上下水道コンサルタント(水コン)業界の中では「愚直すぎるほどまじめ」なイメージのある東京設計事務所だが、PPPという新市場を開拓するにも真摯な取り組みが期待される。昨年12月に社長に就任した狩谷薫氏に、PPP戦略を伺った。
政策判断にも関わっていきたい
――上下水道PPPにおけるコンサルタント(コンサル)の役割をどう考えているか。
「欧米は官とコンサルの立ち位置が明確に異なり、上下水道の整備はコンサルが先導してきた。日本では官が主導し、設計から建設、維持管理までを官が担っている。しかしこれからは、人口、税収、料金収入などが厳しくなっていく中で、上下水道事業にも新しいフレームが必要となってきている。ところが、いま事業を担っている官には様々な制約がある。そこで、より自由度の幅がある民が関与して、PPPを推進するという発想が高まってきた。
コンサルとして設計や資料作成など、これまでのバックオフィス的な業務だけではなく、政策設計のようなより上位の政策判断にも関わっていかなくてはならない。私どもは、まさに今、歴史の転換点にいるという認識のもと、上下水道PPPの拡大と進展にスピーディに対応し、この大きな波を乗り切り、新たな公共インフラのあり方を再構築する一翼を担う必要がある」
グループ会社を利用しPPP事業を拡大
ーー経営面でPPPへの期待度は。
「老朽化対策などの業務量は増えているが、今後はプラスアルファとしてPPPなどの新たな事業が増えてくるので、それらも経営の軸に育てていく。
現時点ではPPP専門の部署は設置していないが、行政経験者など3名の専従者を置いている。既存のノウハウや営業網を生かして地道にPPP案件を掘り起こし、官に対して企画提案を行っていく」
――これまでの設計も広義のPPPだ。従前と新たなPPPとの違いは。
「新たなPPPには事業の会計、財政、事務手続き、料金徴収などの包括的な役割が含まれている点であろう。私どもとしては、上下水道分野を中心として、この包括的な役割や業務にも関わりながら、経営健全化のための制度設計や調査など従来業務にも携わっていきたい。サービス提供者に近い立ち位置をイメージしている。また、例えばコンセッションで運営を担う際、SPCの代表企業となることにも挑戦したい。
コンサルの活動領域はこれまで建設段階までであったが、今後は建設後にも業務の幅を広げる必要がある。実は2002年に運営段階での市場開拓を狙って、アクアパートナーズというグループ会社を設立した。かなりの先見性をもって、事業展開を期待した取り組みであった。しかし時代はそこまで熟しておらず、時期尚早であった。だがこの発想と経験を生かして、これを、グループのPPP展開を担う新たな核の一つに育てたい」
社員の視野を広げる
――設計から運営へ、社員の意識改革も必要だ。現在の進捗をどう評価するか。
「2合目には登れたか、というところだ。
業務の都合上、上水道部門と下水道部門を分けているのだが、常々社員には『上下水道で考えろ』と言っている。各部門においても、土木、建築、維持管理などで個別に効率化を図ることが、実は全体最適になっていない可能性がある。
視野を広げる必要があり、そのためには、まず自分と異なる部署同士が互いによく知り合うことが大切だ。それによって従来業務である計画設計なども良くなるし、PPPとしての業務領域も広がる。
当社は、愚直すぎるほどまじめな社風がある。それは大事なことだが、新たな業態を目指す中ではもっと“アグレッシブさ”も求められている。
そのためワークライフバランスに注力し、ICTを積極的に導入して仕事のやり方をスマートに変革しようとしているところだ。
愚直な社風に育った社員には、視野の拡大や意識改革は少し苦手かもしれない。しかし、少しずつだが着実に事業全体の効率化を意識する社員は増えてきている」
AIで生産性向上へ
――今後の展開は。
「将来的にはまちづくりや防災まで事業領域を拡大していきたい。
特に雨関連の業務では、当社は水コンの中では最も実績があると自負しており、この分野での領域の拡大を大いに推進したい。しかし、下水道事業の中の雨水対策は内水だけなので、今後は外水も含めた計画が必要だ。また、ハードだけで浸水リスクをゼロにするのが難しい状況では自助の支援も必要だ。そうした総合的な雨水対策に、これまでの経験と実績で貢献していきたい。これも一つの新しいPPP事業となる。
PPPの専任部署については、今は専門家が3名いるが、今後は10名程度までの増員を想定している。
また、社会貢献を含めて、民間を対象とした取り組みとしてCDPのスコアリングパートナーを取得し、活動を進めている。CDPやSDGsといった国際的な動向をも見据えつつ、領域の拡大に力を注ぐ」
――売上目標は。
「昨年10月に新中期経営計画を策定した。6年後の売上目標は、海外事業を含めて80~90憶円と設定した。一人一人の生産性を向上して、利益率を上げていくことで健全経営を担保する。この目的に向け、ICTを活用した業務ツールを開発する専門部署の設置を前提に、業務における作業のAI対応の検討にも着手した。
業務が佳境に入ると残業が多くなったりするが、様々なしくみと工夫で、究極的には残業ゼロを目指す。ワークライフバランスへの取り組みも強化し、働く環境を常に改善していく。
社員にとっては暮らしの充実につながり、会社にとっては優秀な人材の確保につながる。それが良いPPPのアイデアにもつながるだろう。この好循環を作り、愚直にアグレッシブに変革を進め、時代の要請に応えられるよう対応していく」
聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています