「評価外」からやる気になった19社
前回まではAリストに選ばれた日本企業23社に注目してきました。今回はAリストではなかったものの、注目していただきたい企業を紹介します。
これまでも述べてきたように、CDPの質問状への回答は企業の義務ではありませんし、回答しなかったからといって法的に罰せられるわけでもありません。回答しなかったり、回答内容が不十分と判断されたりした場合、評価できるだけの情報開示なしで「F」ランクとなります。
2018年にFランクだった企業のうち、19社が2019年には回答しました。評価がつく最低ランクのD–という企業もありますが、一方、6社(日清製粉グループ本社、日立ハイテクノロジーズ、小林製薬、デンカ、ライオン、中部電力)はいきなりのBランク入りです。
CDPの開示情報が、企業のESGを翻訳する共通言語に
グローバルのCDPウォーターは2019年で10回目、日本企業対象は6回目になります。なぜ今、ここへきて回答するようになったのでしょうか。FからBランク入りした企業の環境関連部署の方に伺ったところ、個人的見解として「ESGへの意識の高まりがある」と説明していました。
ESGとは、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)のことです。機関投資家が投資先企業の評価軸にこれら3つの観点を取り入れることはESG投資と呼ばれ、昨今その流れが強まっています。その波が水にも押し寄せているのです。
このような状況について、KPMGあずさサステナビリティ代表取締役の斎藤和彦氏は「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」でコメントしています。要点を抜粋して紹介します。
・淡水資源の需給ギャップの拡大が、企業収益に影響することは確実
・豪雨や洪水は生産設備への直接的な被害のほか、サプライチェーンや物流網を寸断して生産活動に間接的な影響を与える
・「水」が企業の財務に与える影響に機関投資家の関心は高まっている
・これまで企業の水リスクや対応を理解する手段は非常に限られていた
・CDP水セキュリティプログラムの情報は機関投資家にとって貴重
ESG投資を志向する機関投資家にとってCDPウォーターが貴重な情報源になってきており、評価される側の企業もそれを無視できなくなってきたということなのでしょう。
TDKなど4社が3ランク以上の評価アップ
次に2018年から3ランク以上アップした企業が4社ありました。アップ幅がもっとも大きかったのはTDKで、Dランクから5ランクアップして2019年はA-に選ばれました。
続く4ランクアップは三菱商事でDからBへ、日清紡ホールディングスと日本特殊陶業がDからB-へと3ランプアップしました。
「水への意識」という山の頂上を高め、すそ野を広げる
前回紹介したように、キリンホールディングスのようなAリスト常連の「ずっと優等生」企業や、Aリストを逃してもすぐに奪還するクボタやトヨタ自動車のような「返り咲き」企業があります。
言うなれば、彼らは水の取り組みという山の頂上をさらに高めよう、極めようとしています。上述した大幅にランクアップした4社も、その一翼を担っていくことでしょう。
これに対し、評価外のFランクから一歩を踏み出した企業が出てくるということは、水の取り組みと言う山のすそ野が広がることと言い換えることができます。すそ野が広がれば、山そのものの容積は大きくなります。
こうして、水への意識が日本全体で増えていく。たとえDランク、Cランクなど相対的に高い評価が得られていない企業があったとしても、そのことの意義は大きいと考えられます。