海水淡水化事業は自立できるのか

依然コスト高を露呈したハイフラックス社の経営難

”売水”だけでは採算とれない

シンガポールの水処理大手であるハイフラックス社が経営難に陥っていると、5月24日付けの日本経済新聞が報じた。国内の電力価格が低迷し、売電事業用の発電設備を併設している海水淡水化プラント「Tuaspring」の収益が悪化していることが要因としている。


(photoAC)

同社のサイトによると、Tuaspringは318,500m3/日の淡水化能力があり、工場や家庭に“売水”している。東南アジア最大の淡水化プラントということで、水不足に悩む国を救うシステムとして世界的な関心も高く、また、期待も高かった。海水淡水化はランニングコストが高いことが兼ねてより指摘されていたが、それを売電事業との統合で乗り越えるビジネススキームにも期待されたが、要の電力価格が下がると経営が悪化した。このことはつまり、“売水”だけでビジネスを成立させることが難しいくらい、いまだ海水淡水化コストが高いということを意味している。

中央大学理工学部の山村寛准教授によると「海水淡水化事業は底値での入札が増えており、少しでも市況が狂うと一気に事業性が悪くなる。特に、最近は、比較的海水が綺麗なところはすでに開発が進んでおり、残されたのは汚い海ばかりで、採算をとることがとても難しい案件が多くなっている」とのことだ。

下水処理水を加えてからの海水淡水化に光明

とはいえ、淡水が手に入りにくいかわりに海水は多くあるという国や地域においては、海水淡水化は生命線だ。なんとかランニングコストを低減し、採算ベースにのせられる新技術が求められる。山村准教授によると、そこに一番近いのが下水処理水と海水を半分ずつ混ぜて膜でろ過する方式だと言う。

Tuaspringでは、ハイフラックス独自のUF(限外ろ過)膜「Kristal」で前処理してから、RO(逆浸透)膜でろ過している。この方式ではろ過時に海水に高い圧力をかけなければならないため、動力にかかるコストが運営コストの半分になることもあるという。また、ろ過後には塩分が濃縮された排水が残り、それを戻すと海の塩分濃度が高まって生態系に悪影響を及ぼす。

下水処理水と海水を半分ずつ混ぜておくと塩分濃度が下がるので、40%ほど低い圧力でもRO膜でろ過できる。その分、コストは抑制でき、排水の塩分濃度も海水と同程度に抑えることができるという。この技術は日立製作所、東レ、新エネルギー・産業技術総合開発機構が開発したもので、南アフリカ共和国・ダーバン市で実証事業が行われている。

山村准教授は「海水淡水化に頼らない水循環を目指すのが第1、仕方なく海水淡水化しないといけないのであれば、できる限り綺麗な海で実施するのが第2、下水処理水と海水を半分ずつまぜて膜ろ過するのが第3の選択肢になるのではないか。また、今後は使用済みの膜の処分問題にも向き合うべきであり、我々の研究室では膜の再利用技術の開発を急いでいる」と指摘している。

(参照)
・ハイフラックス社サイト Tuaspring Integrated Water & Power Project, Singapore
・新エネルギー・産業技術総合開発機構サイト 海水淡水化と下水処理技術の融合で、エネルギーやコストを大幅削減
・日立製作所ニュースリリース 南アフリカ共和国における海水淡水化・水再利用統合システム「RemixWater」の実証事業開始について