拾ったとしても、どれくらい減ったのかを定量化する指標がありませんでした。

 企業がCSR活動でゴミ拾いを行った場合、CSRレポートなどに記載できるのは場所と回数くらい。ピリカを使うことで、量や個数を定量的に把握できます。グループや拠点間での比較ができ、モチベーション向上にもつながります。

 ピリカは『科学技術の力であらゆる環境問題を克服する』ことを理念としています。陸上ゴミや海洋プラの問題を定量的に把握し、科学的論拠を明らかにすることで、対策の効果の評価や、解決策につなげることができると考えています。

 例えば、ポイ捨て調査システム『タカノメ』では、スマホで撮影した画像に映っているゴミの種別や数量をAIによる画像解析で判別し、ごみの分布をヒートマップ形式で「見える化」することができます。

ポイ捨て防止ポスターを掲出して本当に吸い殻ゴミが減るのか、あるいはどこに喫煙所を設置すればいいのか、それに答えるための科学的な効果検証ができます」

「ありがとう」と言い合うことがうれしい

ゴミ拾いSNS「ピリカ」の流れ(ピリカ提供)

――ゴミ拾いSNS「ピリカ」を使って、なぜ人は自ら進んで(喜んで?!)ゴミ拾いをするのだと思われますか。

「いろんな理由があると思います。SNSなので、アップされたゴミ拾い活動に対し、誰もがコメントしたり『ありがとうボタン』を押して労い合ったりできます。

私の息子の場合『ありがとう』と人から言われること、逆に人に言うこともまた、うれしいようです。今では『ピリカ散歩しよう』と誘ってきますよ」

――今後は?

「今も企業や自治体と連携し、重点的にゴミ対策を講じるべき箇所を選定するなどの活動の支援を行っていますが、これからもより多くの地域で、限られた予算を適正配分できるよう科学的に支援して行ければと思います。

代表の小嶌不二夫も私も、最も大事で安価でコストパフォーマンスが高く、世界中どこででもできるまちをきれいにする一番の方法は、みんながゴミを拾うことだと思っています」

(聞き手:編集長 奥田早希子)