上下水道の汚泥処理装置ではトップメーカーである月島機械はここ数年、装置そのものだけでなく、装置を活かした付加価値を販売するいわゆる「コト売り」に力を入れている。汚泥処理施設の運転管理サービス、汚泥ガス発電などの「コト売り」を「ライフサイクルビジネス」と名付けて展開する。それらはすべて官民連携(PPP)事業だ。汚泥処理に強い同社のPPP戦略を聞いた。
赤尾英明氏(月島機械株式会社、PPP事業推進室長)
汚泥関連事業のさまざまなPPPを実現
――汚泥関連のPPPで順調に実績を伸ばしている。
「最近は汚泥の資源化利用をPPPで検討することが必須となり必然的に案件は増えている。そうした中、パートナーに恵まれ、炭化という以前からある技術を燃料化技術として確立できた。後発の会社が出てきており、コストダウンやプロセス改善が必要になってきたが、先駆けて取り組んだことは大きかった。これまでにDBOで5件、PFIでは2件の計7件を受託し、うち5件が稼働している。
一方、神奈川県寒川浄水場の排水処理施設を更新するPFI事業では、すでに13年間のマネジメント経験を持つ。その他の案件を含めこれまでに蓄積した事業運営のノウハウが、今後のPFI等の案件受託において大きく生きてくるだろう」
――FITを活用した下水汚泥の消化ガス発電事業では、公的負担ゼロで民設民営による事業化に成功した。
「当社が自己資金で発電設備を建設し、お客様から消化ガスを購入して、固定価格買取制度(FIT)を活用して20年間の発電事業を行っている。お客様にとっては設備投資が不要なうえ、建設用地賃貸と消化ガス販売の対価を得られる点がメリットだ。
FITは浅く広く国民に負担を強いているとの声もあり、FIT以外の採算性の高い事業スキームを模索する必要はあるだろう。ただし、今のところは民設民営による消化ガス発電が官民のウィン・ウィンの事業スキームだと考える」
消化ガスを作るための運転管理を考える
――消化ガス発電事業は今後も増えるか。
「消化はもともとエネルギー回収ではなく、汚泥の減容化に使われてきた技術で、その過程で出た消化ガスは余剰物の扱いだった。それが、エネルギー利用できるということで、再度脚光を浴びるようになったものの、今は一段落した感がある。既存で消化設備を持っていて採算性がいい大きな自治体への導入は既に進んだ。小規模ではあるかもしれないが、採算性が良くなく民間投資は厳しい。埼玉県や愛知県のように新たに消化設備を導入する大規模な自治体もあるが、発電設備の導入だけでは、従来モデルとも他社とも差別化が難しい」
――どのように差別化を図っていくのか。
「下水処理場の役割は汚水処理で、消化ガスは副次的に作られるものだが、
その発想を転換し、効率良くガスを作るための当社ノウハウを汚水処理の運転管理に生かせば差別化が図れる。このように消化ガス発電の視点から処理場の運用を効率化するなど、事業範囲を拡大していきたい」
――処理場全体のマネジメントも視野に入れているのか。
「処理場全体もそうだし、今後はコンセッションや、管路も含めたマネジメントを民間が手掛けるようになるだろう。それに対応するには今はまだ力不足だが、そこを目指していく。マネジメントまでやって初めて、当社のノウハウを活かしきれると考えている」
専門部署を設置し事業拡大へ
――今後の戦略は。
「1999年にPFI法が施行されたのをきっかけに、マネジメントにも舵を切った。これまでも各部門と共同して展開していたが、機能強化を図るため昨年度にPPP事業推進室を設置した。もっと拡大した事業となればいずれ異業種人材の確保も必要だが、当面は協業となるだろう。コンセッションを見据え、DBOやPFIで粛々と実績と経験を積み上げ、力をつけていきたい。
とはいえ従来の装置販売がなくなるわけではない。PFIなどマネジメントを含む事業領域として当社が位置付ける『ライフサイクルビジネス』と従来領域との売上費は、今でもおよそ1対3だ。ただし、これからお客様の要望が変化してマネジメントのニーズが高まれば、結果としてライフサイクルビジネスもPPP事業推進室も拡大していくだろう。
プラントメーカーとして、やはり技術を強みとして差別化を図る。下水汚泥の脱水、焼却、燃料化など汚泥処理技術では、競合に負けないと自負している。それを強みとして上下水道施設の全体最適を提案していく」
聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています