民間人による宇宙旅行が相次いだ2021年。日本でもZOZO創業者の前澤友作さんが国際宇宙ステーション(ISS)に12日間滞在して大きな話題を呼びました。少しだけ「宇宙への旅」が身近に感じられるようになった今、Water-n的に気になるのが、宇宙での「水事情」。日本政府全体の宇宙開発利用を技術面で支える、JAXAの有人宇宙技術部門・松本聡さん、吉岡奈紗さんに、宇宙での水循環について教えていただきました!
(本記事は本サイトを運営する一般社団法人Water-nが発行する冊子「Water-n」vol.11(2022年1月発行)から転載したものです)
松本さん「人間が生きていくためには呼吸、水、食事が必要ですよね。そして水は汗や尿、水蒸気などになって出ていきます。
もちろん宇宙での滞在に際して、水は地上から持っていきますが、これをできるだけISS内で循環させていこうという技術を、私たちは研究開発しています。地上からの水補給量を削減できれば、将来の宇宙での活動の幅が広がります。
同時に、水は人間の生命維持の根幹をなすものですから、信頼性の高いシステムを開発しなければいけません」
吉岡さん「私たちが研究開発しているのは、再生型の環境制御・生命維持システム。つまり一度人間から出たものを再利用できるようにすることです。そのシステムは、大きく分けて〝空気再生システム〟〝廃棄物処理システム〟〝水再生システム〟の3つ。
空気再生システムは、二酸化炭素を取り込んで酸素を提供するもの。
廃棄物処理システムは、尿や便の中の水を取りだして、水再生システムに提供します。
水再生システムは尿と凝縮水(蒸発した汗や呼気中の水蒸気を結露させて水にしたもの)を飲み水にしていきます。凝縮水は、UV殺菌などで殺菌しつつ、酸化処理により有機物を分解しイオン成分を調整します。微生物の有無を確認しており、かなりきれいな飲み水になっていることが分かります。
尿もほぼ同じ流れですが、やはり有機物が多いので、より強い処理が必要です。尿の中にはカルシウム成分やマグネシウム成分が含まれますが、宇宙ではその量がさらに多くなるんです。
宇宙では骨の中のミネラル分が尿の中に溶け出しやすいことが原因だと思うのですが、まずは、このミネラル成分をカチオン交換という処理をして取り除きます。さらに電気分解、電気透析を経て飲料水レベルの水質に浄化できます。
便から取り出した水や、尿再生処理の際に出る水も、洗浄水として使うなど、できるだけ無駄のないようにするシステムを目指しています」
松本さん「この凝縮水・尿再生システムは現在大型冷蔵庫2個分という大きさですが、1個分ぐらいの大きさまで小さくすることを目標としています。
また、設備の大きさとともに大事なのが、再生率の向上です。現状ISSで使用しているNASAのシステムは、再生率75~80%ほどで動いているそうですが、今後は、凝縮水・尿再生を合わせて98%ぐらいを目標としていきたいと考えています。将来は月面、火星とさらに遠くの探査を行うことになりますから、持って行く水の量は出来る限り少なくできた方がいいことが多くなります。
また、この水再生システムは地上運用も視野に入れています。干ばつ地域の水問題や、災害時の水不足などの解決にも利用していけるのではないかと期待されている技術でもあるんです」