広域化と官民連携の両輪で事業改革

持続可能な水インフラと官民連携(10)群馬東部水道企業団、越塚信夫局長に聞く(下)

2016 年に群馬県の3市5町(太田・館林・みどり市、板倉・明和・千代田・大泉・邑楽町)が発足させた群馬東部水道企業団は、全国に先駆けて広域化と官民連携の合わせ技で事業改革を進めている。越塚信夫局長へのインタビュー(下)をお送りする。

官民連携の前提は官の業務開示

――広域化と官民連携を融合させたのは、広域化しないと事業規模が小さくて民間が手を挙げてくれないと考えたからか。

「当企業団では県水統合を見据えて、まず広域化を決めたインタビュー(上)参照。広域化に伴って施設の統廃合などを行うため、一時的に事業量が1.6倍に増えると見込んだ。

しかし、事業量が増えたからと言って簡単に職員を増やすことはできないため、増えた分をデザインビルド方式やコンストラクションマネジメント方式等の官民連携手法を用いて民間の力で対応することにした」

――官民連携で気を付けていることは。

「官の業務をできる限りオープンにし、どのようにかかわっていけるか民間に見てもらう。水道全体を見てもらい、水道事業の目的についての認識を共有することが重要だと考える。 

また、官から民に一方的に指示を出すのではなく、民間との対話を重ね、意見に耳を傾けることで創意工夫が働き、官民連携に一層広がりが出てくると考えている」

企業と「パートナー」になる

――更新投資が官負担のため、民間には投資抑制するよりもっと工事をしようという歪んだインセンティブが働く可能性があるという指摘がある。(第5回「効率化の鍵は民による更新投資のマネジメント」参照)

「事業者を募集する際にあらかじめ業務量を決めているので、むやみに工事が増えるという心配はしていない。広域化と官民連携を融合させた国内初の事例として注目もされている。そうでなくても利益を追求し過ぎる民間は水道の市場から締め出されるだろう。

当企業団のパートナー企業は、県水統合など将来計画や財政状況をよく理解し、全体のバランスを考えた工事計画を遂行してくれている。パートナーとしてやっていける会社を選んだつもりだ」

地元人材で地域の水道を守る

――官民連携の受け皿として、企業団が51%、民間企業が4社で49%の出資で官民出資会社を設立した。100%官出資の会社を設立する例もある中、なぜ企業団100%出資にしなかったのか。

 「将来の企業団を担う職員を育てていきたい企業団側と、利益の確保が可能な形態を求める民間との新たな事業形態として官民出資会社(群馬東部水道サービス。以下、GTSS)を設立した。

今は官からGTSSと民間への技術継承の段階だが、いずれはGTSSに職員を派遣し民間と共同で業務に従事し、企業団内にも技術継承を図っていく。

ゆくゆくはGTSSが地元の人材を直接雇用し育成することで、GTSSにも技術の継承や蓄積を図る。地元の人材が地域の水道を守る、という形を作りたい」

――地元出身で官民出資会社のプロパー社員が増えた時、出資4社のメリットが減るのでは。

「水道法も改正され、官民連携が一層加速していくだろう。4社には社員の教育現場としてGTSSを提供し、全国での事業展開に生かしてもらう。

ここでの経験があれば、他の市町村の水道事業での現場で慣れるまでの時間を短縮できるだろう。

逆に他での経験を再びGTSSで生かしてくれれば、我々にとってもメリットになる」

カギは官民出資会社の人材確保と仕事の確保

――今後、GTSSの構成企業が変わる可能性はあるのか。

「8年間の契約満了時にパフォーマンスが悪ければ、GTSSの構成企業を変えざるを得ない。逆に構成企業がみずから離脱するかもしれない。それらリスクにどう対応するかは大きな課題だ。

 だが、GTSSのプロパー社員で各業務の基盤を支えられるようにしておけば、構成企業が変わっても問題ないと考える。

その人材を確保するには、仕事の確保がキーになる。将来的には、GTSSが他の市町村の水道事業を請け負うこともあるだろう。

今後も水道を取り巻く状況が変化していくと思うが、将来にわたり安全な水の安定供給を維持していきたい」

「環境新聞」編集部、執筆:Mizu Design編集長 奥田早希子

第9回「官民連携で水道の将来を描ける人材確保を」

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています