日立製作所は2017年10月、水ビジネスユニットに事業開発推進本部を設置し、設備メーカーからソリューションカンパニーへと大きく舵を切った。売り切り型の事業から脱却し、顧客との協創による新たな価値の創出に注力する。その背景には、多様化するPPP市場がある。同本部の千葉直利本部長にPPP戦略を聞いた。
千葉直利氏(株式会社日立製作所、水ビジネスユニット事業開発推進本部長)
「モノ=仕様発注」から「コト=性能発注」へ
――現在の上下水道PPPの市場をどう見ているか。
「O&Mによる委託は増加傾向にあり、PFIやDBO、コンセッションまで含めると選択肢が広がった。しかし、多くの事例はこれまでは官が担っていた作業の委託に過ぎず、“決められた役務”というモノを提供する段階にとどまっている。
今後は上下水道の“経営”というコトを提供していきたい。そうすることで、少子高齢化や税収の減少、都市部への人口集中、インフラ施設の老朽化など自治体のヒト・モノ・カネの課題を解決できると考える。
最近は“モノからコトへ”の流れがあり、上下水道PPPにもそれが必要だ。言い換えれば仕様発注から性能発注への移行である。その実現には法整備とともに、関係者の意識改革と、それをけん引する革新的なリーダーが必要である」
IoTプラットフォームによる価値創造を
――“モノからコトへ”の御社の対応は。
「数年前から社会イノベーション事業による社会・顧客課題の解決を掲げており、今年度が最終年度となる中期経営計画でも中核事業として位置付けている。その実現のために、これまでのプロダクトアウトからマーケットインへの転換や、コンサルティング力の強化が必要であり、そのための人材開発に力を入れている。上下水道設備や監視制御システムを作って提供するだけではなく、顧客と協創する中で課題を見つけ、解決策や新たな価値創造の方向性を提案していきたい。
そのためのツールとして、独自のIoTプラットフォーム「Lumada」(ルマーダ)を活用する。当社が管理する上下水道施設をはじめ、国内外の様々な拠点の様々な設備・機器のデータを統合し、経営や運営を改善するためのデジタルソリューションを提供できる。また、顧客との協創を進める方法論として「NEXPERIENCE」(ネクスペリエンス)も体系化している。
これらこそが当社の提供できる“コト”である。設備と運営や経営を一体化して考えてこそ、民間活用の意義がある」
延長線上にはない解決策を探る
――上下水道PPPで目指す立ち位置は。
「上下水道事業体の事業パートナーとして、設備から運営、経営まで一気通貫したトータルソリューションを提供していきたい。そのすべてを1社で担うのではなく、異業種との連携も必要だろう。
ソサエティ5.0やSDGsなど世界の流れも注視し、上下水道事業を通して日本経済の発展や社会課題の解決に貢献したい」
――“モノからコトへ”に社員は対応できているか。
「まだ道半ばだ。昨年10月に事業開発推進本部を立ち上げ、所属する約10名が“伝道師”となって、全国の営業兼SEに社会イノベーション事業の考え方や方法論を広めている。顧客と向き合い、課題を引き出し、共有し、解決策を提案し、共通価値を見出せる人材の育成に力を入れる。
今の発想の延長線上で上下水道の課題の解決策を見出すことは難しい。人材開発とデジタルソリューションを加速することでイノベーションにつなげたい」
聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています