社員がハッピーなら業績も上がる

上下水道の持続と企業力(3)オリジナル設計

上下水道コンサルタントのオリジナル設計の菅伸彦社長は、2012年の社長就任以来、働き方改革に力を入れてきた。そのきっかけや手応えなどを伺った。

長時間労働をなんとかしなければ!

オリジナル設計 菅伸彦社長

 ――働き方改革に注力するきっかけは。

「社長に就任して3年ほどたった2015年7月、40代の技術系の職員が勤務中にくも膜下出血で倒れ、1週間後に亡くなりました。

当時は一部社員の長時間残業が常態化しており、とくに優秀な社員ほど仕事が集中して、離職につながっていました。なんとかしなければならないと痛感しました。

これまでに時短勤務やフリーアドレスの導入、時差出勤、在宅勤務などの制度を拡充してきました。こうしたソフトを有効活用してもらうために、社員の8割にノートパソコンやスマホを貸与したり、どこからでも会社のサーバーにアクセスできるモバイル環境を整備したりなど、ハードにも投資しました」

時には受注回避も

――重視したことは?

 「上下水道コンサルタントの仕事である設計や調査などは人で成り立っています。社員が健康でなければ、良い仕事はできません。そのためには、やはり長時間労働の是正です。

かといって品質は落とせませんから、先述したようにソフトとハードの両面で最大限の働き方改革を進めています。しかし、それだけでもダメ。業務量が多い技術者が担当せざる得ない案件が持ち上がった時、場合によっては受注を回避することもしています。仕事の絶対量が増えると、いずれ限界が来ますから。

営業マンにしてみれば、1年かけてようやく実った果実をなぜ刈り取らないのかと不満もあるでしょう。そうしたことを何度か経験した結果、営業と技術という部署間、さらには土木と建築など専門職種間の情報共有が進み、連携不足によって生じていた手待ちや行き違いといったロスも減ってきました」

働き方改革と経営改善を両輪で

本社オフィスは模様替えをして明るい雰囲気に

――菅社長が技術系の社員だった時のご自身の働き方を振り返ると?

「年度末は夜10時、11時まで残業が当たり前で、同じような社員がいっぱいいました。

打ち合わせ段階での資料の見栄えを良くするために細部を作りこみ過ぎたりして、過剰品質だったかなと思います。担当者レベルでは立派な資料を作りたくなるのも分かりますが、発注者としてはまずはポイントだけ手短に伝えてもらい、整った資料は後でもよい。今ならそれが分かります。

発注者にとって必要な資料を作ることは、結果として要所要所の判断の迅速化、事業全体の効率化につながります。我々の仕事は受注した段階で予算が決まっているので、時間をかけるほど利益は減ります。長時間労働の是正は、一方では社員みんなをハッピーにし、他方では経営改善の一策でもあるわけです。

逆もまた然りです。社長に就任した当初、直近ではリストラ効果による黒字が2期だけで、実質赤字が10期続いていました。すぐさま売上至上主義から営業利益率の改善に舵を切り、業務の効率化を図りました。こうした経営改善は働き方改革でもあるのです。

両者を両輪で進めることで、社長就任の翌年に黒字化でき、ここ5年間は連続で業績を向上できています」

新卒応募が2倍に。チャレンジ精神も

――働き方改革の手ごたえは?

「社内の雰囲気が良くなりました。社長に就任してから全国の拠点を回って社員に会社方針などを説明する『社長意見交換会』を続けているのですが、当初は重い雰囲気で、不平不満が多かった。今では改善策など前向きな意見が出てきますし、改善できることはすぐに実行します。風通しのいい会社風土に変わり、以前からいる社員は『別の会社のような雰囲気になった』と言ってくれています。

その結果、以前なら避けていたような、エネルギーを必要とするプロポーザル案件にチャレンジする機会が増え、その際に良い提案が生まれるという動きも起きています。

新卒採用は10名ほどですが、今年はプレエントリーが15年比で2.5倍に、本応募が約2倍に増えました。今まで採用したことのない大学からも応募があります。働き方改革を評価してくれているようです」

――働き方改革が遅れているように見える上下水道業界において、御社がここまでこだわる理由は?

「上下水道業界だけを見ていても良い仕事はできません。日本の中、世界の中の企業としての目線に立てば、働き方改革は当然の流れですし、それをしないとクリエイティブな発想が生まれないと思います。

社員にも広い社会の動きに敏感になってもらいたいので、自分自身の経験や、ヒントになるような書籍や記事などを社員に伝えるようにしています。最近話したのは、新日本プロレスリングのハロルド・ジョージ・メイ社長の『指示するボスではなく、率先するリーダーが必要』という考え方です。今後もリーダーとして、経営改善、働き方改革を実践してきたいと思います」

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています