<経営トランスフォーマー>4人目:間山一典 上下水道コンサルの再定義で赤字からのV字回復

日水コン 壁を壊し、地域に根差す

IoT・デジタル化、脱炭素、 SDGs 、コロナ、人口減少、整備時代の終焉など、世の中に見られるいくつかのトレンドが各社の経営にどのような影響をもたらすのか、その影響を見据えて各社はどう経営戦略を変革(トランスフォーメーション)するのか。新連載「経営トランスフォーメーション」では、経営の変革に挑む経営トランスフォーマー達へのインタビューを通してインフラ事業の羅針盤を示す。
月刊下水道とのコラボ連載です


【連載】経営層シリーズインタビュー<4人目>日水コン 間山一典社長

株式会社日水コン
間山一典社長

日水コンは1996年から13年もの間、業績が下落し続ける苦しい時代を過ごした。2009年に初の赤字を経験した時には、売上高は全盛期の6割以下の約150億円にまで落ち込んでいた。しかし、2020年までに売上高205億円、営業利益13億円へとV字回復に成功。上下水道コンサルタントの中では売上高が200億円を超え、最大手の名にふさわしい活躍を見せている。「復活」を手繰り寄せた経営トランスフォーメーションを間山社長に伺った。


この記事のコンテンツ

■業績が悪くてもリストラしなかったワケ
■BtoGからの多角化で慣れ親しんだ業態から脱皮
■日揮グローバルと提携しBtoB市場にも参入
■海外本部を廃止した真意
■地域に根差し、ビジネスと雇用を育みたい


業績が悪くてもリストラしなかったワケ

 「2年前にコロナ禍になってから『我が子がリストラされるのでは?』と親族が心配している新入社員がいるかもと思い、売上が下がり続けた時期も、赤字期も、ずっとリストラをせずに乗り切ってきた、だから安心してほしい、と新入社員研修で話をしました」

そう言って、間山社長は1つのグラフ(図1)を見せてくれた。登って下がってまた登る乱高下する要素と、それほど大きな変化がない要素が重なり合うこのグラフは、同社が経験した経営の「底」と「復活」の道程を如実に物語っている。

図1 売上高・営業利益・役職員数の推移(資料提供:日水コン)

乱高下する要素は、売上高であり、利益率である。これらに対し、大きな変化がない要素が役職員数である。売上が減ってもリストラしなかった証、そして、同社がヒトを大切にしてきた証である。

 「なんといってもヒトが資産です。リストラすれば、良い人材ほど辞めてしまう。だからリストラではなく、賞与を削ったり、経費を節減したりして乗り切りました」

1996年に売上高255億円、営業利益17億円をたたき出したものの、そこをピークに業績は一気に落ち込んでいく。底となった2009年には売上高がピーク時の6割ほどの148億円まで下がり、3億円の赤字を計上した。

当時は民主党政権下で公共事業が悪者扱いされ、国の予算もがんがん減らされた時期だ。同社の業績は国の建設投資(土木・政府)と面白いようにシンクロして低迷した。

しかし、そこから一気に業績はV字回復。2020年の売上高は205億円と20年ぶりに200億円を超えた。のみならず着目すべきは、営業利益率の大幅な改善だ。同程度の売上高であった20年前の2002年度と比べると、営業利益率は3%から7%へと倍以上となり、14億円の営業利益を確保した。

業績が苦しかった時期に役職員数は若干減っているが、これはリストラではなく採用を減らしたため。日水コンを働く場として選んでくれた社員をリストラしない。その思いで大切にしてきた「人財」が盤石な経営基盤となり「復活」につながったことは間違いない。

BtoGからの多角化で慣れ親しんだ業態から脱皮

業績回復の兆しは、2012年から見え始めた。その前年に発生した東日本大震災を受け、復興特需で大規模な復旧工事が相次いだ。安倍政権は国土強靭化を訴え、上下水道では経営戦略やアセットマネジメント計画の立案、広域化、水道ビジョンの策定など、全国各地でコンサルタントが関与する仕事が急増した。

国の建設投資(土木・政府)は2012年に底を打ってからは年々増加しており、2021年には24兆円をこえた。当時はそれら業務をこなすだけで目いっぱいだったという。

この頃から、国の建設投資の挙動にシンクロしていた同社の売上高が、良い方向にズレ始める。国の建設投資の伸びが緩やかであるのに対し、同社の売上高はかなり急に拡大した。営業利益はさらに急騰だ。このズレを生んだところにこそ、同社の経営トランスフォーメーションがある。

なにがズレを生んだのか。その要因を、間山社長は端的にこう述べた。

「多角化です。我々の仕事はここまでと自らタガをはめることはないと思う」

上下水道コンサルタントは、国や地方自治体から設計や計画策定などの業務を受託し、公共事業の官側に寄り添って仕事をするBtoGビジネスである。だから、国の建設投資と売上高の挙動がシンクロするのだ。その方程式が、多角化によって良い意味で崩れた。

「これまでBtoGでは官側の立ち位置でしたが、PPPでは民間コンソーシアムに参画するなど、民側の立ち位置でも仕事をするようになりました。上下水道施設を設計するだけではなく、運営する側にもなったんです」

多角化とは、慣れ親しんだ業態からの脱皮でもある。

「ただし、同じ会社内に官側の立ち位置で仕事をする社員と、その官から発注された仕事を民側の立ち位置で受託する社員がいるというのは、利益相反が懸念され、コンプライアンス的にもあるべき姿ではありません。そのため、2021年に組織を変更し、官側の部署と、民側の部署を明確に分離しました」

日揮グローバルと提携しBtoB市場にも参入

多角化はそれだけではない。BtoB、つまり民間企業からの仕事を受託する民需市場にも乗り出した。2021年4月、総合エンジニアリング企業である日揮グローバルと、海外における水インフラ分野に関する業務提携を締結したのだ。

日揮グローバルは、工業団地の整備など海外市場で活躍する。そのすべての現場で、排水処理や給水設備が不可欠だ。そこを、日水コンが担う。

BtoBは自分で仕事を作っていかないといけない。本当のビジネス、大人のビジネスという感じがします」

BtoGのビジネスモデル改革、さらにBtoBという新規事業への参入。そして、それを支える組織と、実現する人財。これらによって「復活」が成し遂げられた。

海外本部を廃止した真意

2020年に久しぶりに売上高200億円を超えた。2025年の目標は売上高225億円だ。次はどのような経営トランスフォーメーションで臨むのか。その種を、2021年に行った組織変更に見ることができる。注目したいのは、海外本部をなくしたことだ。

国内では上下水道インフラがほぼ整備され、作る需要がなくなり、人口も減少するため、海外市場に打って出るべきだという声は多い。同社はその逆張りを行く。

「以前から国内と海外を分ける意味はないんじゃないかと思っていましたが、コロナの影響で海外で仕事がやりづらくなって、さらにその思いが強まりました。グローバルな活動は必要ですが、それは海外の仕事をすることではなく、社員ひとりひとりのネットワークがグローバルであることではないでしょうか。

頼まれて仕事をする、その先がたまたま海外だというだけ。その地域に根差して仕事をすればいいわけですから、国内と海外を切り分ける必要はない。だから、国内と海外の組織の壁を壊したんです」

組織変更では、BtoGの官側を担当する「コンサルティング本部」、営業を担う「地域統括本部」、BtoGの民側、民需や新規事業を担う「インフラマネジメント本部」、管理部門の「コーポレート本部」の4本部体制とした。このうち、地域統括本部とコンサルティング本部、インフラマネジメント本部には、海外担当と国内担当が混在する。

「国内市場がシュリンクするから、海外市場に成長戦略を求める。そういう考え方では元気が出ませんよ。社員ひとりひとりの知識や経験を活かせる場所を探すことが重要で、それが国内でもいいし、海外でもいい。そこがフロンティアなんですよ。

自分の故郷を元気にする、と考えたほうがやる気が出るでしょう。海外と国内の壁がなくなれば、国内外の情報が共有されて、新しい発想が生まれる可能性も高まります」

2025年を目標年度とする中期経営計画には、3つの戦略が書かれている(図2)。「壁を超える」「地域に根差す」「足元を固める」。国内だとか海外だとかにとらわれず、壁を超え、どこでもいいから各自が「自分ならでは」を活かせる地域を見つけ、そこに根差して仕事をする。そのために組織変更で足元を固めていく。

図2 中期経営計画2025 計画体系(方針・戦略)(資料提供:日水コン)

同社もそうだが、上下水道コンサルタントは東京に本社を置く会社が多い。地方で仕事をする時は、ともすれば落下傘のように突然やってきて、期間が終われば帰っていく“地元以外の人“という見方をされることがあるという。

「東京から地方や海外に行って短期間だけ仕事をして、稼いで、引き上げる。これでは地域がやせ細ります。地域に根差し、地域で事業を起こし、インフラを守る仕組みを作ることが、これからのコンサルタントの仕事だと思います」

壁を超え、地域に根差す。海外本部廃止という選択からは、間山社長の本気度が伝わってくる。

地域に根差し、ビジネスと雇用を育みたい

地域に根差すための種まきも、着々と進んでいる。鹿児島高専とは、名産の荒茶が肥料代の高騰で売上が低迷しているという地域課題の解決に一緒に取り組んでいる(写真1)。下水汚泥と竹の間伐材から製造した肥料を活用するもので、2022年度「第49回環境賞」優秀賞(主催:国立環境研究所など)を受賞した。

写真1 鹿児島高専などと一緒に、下水汚泥由来の肥料で鹿児島県特産「荒茶」を栽培し、肥料費高騰と売り上げ減という地域課題の解決に取り組み、第49回「環境賞優良賞」(国立環境研究所等主催)を受賞した(写真は枠摘み調査の様子。写真提供:日水コン)

秋田県にかほ市では、学生や行政と協働して、水を切り口とした未来討論を進めている。(写真2)

写真2 秋田県にかほ市では学生や行政と協働して、未来型水循環都市にかほモデルの構築を目指した勉強会に取り組んだ(写真提供:日水コン)

2020年には、日水コン水インフラ財団を設立した。水に関する市民活動や研究などに助成するもので、小学生が取り組む環境学習のような小さな活動も対象とする。

 「当社だけでは活動する地域は限られます。ですから財団が地域活動を見つけ出すという意味もある。ゼロを1にするのが財団で、1を10にするのが日水コン。小さくてもいいから地域に新規ビジネスと新規雇用を生み出していきたいのです」

地域のコーディネーターということですか、との問いは秒殺された。

 「その言い方は偉そうですよ。まず地域に入って、地域に認められることから。そのためには、長い時間がかかるでしょう。

“地域に根差す”と言うのは簡単ですが、ある種の覚悟が求められます。それは、その地域から逃げない、引き揚げないという覚悟です。『そこに墓を買えば信用されるかも』なんて言う社員もいますよ。それくらいの覚悟が必要なんです」

今、地域にまいている種が芽吹き、花を咲かせるのはいつのことか。

 「10年はかかるかもしれませんね。花が咲かないかもしれない。本業が好調な今なら、時間もさけるし、失敗もできる。この5年間で、東京のコピーではない地方のやり方をデザインし、足元を固めたいと思っています」

上下水道コンサルタントは、設計や計画をする会社というイメージが強かった。確かにこれまでは、そうだったかもしれない。日水コンは今、そのイメージを脱ぎ捨てようとしている。つまり、上下水道コンサルタントの仕事が変わるということですか、との問いもまた秒殺された。

 「もともとコンサルタントとは〝相談する人〟〝座して、議論して、共感を得る〟が語源で、その本質は〝共に問題を解決する〟ことにあります。地域に座り、地域の人と話をし、一緒にやっていく。日水コンが掲げる経営戦略は、もともとのコンサルタントのあり方に戻ろうということです」

上下水道コンサルタントの仕事が変わるわけではなく、そのあり方を再定義するということだ。その先に描かれる未来を見てみたい。